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「此処だということがどうしてわかった……」「おあとからいてまいりました、たぶん此処へいらっしゃるのだと思いまして……」
荒法師 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私までが幾度いくたびも幾度も引っ張り出されたが、今更となると、どうにも気恥かしいのだが、後からただいてまわるには蹤いてあるいた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
ポンと肩を入れる息杖いきづえ、同時に、七、八名の侍は各〻袂から黒布を出して覆面し、太刀の鍔下を握って、駕の前後に四人ずつ分れてく。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつの間にか、仲間が一人来る、二人いて来る、岩の上には、黒いピリオドが、一点、二点、三点——視線は一様に、鼠色のそれに向う。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
私達は多くこのうねりの痕にいて斜に登った。雪が溶けかかって表面が水気付いて来ると上滑りがするので、真直ぐに登るとこけやすい。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
植幸の女房の後からいて来たのは、十七八の娘、遠い灯に照されたところを見ると、そのまま薫風を残して闇に消え入りそうな美しさです。
監獄のなかへでものこ/\いて来るものなので、この二人の画家ゑかきがそれがために伯耆くんだりまで往つたところで、少しもとがめる事はない。
人はなさけの深みにどうしてもいてゆかねばならないように出来ていて、それをらすことができないようになっているものでございます。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
私は副部長の後からいて行く。一室に入る。三四人の若い医者がいる。加納副部長は、例の盤の中の妻の切り取られた筋肉を撮みながら、言う。
落日の光景 (新字新仮名) / 外村繁(著)
私は、母親をやり過しておいて、七、八間もおくれながら忍び忍びいてゆくと、幾つもある廻り角を曲ってだんだんこの間の家の方へ近づいて行く。
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
相手の一人がそう言って土堤どてを上った。もう一人は默ってそのあとにいた。次郎は二人を見送ったあとで、裸になって一人で着物をしぼりはじめた。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
ちょうどそのころ、アメリカの色彩映画『丘の一本松』が輸入された、大体、あの映画の水準に私たちのオルソ式色彩映画もいていったのであった。
色彩映画の思い出 (新字新仮名) / 中井正一(著)
その男は満洲を渡っているとき、人知れず苦力クーリーの背に封じ手を使ってみて、後からひそかにいて行くと、やはりぱったりとたおれたまま死んだという。
そうして眼につく美少女のジャネットが物慣れた様子で新吉を引張るようにして次に入って行くと彼等の中の二三人は物珍らしさにあとをけて入った。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
気配は感じられても姿を現さない尾行者にけられているような気持で、彼は独り河岸っぷちを歩いて行く。
狼疾記 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「顔は、この暗さで判らぬ。声も覚えはないが、わしと知って呼び止めた以上、けて来たのであろうか? 前から、忍んでおったのでは、判る理前が無い」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
泉原は半ば煙にかれたかたちで、すすめるまゝに相手の後にいていった。探偵の家は町はずれの丘の上に並んでいる小ぢんまりとした二階建の一つであった。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
それは朱の色の戸にぬいのある母衣ほろをかけたもので、数人の侍女がおとなしい馬に乗っていていた。
瞳人語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それからヒルベルトは、これから家へ帰るから、一緒にいて来いといわれるので、いて行った。
回顧と展望 (新字新仮名) / 高木貞治(著)
……それで、そのあとをけてきいているうちに、チッチョのあとへ、チョッピィと鳴いてくれたので、ああ、これは仙台虫喰せんだいむしくいだとわかって、安心して帰って来たのです
キャラコさん:06 ぬすびと (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ぞろぞろといて来た女や子供たちも、そうですかとは引き取ることが出来ないのだ。殿様が旅に出られることは後に残されるものにとってはなは心許こころもとない思いであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
僕は、体質上潜行に適しないので、捕鯨船の古物である一帆船パークにのって『ネモ号』というその潜船にいていったのです。すると、運の悪いことには半月あまりの暴風雨。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
沈約しんやくの『宋書』に檀和之だんわし林邑国を討った時林邑王象軍もて逆戦むかえたたかう、和之にいていた宗愨そうかく謀って獅の形を製し象軍に向かうと象果して驚きはしりついに林邑にったとある
