零落おちぶれ)” の例文
不埒ふらちならずやこそ零落おちぶれたれ許嫁いひなづけえんきれしならずまこと其心そのこゝろならうつくしく立派りつぱれてやりたしれるといへば貧乏世帶びんぼふじよたいのカンテラのあぶら
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
詰らん女を連れて行っては親類では得心しませんが、是はこう/\いう武士さむらいの娘、こういう身柄で今は零落おちぶれて斯う、心底しんていも是々というので
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
じつ、私も困りきっているに違いないけエど、いくら零落おちぶれても妾になぞ成る気はありませんよ私には。そんな浅間しいことが何で出来ましょうか。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
爲しつゞ現在げんざい弟の千太郎の事を思ひて紙屑かみくづかふと迄に零落おちぶれても眞の人に成んと思ひ赤心こゝろの誤よりもいきの根の止たを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
彼は親戚を有せぬでもなかったが、彼の家の富裕であった時こそ親戚ではあったけれど、一旦彼が零落おちぶれの身になってから、誰一人彼を省みるものはなかった。
愛か (新字新仮名) / 李光洙(著)
ますさんがどうしてそんなに零落おちぶれたものか私には解らない。何しろ私の知っている益さんは郵便脚夫であった。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おれも士族の零落おちぶれ親父おやじが、何か見るところがあったか、百姓の家へもらわれて行くところだったんだ。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私は以前奉公人を沢山使って台所へなんぞ出た事がありませんのに亭主が損をして零落おちぶれましてからも娘を女郎に売るまでは万事娘任せで何にもした事がありません。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
或者は代言人だいげんにんの玄関番の如く、或者は歯医者の零落おちぶれの如く、或者は非番巡査の如く、また或者は浪花節なにわぶし語りの如く、壮士役者の馬の足の如く、その外見は千差万様なれども
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
床の間にはんな素人しろうとが見てもにせと解り切つた文晁ぶんてう山水さんすゐかゝつて居て、長押なげしにはいづれ飯山あたりの零落おちぶれ士族から買つたと思はれる槍が二本、さも不遇を嘆じたやうに黒くくすぶつて懸つて居る。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
母「おゝ、清次か、おゝ/\まアどうもまア、思いがけない懐かしい事だなア、此様こんな零落おちぶれやしたよ、恥かしくってあわす顔はございやせんよ」
つとめられし大橋文右衞門殿が今日けふは一文二文の袖乞そでごひを致しらるゝとは餘りなる零落おちぶれやうさても/\笑止せうし千萬なることなりどうかなして昔年の恩報じに當時の難儀を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あゝいう芸者などには似合わぬ者とおめなすったが、是も孝行の徳だ、私は又んな姿になるまで零落おちぶれました
つき嗚呼あゝむかし神田に居る時は我が家がかくにぎはしかりしが世が世なればとてわづかの間に此樣に零落おちぶれるも前世よりの約束事成べし夫に付ても此の家に縁付えんづきしお粂殿是程の身代しんだいに在ながら一人の母さまの貧苦ひんく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
到頭あんなに零落おちぶれてしまったんですが、それでもお嬢様があゝって彼様あんなに親孝行をなさるんですよ、だがあんな扮装なりをして入らしっても透通すきとおるようない御器量で
と出すのを見ると元小兼の主方しゅうかたの娘で、本多長門守様の御家来岩瀬なにがしと申し、二百石を頂戴した立派な所のお嬢様で何う零落おちぶれてこんな葭簀張よしずっぱりに渋茶を売って居るかと
零落おちぶれてしまうんだよ、御浪人になるんだよ、それだから私がいて行かなければならない、仮令たとえ私が御免をこうむると云ってもお前が己が若ければお供をしてくとこだが
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
痩せても枯れても遠山龜右衞門のむすめじゃアないか、幾許零落おちぶれても、私は死んでも生先おいさきの長いお前が大切で私は定命じょうみょうより生延びている身体だから、私の病気が癒ったって
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あの人があんな門付に出るまで零落おちぶれるということはない筈、あゝおそろしや/\又も狸か狐にだまされた日にゃア、再び伯父様に顔合せることが出来ないというもの、それにしても訝しい
実は殿様が日頃おめなさる此方こちらの孝助殿、あれは忠義な者で、以前はしかるべき侍のたねでござろう、今は零落おちぶれて草履取をしていても、こゝろざしは親孝行のものだ、可愛かわいいものだと殿様がお誉めなされ
ふみ「はい、零落おちぶれまして車をいて居りました」
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)