よみがへ)” の例文
あまり陽當りのよくない、まだ春がよみがへつたとも思へぬ庭の柔かい土の上に、若い娘の死骸が顏を上向にして無造作に轉がされてあるのです。
それが、すべてのものをよみがへらす春に蘇つて、この孤兒院こじゐんひ込み、ぎつしり詰つてゐる教室と寄宿舍にチブスを吹きこんだ。
その時までは何とも思はなかつたが、衣服の端で寒い外気をおほはうとした刹那に、某年某月の旅にめた異境での悲みが突然心によみがへつたのである。
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
会ふことがしげしくなるにつれて二人の友情はよみがへつた。松村もだんだん白川を手近く引寄せたいと思ふ様になつた。
瘢痕 (新字旧仮名) / 平出修(著)
その幼時のあまい記憶が大きくなつて落魄おちぶれた私によみがへつて來るせゐだらうか、全くあの味には幽かなさはやかな何となく詩美と云つたやうな味覺が漂つてゐる。
檸檬 (旧字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
流石さすがにかれは経を忘れなかつたが、しかし不思議な気がせずには居られなかつた。かれは読んで行く物の中に自分の遠い過去が再びよみがへつて来たのを感じた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
この時我は我胸をむ卑怯のうじの兩斷せらるゝを覺えしが、そは一瞬の間の事にて、蛆はたちまちよみがへりたり。われはたいかなる決斷をもなすこと能はざりき。
けれども人々は、海の荒波を見ては、王は必ずあの波の中から再びよみがへつてくると、信じきつてゐました。
北極のアムンセン (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
これはといふ變化も凡ての沈滯から美くしい手品てじなを見せるやうに容易くよみがへらせる事は不可能であらう。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
乾いてゐた心はうるほひ、弱つてゐた心はよみがへり、散らばつてゐた心は次第に一つに纒つて來る。
と、胸にはたふとい感動がまた強くよみがへり、一種のこゝちよい創作的興奮が私のすべてを生き生きさせた。
処女作の思い出 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
そこに葦切よしきりがかしましくいてゐるこゑが今僕の心によみがへつて来ることも出来た。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
それは、一瞬によみがへつた純潔さの身ぶるひのやうなものであつた。力まかせに相手を突きのけると、裾の乱れを気にもとめず、片腕で顔を押しかくすやうにして、その場を逃れようとした。
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
埃で黄くなつた頭髪、泥と血の塊り、男の不安げな眼、それからあのいくらか仁義を切るやうな半シャツの甥の身構へだの、それらがもう一度頭の中によみがへり、一列になつて通つて行つた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
俯目ふしめつて、うち活計くらしのためにつて、人買ひとかひれられてくにたまゝ、行方ゆくへれなかつたむすめが、ふとゆめのやうにかへつてて、したるもののよみがへつたごとく、をんな取卷とりまいた人々ひと/″\
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
月照船頭に立ち、和歌を朗吟して南洲に示す、南洲首肯しゆかうする所あるものゝ如し、遂に相ようして海にとうず。次郎等水聲起るを聞いて、倉皇さうくわうとして之を救ふ。月照既に死して、南洲はよみがへることを得たり。
さつきの匂が私の鼻によみがへつてきたのではないかと思へた位
鳥料理:A Parody (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
最早かれの読経どきやうはかれのための読経ではなかつた。また仏に向つて合掌するかれの手は、かれのための合掌礼拝らいはいではなかつた。新しい力はかれの魂をよみがへらせた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
で、彼女が出て行つた後で私は何となく力が出て來て、よみがへつたやうな感じがした。間もなく、休息に飽き足りたことと、動いてみたい氣持とが私をそゝり立てた。
有合せの單衣を着せられて見る影もない有樣ですが、何となく次第に美しさがよみがへつて來るやうです。
無電技師がさういふ通信を受ける毎に、一同はよみがへつた思ひで、新たな希望をいだくのだつた。
北極のアムンセン (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
はじめて往診に行つたときの相沢のみ声が耳によみがへつて来た。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
よみがへ響音きやうおん
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
かすんだやうな平次の頭にも、これだけの記憶がよみがへつて來ました。今日までに毒矢の曲者をつかまへる筈だつたのが、天井裏に閉ぢ籠められてすつかり豫定が狂つてしまつたのです。
古来存在した幾万億の仏達、菩薩ぼさつ達のおこなひが、言葉がかれの心によみがへつて来た。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
あらよみがへ活動くわつどう
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
吉三郎が歸つて來ると、越前屋も何となく落着きを取戻して、日頃の秩序ちつじよよみがへります。
奧へ入つて行くと、主人の金兵衞も支配人の庄八も、全くよみがへつたやうでした。
清養寺の床の間の汚點の記憶きおくが、はつきり平次の頭によみがへつたのです。