よぼよぼのユダヤ人イサイチクが、石鹸一箇とその兎を交換しないかと言いながら、後からいて行く。黒いこうしが土間に見える。ドームナが肌着を縫いながら何やら泣いている。
グーセフ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
それで私と一緒に遊んでいた妹もベソをかきながら、私にいてきた。
戦争雑記 (新字新仮名) / 徳永直(著)
二人にいて外まで出た彼女の心は、興奮したまま朗かに澄み切った。
湖水と彼等 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
昨夜ゆうべはお友達も来ていましたからね。三人で花を引いて、いつまで待っていたか知れやしない。——私ぐんぐんいて行ってやればよかった。どんな顔して遊んでいるんだか、それが見たくて……。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
何ぴともそれが彼をあやまつところまで彼の守護神にいてった者はかつていない。その結果がかりに肉体的虚弱であったとしても、たぶん何ぴともその成りゆきが遺憾であるとはいえないだろう。
「さああの後にいて一同みんなも飛び降りるんだ。」
月世界跋渉記 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
水熊の板前善三郎が、迷惑そうにいている。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
私が下駄を穿いていて行きました。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
未納、いて行こうとする。
華々しき一族 (新字新仮名) / 森本薫(著)
ただ黙々といて歩く。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
井荻は後ろからいて来てあなたが旨く主治医さんに言い含めが出来る自信がおありなら、そう仰言ったらいいでしょう。
花嫁は自分の存在を証明するやうに、わざと邪慳に良人をつとかひなをとつた。発明家の花聟はひきずられるやうにいて往つた。
いて来たお冬は、あまりの怖ろしさに顔をそむけながらも、女の本能に還って、顔見知りの子供の名を呼んでおります。
私たちは紅い火焔菜の根をのひらにのせた場長さんの後にいて、濡れ雫の蝙蝠傘をすぼめすぼめ這入って見た。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
しかし、父が恭一をつれてさっさと土堤の方へ歩き出したのを見ると、彼も仕方なしにそのあとにいた。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
庄吉のけて行く人は、町家の旦那らしく、結城紬に、雪駄の後金を鳴らして、急いでいた。往来の人々は、誰も彼も不安そうに、急ぎ、口早に話し合っていた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
お宮も黙ってとぼとぼといて来ていたが、ふと月を見上げて『いい月だわねえ』と、いいながら真白い顔をこちらに振り向けた時には、まだ眼に涙を滲ませていて
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
余りいでたちが仰々しいので可笑しくなった。これで頂上まで僅に一里半しかない山に登るのだから誠に呆気ない。焦茶色の耳の立った小さな犬が二ひき、後からいて来る。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
「家中の男という男は、一人残らずトウベツに行っておる、間に合せの小屋がけをして、伐木に従事しておる、相田どのはそれを指図なされておる、——いてまいるか?」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
その跡をけてはるばるあの方が、『月長石ムーン・ストーン』のように追ってきたんじゃないかしら……。
人外魔境:10 地軸二万哩 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
自分のえられぬ苦しさを訴えたり、涙をこぼしたり、そうかと思うと、自分のあとをけて何かしら不潔ないとわしい、むさ苦しいものが、僧院にまで入り込んで来たような気がしたりした。
そこへも爺さんと婆さんはいて来た。
平山婆 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そんな折には早く絶念あきらめをつけて、物の半町とあとけないうちに横町よこまちへ逸れるなり、理髪床かみゆひどこへ飛び込むなりするがい。
いて來たお冬は、あまりの怖ろしさに顏を反け乍らも、女の本能に還つて、顏見知りの子供の名を呼んで居ります。
よしと籠ぐるみ受取ると、途中までお伴しておいもを買ひにまゐりますと鞄をかかへていて来る。何処の藷畑だと訊くと、蜜柑山のそばでございませうと云ふ。
蜜柑山散策 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「きみが木々の間を泳ぎまわりおじさんにいているあいだ、おじさんはきみを大事にしているんだ、きみは何処にでも匿すことが出来るし邪魔にはならない。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そうして水天宮すいてんぐう前の大きな四つつじ鎧橋よろいばしの方に向いて曲ると、いくらか人脚ひとあしが薄くなったので、頬を抑えながら後から黙っていて来たお宮を待って肩を並べながら
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)