辮髪べんぱつ)” の例文
この形や、脂じみているところなどから見ると、明らかにあの水夫たちの好んでやる長い辮髪べんぱつを結わえるのに使っていたものだよ。
辮髪べんぱつを自慢そうに垂らして、黄色の洋袴ズボン羅紗らしゃの長靴を穿いて、手に三尺ほどの払子ほっすをぶら下げている。そうして馬の先へ立ってける。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
前額に二、三寸にくしけずれる程の髪を残してあとは丸坊主の子、辮髪べんぱつ風に色の布で飾ったお下げを左右に残すもの、或は片々だけに下げているもの。
中支遊記 (新字新仮名) / 上村松園(著)
又、赤黒い色の支那服を着て、支那の帽子をかむり、態と長い辮髪べんぱつを垂れた男が、どうやら井上らしくも見えます。
覆面の舞踏者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
二十分ののち、村の南端の路ばたには、この二人の支那人が、互に辮髪べんぱつを結ばれたまま、枯柳かれやなぎの根がたに坐っていた。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おもしろい丸帽をかぶり、辮髪べんぱつをたれ下げ、金入れらしい袋を背負しょいながら、上陸する船客を今か今かと待ち受けているようなシナ人の両替商りょうがえしょうもある。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ラプンツェルをれてったおな夕方ゆうがた魔女まじょはまたとううえ引返ひきかえして、った少女むすめ辮髪べんぱつを、しっかりとまど折釘おれくぎゆわえつけてき、王子おうじ
そのチャンチャン坊主の支那兵たちは、木綿もめん綿入わたいれの満洲服に、支那風の木靴きぐつき、赤い珊瑚さんご玉のついた帽子をかぶり、辮髪べんぱつの豚尾を背中に長くたらしていた。
で、その辮髪べんぱつの上に美しき珊瑚珠さんごじゅ及び緑玉瑜りょくぎょくゆの混ぜ合せになって居る飾りをごく可愛らしく列べるのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
辮髪べんぱつの先に長いふさのついた絹糸を編み込んで、歩くたびにその総の先が繻子しゅすの靴の真白なかかとに触れて動くようにしているのを見て、いかにも優美繊巧せんこうなる風俗だと思った。
十九の秋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
続いて場内を真っ暗に、辮髪べんぱつの支那人姿となって現れ、その辮髪の先へ湯呑み茶碗の中へ蝋燭ろうそくを立てて灯を点したのを結びつけると、四丁目の合方おもしろく、縦横自在に振り回した。
随筆 寄席囃子 (新字新仮名) / 正岡容(著)
図507はT夫人で、前から持って来た細い辮髪べんぱつには、漆の櫛が横にさしてある。
それはナポレオン金貨ではなく、王政復古のごく新しい二十フラン金貨であって、表には月桂冠げっけいかんの代わりに、プロシア式の小さな辮髪べんぱつが刻んであった。コゼットは目がくらむような気がした。
上の台は、尋常に黒くいたし、辮髪べんぱつとか申すことにて、一々蕨縄わらびなわにてぶらぶらと釣りさげ候。一ツは仰向き、一ツは俯向うつむき、横になるもあれば、縦になりたるもありて、風の吹くたびに動き候よ。
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
その秀才たちは、辮髪べんぱつを頭のてっぺんにぐるぐる巻にして、その上に制帽をかぶっているので、制帽が異様にもりあがって富士山の如き形になっていて、甚だ滑稽こっけいと申し上げるより他は無かった。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
しかし明治のはじめに男子が髪を斬ったのは、独逸ドイツ十八世紀のツォップフが前に断たれ、清朝しんちょう辮髪べんぱつのちに断たれたと同じく、風俗の大変遷である。然るに後の史家はその年月を知るにくるしむかも知れない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
辮髪べんぱつには、君、一度もならなかったのかい。
これはきれの様子と油染みた所とから見ると、水夫が辮髪べんぱつを縛る紐らしい。それにこの結玉を見給へ。これは水夫でなくては出来ない結方だ。
肋骨君は支那通だけあって、支那の事は何でも心得ている。あるとき余に向って、辮髪べんぱつまで弁護したくらいである。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それが右からも左からも、あるいは彼の辮髪べんぱつはらったり、あるいは彼の軍服を叩いたり、あるいはまた彼の頸から流れている、どす黒い血を拭ったりした。
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
こうって、魔女まじょはラプンツェルのうつくしいかみつかんで、ひだりへぐるぐるときつけ、みぎ剪刀はさみって、ジョキリ、ジョキリ、とって、その見事みごと辮髪べんぱつ
ちょんぎられた辮髪べんぱつの頭が、風船玉の様に空高く飛上っている所や、何とも云えない毒々しい、血みどろの油絵が、窓からの薄暗い光線で、テラテラと光っているのでございますよ。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一人の女の子が車室の戸の所に立って外を眺めている所を、急いで写生した(図163)。頭のてっぺんの毛を剃った場所と、小さな辮髪べんぱつがその後にくっついている所とに、お目をとめられ度い。
マルガレエテ辮髪べんぱつを編み結びなどしつゝ。
しかしそのほかにも画面の景色は、——雪の積った城楼じょうろうの屋根だの、枯柳かれやなぎつないだ兎馬うさぎうまだの、辮髪べんぱつを垂れた支那兵だのは、特に彼女を動かすべき理由も持っていたのだった。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
我々のような平和を喜ぶともがらはこの車に乗っているのがすでに苦痛である。御者はもちろんチャンチャンで、油にほこりの食い込んだ辮髪べんぱつを振り立てながら、時々満洲の声を出す。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
胡麻塩の辮髪べんぱつ、白の大掛児タアクワル、顔は鼻の寸法短かければ、何処か大いなる蝙蝠こうもりに似たり。
北京日記抄 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あいつは喧嘩をしているうちに、酔っていたから、訳なく卓子テエブルと一しょにほうり出された。そうしてその拍子に、創口がいて、長い辮髪べんぱつをぶらさげた首が、ごろりと床の上へころげ落ちた。
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
初々うひうひしい薔薇色の舞踏服、品好く頸へかけた水色のリボン、それから濃い髪に匂つてゐるたつた一輪の薔薇の花——実際その夜の明子の姿は、この長い辮髪べんぱつを垂れた支那の大官の眼を驚かすべく
舞踏会 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)