よしみ)” の例文
よしみはあっても更に怨みというもののない拙者を討とうとするのも、多分、この辺から来ているのではないか、と僕は推量している。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さういふ人達は池田氏の景気のいゝ懐加減を聞くと、朋輩のよしみで幾らか立て替へて貰へるものと思つて、つい口をきり出してみる。
互に求め合い、思い合っていた血縁、愛人達、よしみの深い友達共が、はっと息災な眼を見合わせた刹那、思わずおとした一滴です。
対話 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
軍とよしみを通じている砂馬は、飛行機で往復しているらしかったが、俺はそうはいかなくて船だった。長崎から上海行きの船に乗りこんだ。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
平次と同年配で、日ごろ平次の腕や人柄に推服している喜三郎は、十手捕縄のよしみを超えて、平次に親しみを持っていたのです。
この人生れてより下二番町しもにばんちょうに住み巌谷小波いわやさざなみ先生の門人とは近隣のよしみにて自然と相識あいしれるがうちにも取りわけ羅臥雲らがうんとて清人しんじんにて日本の文章俳句を
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
彼は野山の獄中にありて、つねに象山に惓々けんけんたりき。彼は象山に対して師弟のよしみあるのみならず、知己の感すこぶる深かりき。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
それでもあんなに一緒に逃げたいというんだからひとつ皆も同じ竃の御飯を今日まで食べていたよしみででも連れていってやってはくれまいかと頼むと
時間 (新字新仮名) / 横光利一(著)
八年後に武塔神が再び訪れよしみに報いようと茅の輪をつくって兄の一家に帯びさせた。その年に疫病起って蘇民一家を残すほかの住民はみんな死んだ。
と、裴宣は切にひきとめ、次の日はまた、飲馬川の眺望をさかなとして、断金亭の楼台で、終日、送別の杯と、また義兄弟のよしみなどわされた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
毛利とよしみを通じて秀吉を挾撃して、之を倒せば天下の勢い我に帰すべしと、光秀は思ったに相違なく、そう思ったことをあまり無理だと云えないところもある。
山崎合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「蒲田の言ふ通りだ。僕等も中学に居た頃のはざまと思つて、それは誓つて迷惑を掛けるやうな事は為んから、君も友人のよしみを思つて、二人の頼を聴いてくれ給へ」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
親友のよしみをもって、蔭ながら君達二人を援助して来ただけだが、……いくらなんでも恥しいとは何だね? それで君、なにかね、石ノ上に対して申訳が立つと思うのかね?
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
はいって検分したさに勘次はむずむずしていたが、自分から頼むのは業腹ごうはらだった。その様子を見て取ったものか昔のよしみから三吉は、勘次を招じ入れて台所へ案内して行った。
関白秀次に仕えたのは、秀次の執事木村常陸介と、同門のよしみがあったからであった。
五右衛門と新左 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いやアがるのだ、手前てめえが殺さなけりゃア殺さねえでいやア、手前と己は兄弟分のよしみが有るから打明けて殺したと云やア黙って口をいて埋めるが、外に敵が有れば敵討だ、マア仏様を
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
すなわちよその民族において血をすすって兄弟のよしみを結ぶというなどと同じ系統の、至って重要な社交の方式であり、したがってまたいろいろのむつかしい作法を必要としていたのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
川上は是非なく、同郷のよしみのある金子堅太郎男爵の許に泣付いていった。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
壱岐守は同国壬生みぶの城主だから隣藩のよしみもあり、また明敬が天和二年十六歳で家を継いだのと、ほとんど前後して信継も十五歳で家督した関係から、この年少の両藩主は江戸に於ても国許くにもとにあっても
粗忽評判記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
各々別れてよしみをまもる。
小曲二十篇 (新字旧仮名) / 漢那浪笛(著)
「そうおっしゃらずに同町内のよしみ、御面倒でもございましょうが、人一人目鼻を明けてやって下さい。なア、八、手前てめえからもよくお願いをしな」
