辣腕らつわん)” の例文
分けや丸、半玉と十余人の抱えのかせぎからあがる一万もの月々の収入も身につかず、辣腕らつわんふるいつくした果てに、負債で首がまわらず
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
だがさすが大藩だけに、宇喜多家との交渉は黒田官兵衛の辣腕らつわんをもって必死に働きかけても、まだ容易に、成功を見るには至らなかった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんな辣腕らつわんたちちがつても、都合上つがふじやう勝手かつてよろしきところくるまへるのが道中だうちう習慣ならはしで、出發點しゆつぱつてんで、とほし、とめても、そんな約束やくそくとほさない。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼らの衣裳道楽に呆れるよりも、宣教師と結托したミシン会社の辣腕らつわんに呆れる方が本当なのかも知れないが、とにかく、驚くべきことである。
「するとつまり、辣腕らつわんなんですな」保馬はそう云って調書を見まわした、「——だいぶ出揃でそろったが、そろそろ役所のほうと突合せにかかるかな」
いしが奢る (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
色の青い、小柄な中老人だが、辣腕らつわんな商人として鳴りひびいた男である。金壺眼の奥に、ずるそうな淀んだ光が沈んでいる。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
馬鹿にするない冗談じょうだんじゃねえという発憤の結果が怪物のように辣腕らつわんな器械力と豹変ひょうへんしたのだと見れば差支さしつかえないでしょう。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
友禅縮緬ちりめん真赤まつかな襦袢一枚にこてこてとした厚化粧と花簪はなかんざしに奇怪至極の装飾をこらし、洋人、馬来マレイ人、印度インド人に対して辣腕らつわんふるふものとは思はれなかつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
前にちょっとふれたように、光明皇后は不比等と橘三千代とのあいだにお生れになったのだが、この橘三千代は天平の背後に躍った稀代きだい辣腕らつわん家であった。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
二葉亭の伯父おじで今なお名古屋に健在する後藤老人は西南の役に招集されて、後に内相として辣腕らつわんふるった大浦兼武おおうらかねたけ(当時軍曹)の配下となって戦った人だが
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
又は槓杆てこでも動かぬ長尻の訪客を咄嗟の間に紙片のように掃き出してしまうという辣腕らつわん家が時あってか出頭して、人天の眼を眩ぜしむるには驚かされるのである。
謡曲黒白談 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
北部と南部と両方ともを奴隷にする、するどく辣腕らつわんな親方がそんなに多くいるのに。南部の親方をいただくことはつらいことであるが、北部のそれをもつことは一層わるい。
彼が職にる、いまだ二年に満たず、しかれどもその険胆辣腕らつわんは、実に天下を震動せしめたり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
金座の御金改役後藤庄三郎の片腕と言われた利け者で、元は吹屋町ふきやちょう手前吹てまえぶきをしておりましたが、後、後藤庄三郎の配下になって、その辣腕らつわんを勘定奉行に認められていたのです。
これはいづれも数語の中に一事件の起る背景を描いた辣腕らつわんを示してゐるものであります。
文芸鑑賞講座 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
大戦当時のフランスの密偵局に、ドイツのスパイ団をむこうにまわして智慧競ちえくらべを演じ、さんざん悩ました辣腕らつわん家に「第二号」と称する覆面ふくめんの士のあったことはあまりに有名だ。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
いかに八重梅が辣腕らつわんでも、そうそう成功するものか、などとおっしゃることもあって、実はご立腹でも何んでもないので、それはとにかく今度のご用は、大したことでもございません。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
辣腕らつわん剽悍ひょうかんとの点においては近代これに比肩ひけんする者無しとたんぜられているひと。
人造人間殺害事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
こう云う文士はぜひとも上流社会と同じような物質的生活をしようとしている。そしてその目的を遂げるために、財界の老錬家のような辣腕らつわんふるって、巧みに自家の資産と芸能との遣繰やりくりをしている。
田舎 (新字新仮名) / マルセル・プレヴォー(著)
辣腕らつわんのきこえある松平左京之介が、二条城へ入れ代ったのは、ひッ腰の弱い公卿くげたちにとって、おそろしい脅威きょういであろう。まだいけない、機はほんとうに熟してはこない。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
金座の御金改役おかねあらためやく後藤庄三郎の片腕と言はれた利け者で、元は吹屋町で手前吹てまへぶきをして居りましたが、後、御藤庄三郎の配下になつて、その辣腕らつわんを勘定奉行に認められて居たのです。
聞いて見ると、この歯医者の先生は、いまだかつて歯痛しつうの経験がないのだそうである。それでなければ、とてもこんなに顔のゆがんでいる僕をつかまえて辣腕らつわんをふるえる筈がない。
田端日記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
この男忠実にして信用すべき案内者なり」と云ふ様な証明や「ただし見掛によらぬ辣腕らつわんありと見え彼が妻は西洋人なり」とひやかしたものや、山内愚仙やまのうちぐせんいて与へた彼の顔の写生スケツチ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
私は叔父の財産を惜しいとも思わなければ、伊奈子の辣腕らつわんを憎む気にもなれなかった。あの真赤に肥った、脂肪あぶら光りに光っている叔父の財産が、小さな女の白い手で音もなくスッと奪い去られる。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
遣附やッつけましたな、いや外交家だ。辣腕らつわん辣腕。」
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「非常な辣腕らつわんだ」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
才気辣腕らつわんの臣をにわかに用いて、軽率けいそつふるきを破り、新奇の政をくは危ういもとを作ろう。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
外交記者中の辣腕らつわん、早坂勇の声が、切れ切れに聴えます。
音波の殺人 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「よいお年齢としをして、左様なことは口外なさるものではありませぬ。御房は辣腕らつわんな政略家とかねて聞え及んでおるが、御家中においてまで政治のお道楽はなさらぬがよろしかろう」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
実務家で辣腕らつわんで、重く見られている人物だった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)