銀杏返いてふがへ)” の例文
そこの長火鉢の前には、銀杏返いてふがへしの變に青つぽく光る羽織をだらりと引つ掛けた女が、いぎたなく坐つて卷煙草をふかしてゐた。
天国の記録 (旧字旧仮名) / 下村千秋(著)
それは油気のない髪をひつつめの銀杏返いてふがへしに結つて、横なでの痕のあるひびだらけの両頬を気持の悪い程赤く火照ほてらせた、如何にも田舎者ゐなかものらしい娘だつた。
蜜柑 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
私とは少し斜向はすかひになつて居るので、眼を開けると水々しい結ひ立ての銀杏返いてふがへしに赤い手柄をかけたのが二つ相寄つて枕の上に並んだのが灯のなかに見えて居る。
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
ですから最も初めに楠さんと逢ひました時の私がおけし頭であつたのに比べて楠さんは大きい銀杏返いてふがへしにもつて居ました。楠さんは裁縫科の生徒だつたのです。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
せいたかいのは、きはめて、ひんつややかな圓髷まるまげあらはれる。わかいのは時々より/\かみちがふ、銀杏返いてふがへしのときもあつた、高島田たかしまだときもあつた、三輪みつわふのにつてもた。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ズツと頭巾ずきんを取るととしころは廿五六にもなりませうか、色の浅黒あさぐろい髪の毛の光沢つやいちよいと銀杏返いてふがへしにひまして、京縮緬きやうちりめん小紋織こもんおり衣類いるゐうへには黒縮緬くろちりめんの小さいもんつい羽織はおり
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
それは油氣あぶらけのないかみをひつつめの銀杏返いてふがへしにつて、よこなでのあとのあるひびだらけの兩頬りやうほほ氣持きもちわるほどあか火照ほてらせた、如何いかにも田舍者ゐなかものらしいむすめだつた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
のちに——丸山まるやま福山町ふくやまちやうに、はじめて一葉女史いちえふぢよしたづねたかへぎはに、えりつき、銀杏返いてふがへし、前垂掛まへだれがけ姿すがたに、部屋へやおくられてると、勝手元かつてもとから、島田しまだの十八九、色白いろじろで、のすらりとした
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
が、小娘は私に頓着する気色けしきも見えず、窓から外へ首をのばして、闇を吹く風に銀杏返いてふがへしのびんの毛をそよがせながら、ぢつと汽車の進む方向を見やつてゐる。
蜜柑 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
が、小娘こむすめわたくし頓著とんぢやくする氣色けしきえず、まどからそとくびをのばして、やみかぜ銀杏返いてふがへしのびんそよがせながら、ぢつと汽車きしやすす方向はうかうやつてゐる。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)