身重みおも)” の例文
身重みおもな窪川いね子が小さいふくさ包をもって上落合の作家同盟の事務所の横にポンプ井戸がある、そのわきを歩いていた姿を思い浮べた。
一九三二年の春 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
段々月日が立ちますと、お照は重二郎の養子に来る前に最う身重みおもになって居りますから、九月の月へ入って五月目いつゝきめで、おなかが大きく成ります。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
今月も生み月になっているきさきが六人いるのですからね。身重みおもになっているのを勘定したら何十人いるかわかりませんよ。
青年と死 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
がさめてのちきさきは、のどの中になにかたくしこるような、たまでもくくんでいるような、みょうなお気持きもちでしたが、やがてお身重みおもにおなりになりました。
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
この女は以前両国辺のある町人の大家に奉公しているうちに、そこの主人の手が付いて、身重みおもになって宿へ下がって、そこで女の子を生んだのです。
私はかねて身重みおもになっておりましたが、もうお産をいたしますときがまいりました。しかし大空の神さまのお子さまを
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
夫人は先ず船中一の美人であろう。細っそりして、色が白い。身重みおもで、時にはおもやつれがして見えるが、そのせいか何かコケチッシュにも感じられる。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
彼女は其時已に六月むつき身重みおもであった。今年の春男子を挙げたと云うたよりがあった。今日のそのは実に突然である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「開業三周年を祝して……」と新吉の店に菰冠こもかぶりが積み上げられた、その秋の末、お作はまた身重みおもになった。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
わたしせつ身重みおもなんでございましたの……ですから、あさましいところを、おけますのがなさけなくつて、つい、引籠ひきこもつてばかりましたところなんですか、あのばん心持こゝろもち
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
すっかり素人しろうとふうになったお艶が、身重みおものからだを帯にかくして、常盤ときわ橋の袂にたたずんでいた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
始めて身重みおもになったのは、二人が京都を去って、広島に瘠世帯やせじょたいを張っている時であった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どうやらながらえてりましたのは、もなくわたくし身重みおもになっためで、つまりわたくしというものは、ただ子供こどもははとして、おしくもないそのそのおくっていたのでございました。
いささかなる小やみを見合はせ、かんじきとて深雪の上をわたるべき具を足に穿き、八海山の峰つづき、牛ヶ岳の裾山を過ぎるに、身重みおもにあれば歩むさへ、おのれが思ふにまかせざりけん
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
籠城と同時に、ここへ避難して将士と共にたてこもった無数の家族、老いたるも幼きも、女も、そして身重みおも妊婦にんぷまでが、ことごとく、防備の何かを手伝って、必死に働いているのである。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
石婦うまずめと呼ばれし者も身重みおもになりてはや六月むつきとなりぬ。
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
「ねえ、おふみさん。今あなたに出られてはうちはどうにもならなくなるんだよ。何しろ、嫁はあの通り体が弱い上に身重みおもだし、肝腎かんじんのきよ(女中の名)はぐずで間に合わないし、おまけに私の手はこんなのだからねえ……」
劉夫人は、現在身重みおもらしいんだ。
昨今横浜異聞(一幕) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
はじめて身重みおもになつたのは、二人ふたり京都きやうとつて、廣島ひろしま瘠世帶やせじよたいつてゐるときであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
皇后は、そのときちょうどお身重みおもでいらっしゃいました。宿禰すくねはそのおおせを聞いて
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
もし、わたしが身重みおもになったら、世間は何と言うでしょう……
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と海野は少し色解いろとけてどかと身重みおもげに椅子にれり。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
お前さんだから話すが身重みおもになっている——
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)