ろう)” の例文
「横浜開港五十年史」はこれを引いて正弘をろうとしてゐるが、渡辺修次郎さんは「川路聖謨之生涯」を引いてこれを反駁した。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
わたくしは芸林に遊ぶものの往々社を結び党を立てて、おのれくみするを揚げ与せざるを抑えようとするものを見て、之を怯となし、ろうとなすのである。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それは愚人小児の喜ぶところであっても、大人君子の見てろうとするところのものである。然るに崇厳なる神典にはかかる荒唐不稽の談のあることを許さぬ。
神代史の研究法 (新字新仮名) / 津田左右吉(著)
かつや人の常情、敗れたる者は天のめいを称してたんじ、成れる者は己の力を説きて誇る。二者共にろうとすべし。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
しかるにかかる者の語の言葉尻ことばじりを捉えて是非の批判を下すは何のろうぞと責めたのである。友人らはヨブの言語の表面の意味のみを見てその誤謬ごびゅうをたださんとする。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
南陽の諸葛しょかつ西蜀せいしょく子雲しうんが亭、何のろうかこれあらんという事もあります。それに御掃除が行届いていて大層お綺麗きれいです。此方こちらにははいがおらんで何より結構ですね。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
かくのごとき場合にはやっつけたと思う心ははなはだろうかつ小であって、先方をこまらす動機を示すのみで、はたして自分の言が有効であったかを保証するものでない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
私は秉公持平説を口にする寺内、後藤二氏が憲政会ばかりを政権争奪者として悪罵し、政友会を専ら誠意に富んだ政党であるかの如く曲庇きょくひした偏頗へんぱ沙汰さたろうとします。
選挙に対する婦人の希望 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
一も二も三も必ず特殊の能力には相違なかろうが、すでに一となり、二となり、三となったあかつきには、拖泥帯水たでいたいすいろう遺憾いかんなく示して、本来円満ほんらいえんまんそうに戻る訳には行かぬ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もし取り柄に近いものを挙げれば、この自ら偽るのろうを敢てしなかつたことばかりである。
僻見 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
近代の御伽百物語おとぎひゃくものがたりの徒に至りてはそのこころざしやすでにろうかつ決してその談の妄誕もうたんにあらざることを誓いえず。ひそかにもってこれと隣を比するを恥とせり。要するにこの書は現在の事実なり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
さて、又一方、ゾラ先生の煩瑣はんさなる写実主義、西欧の文壇に横行すと聞く。目にうつる事物を細大らさず列記して、以て、自然の真実を写し得たりとなすとか。そのろうや、わらうべし。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
無用の物がえて、有用の物を取られてしまうという心配の愚なことを解釈し、日本国中の学者先生がたいがい残らず海防策というものを書いて、頭から外国人を盗人に見てかかるのろうを笑い
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
山の俗化に名をりて、一般の登山者を排しようとするのは、寧ろろうとす可きであると共に、登山の民衆化を口実として、目前の利益の為に自然を破壊するが如き行為は、厳にいましむ可きものである。
冬の山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
これを文としてることをゆるす人でも、古言をその中に用いたのを見たら、希世きせいの宝が粗暴な手によってこぼたれたのを惜しんで、作者をろうとせずにはいぬであろう。
空車 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
唖々子は英語の外に独逸語ドイツごにも通じていたが、晩年にはもっぱら漢文の書にのみ親しみ、現時文壇の新作等には見向きだもせず、常にその言文一致のろうなることをいきどおっていた。
梅雨晴 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
前半は巵酒ししゅ 歓楽、学業の荒廃を致さんことを嘆じ、後半は一転して、真楽の自得にありてそとに待つ無きをいう。伯牙をろうとして破琴をあわれみ、荘子そうじを引きて不隠ふいんを挙ぐ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
近代の御伽おとぎ百物語の徒に至りてはその志やすでにろうかつ決してその談の妄誕まうたんにあらざることを誓ひ得ず。ひそかにもつてこれと隣を比するを恥とせり。要するにこの書は現在の事実なり。
遠野物語 (新字旧仮名) / 柳田国男(著)
馬琴は改名主あらためなぬしの図書検閲が、ろうを極めてゐる例として、自作の小説の一節が役人が賄賂わいろをとる箇条のあつた為に、改作を命ぜられた事実を挙げた。さうして、それにこんな批評をつけ加へた。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
十分じゅうぶんで事足るべきを、十二分じゅうにぶんにも、十五分じゅうごぶんにも、どこまでも進んで、ひたすらに、裸体であるぞと云う感じを強く描出びょうしゅつしようとする。技巧がこの極端に達したる時、人はその観者かんじゃうるをろうとする。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
巍の言にいわく、我が高皇帝、三代のこうのっとり、嬴秦えいしんろうを洗い、諸王を分封ぶんぽうして、四裔しえい藩屏はんぺいたらしめたまえり。しかれどもこれを古制に比すれば封境過大にして、諸王又おおむ驕逸きょういつ不法なり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
馬琴は改名主あらためなぬしの図書検閲が、ろうを極めている例として、自作の小説の一節が役人が賄賂わいろをとる箇条のあったために、改作を命ぜられた事実をげた。そうして、それにこんな批評をつけ加えた。
戯作三昧 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
人若しその道聴途説だうていとせつろうを咎むることなくば幸である。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)