しょう)” の例文
「君のことだから、出来る限りは便宜を計りますよ。イヤ、捜査に関することなら、僕の方でそのしょうに当りますよ。だが、一体何です」
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いやしくも我国民の元気を養い、その独立精神を発達し、これを以てこれがしょうに当るに非らざれば、帝国の独立、誠に期し難し(謹聴々々)。
祝東京専門学校之開校 (新字新仮名) / 小野梓(著)
このごろ、あなたがしょうにあたっておいででないという事が、新婦人協会の内部うちわもめをおこしたというのを聞き、今更と思う思いがいたしました。
平塚明子(らいてう) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
世界の生存競争のしょうに立たず、静かに太平を楽しんでおったからして、深遠なる人生観、世界観が出来なかったのである。
日本の文明 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
長門ながとは山陽の西陬せいすう僻在へきざいす、しこうして萩城連山のきたおおい、渤海ぼっかいしょうに当る。その地海にそむき山に面す、卑湿ひしつ隠暗。城の東郊は則ち吾が松下村なり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
ただその徳川が開国であると云うのは、外国交際のしょうあたって居るから余儀なく渋々しぶしぶ開国論にしたがって居たけの話で、一幕まくっ正味しょうみ楽屋がくやを見たらば大変な攘夷藩だ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
こうしたわけで、吉野朝の基礎はなかなかに強固だったのであるが、そのかわり、地方との連絡には、皇族・公卿自らしょうに当られ、軍も督率とくそつされねばならなかった。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
中国・四国でホヌキまたはホノキなどと呼んでいるものは、普通に小字といっていたものの一つ下であって、交通のしょうに当らぬ限りは隣里の者すらも知っていなかった。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
捕物のしょうにあたった人物が、伊庭八郎とその門下という、これも高名の人々だったからで。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それは本当にそのしょうに当って、それを着々実行して行く人も必要には必要だが、先に立って暗示したり、指導したりして行くということは更に更に必要であらねばならなかった。
日本橋附近 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
夜中に急に風呂を沸かさせたり、えんの下の奥にしまつてある重いものを取出さしたり——さういふときには兄の鞆之助とものすけが、ぶつ/\いふ召使を困りながら指揮して、そのしょうに当つた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
五百はおのれが人にらんよりは、人をして己に倚らしめなくてはならなかった。そして内にたのむ所があって、あえて自らこのしょうに当ろうとした。貞固の勧誘の功を奏せなかった所以ゆえんである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ただ校舎の一室で、倫理の講義をしているのが手に取るように聞える。朗々たる音声でなかなかうまく述べ立てているのを聴くと、全く昨日きのう敵中から出馬して談判のしょうに当った将軍である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
見兼ねて兵馬が、そのしょうに当ることになった。兵馬とても、かかり合いはいやだけれども、こうなった以上は、自分が引受けた方がよかろうと、その現場へ出向いてみることに決心しました。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その片陰に家かず二十には足らぬ小村あり、浜風のしょうに当たりて野を控ゆ。
小春 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
朝三チョウサンノ食秋風シュウフウクとは申せども、この椎の実とやがて栗は、その椎の木も、栗の木も、背戸の奥深く真暗まっくら大藪おおやぶの多数のくちなわと、南瓜畑の夥多おびただしい蝦蟇がまと、相戦うしょうに当る、地境の悪所にあって
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
以て、外交のしょうに当らせるには適材であると、信長は見ている。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
著者もそのつもりだったし、裁判、検察のしょうにあたる人々も、これを好個の参考書として愛読したものらしいのである。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
が、なかんずく日本がその運動の主人公となって最も多く責任のしょうに当らねばならぬ。そしてそれに対する猜疑心の発生を十分に防がなければならぬ。
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
左れば今日人事繁多はんたの世の中に一家を保たんとするには、仮令い直に家業経営のしょうに当らざるも、其営業渡世法の大体を心得て家計の方針を明にし其真面目しんめんぼくを知るは
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
単に愛発あらちの関が上古以来、北国往還のしょうにあったために、他の辺土に比べてはこの口碑が一層弘く、かつ一層不精確に流布るふしたことを、推定せしめるに過ぎぬのである。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
交通のしょうに当たった町々では、いち早く国旗を立ててこの兵士たちを見送った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
と、そのしょうにあたることをひきうけた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
学者の事は社会今日の実際に遠くして、政治家の働は日常人事のしょうにあたるものなればなり。
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
かつてこの都会が東西交通のしょうであった時代に、遠くこの風の風下かざしもの方から、さすらえて来たと称する女たちが、しばしばこういう歌を唱えて旅人の哀れみを誘おうとしたので
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
而して其不和争擾そうじょうしょうに当る者は其時の未亡人即ち今日の内君にして、禍源は一男子の悪徳に由来すること明々白々なれば、いやしくも内を治むる内君にして夫の不行跡を制止すること能わざるは
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
或いはまた山の高みの草茅くさかやの茂みの中に、かすかに路らしいものの痕跡こんせきを見ることがあると、老功な山稼人やまかせぎにんは避けて小屋を掛けなかった。即ち山男・山女の通路のしょうなることを知るからである。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)