(形式だけでも、一部の将兵を、御当家からも、参加させて、よしみをお示しあるべきではないでしょうか)
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
利家招じ入れると勝家、年来のよしみを感謝して落涙に及んだ。勝家、利家に「貴殿は秀吉とかねねんごろであるから、今後は秀吉に従い、幼君守立ての為に力を致される様に」
賤ヶ岳合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
秋山小島ノ二氏雲如ノ亡ヲへだつルコトほとんど二十年ニシテコノ挙アリ。あに故ヲ忘レザルノ最ナルモノニ非ズヤ。余すでニ雲如ガ老境ノ詩ヲ賛ス。あわセテ二氏ガ至厚ノよしみヲ賛ストイフ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
近日又ゆっくり常態で書きますが、今日は文字通り同病のよしみによる御機嫌伺いを申します。
もとより貴方あなたがお引受けなさる精神なれば、外の迷惑にはならんのですから、ほんの名義を借りるだけの話、それくらゐの事は朋友のよしみとして、何方どなたでも承諾なさりさうなものですがな。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
……で伏見と聚楽とは、戦いをひらくことになろう。秀次公におかれては、島津や細川へ金子を貢いで、よしみを通じて居るとはいっても、いざ戦いとなった日には、伏見方へくに相違ない。
血ぬられた懐刀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
村の者じゃア話しが合わねえから新吉と私は兄弟分きょうでえぶんになり、兄弟分のよしみで、たげえに銭がねえといやア、ソレ持ってけというように腹の中をサックリ割った間柄、新吉の事を悪くいう奴が有ると
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「それまで知っているなら、言うだけ野暮だ。なア、東作、昔のよしみ、その三百八十両を、この彦兵衛の顔に免じて返してくれ、きっと恩にる——」
「県の押司おうしで、じつはこの晁蓋とは、義兄弟といってよいほど、日ごろ、心腹しんぷくよしみを結んでいた人です」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
貫一はその何の意なりやをおもはず、又その突然の来叩おとづれをもあやしまずして、畢竟ひつきよう彼の疏音なりしはその飄然ひようぜん主義のかからざるゆゑまじはりを絶つとは言ひしかど、よしみの吾を棄つるに忍びざる故と
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
又この館の人々とも、たいして恩もよしみもござらぬ。
弓道中祖伝 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「それまで知つてゐるなら、言ふだけ野暮やぼだ。なア、東作、昔のよしみ。その三百八十兩を、この彦兵衞の顏に免じて返してくれ、きつと恩にる——」
で、まことにご迷惑でしょうが、やがて玄徳公からお沙汰のあった節は、げても、召しに応じていただきたい。かならず、ご辞退なきように、旧友のよしみにすがっておねがい申し上げる
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今さらかまいたちでも済まされず、俺も今度という今度はかぶとを脱いだよ。日頃のよしみ、何とか智恵を貸してはくれまいか
けれど、将来において、また再会のご縁があったら、親しく今日のよしみをまた温めましょう。——今は時機ではありません。私の去った後は、なおのこと、どうか公孫瓚を助けてあげて下さい。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「俺の方でも手前を銭形の親分に引渡すはずだが、——昔のよしみ、縄を打たせちゃ気の毒だ」
縄目にしていいほどなら、宋江はここへは来ません。私は役人としてでなく、一個の庶民宋江として、日ごろのよしみを捨てがたく、ちゅうを飛んでまいったのです。いざ、一刻も早く、お逃げなさい
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「俺の方でも、手前を錢形の親分に引渡す筈だが、——昔のよしみ、繩を打たせちや氣の毒だ」
八五郎兄哥あにいは錢形の親分の一の子分だ、萬一その兄哥を科人とがにん扱ひにして、後で錢形の親分に文句を言はれちや、十手のよしみがないと世間から言はれるだらう、——念を入れ過ぎるやうで
「千種君、君はいろんな事を知ってる筈だ、同業のよしみで、少し漏らし給えよ」
笑う悪魔 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
言やがる、手前は仲間のよしみてえ事を知らねえのか、義理も人情もねえ野郎だ。それもお静さんに少しでも、疑いがあるならともかく、お静さんは、お袋と俺の側をちょっとも離れちゃいねえんだぞ