だっ)” の例文
だが、般若丸の名刀が、さやだっしようとしたしゅんかんに、はッと気がついたのは(を見るなかれ)という御岳みたけ三日みっか神誓ちかいである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このせつない覊絆きはんだっして、すこしでもかってなことをやるとなったらば、人間の仲間なかま入りもできない罪悪者ざいあくしゃとならねばならぬ。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
と女が叫んだ刹那、忠相はヒラリと大作の守護をだっして、あれよという間に、通りみちにまごつく善ちゃんを抱きかかえて向う側へ飛びこんだ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
飛衛の方では、また、危機をだっし得た安堵あんどと己が伎倆ぎりょうについての満足とが、敵に対するにくしみをすっかり忘れさせた。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
下等士族のはいが、数年以来教育に心をもちうるといえども、その教育は悉皆しっかい上等士族の風を真似まねたるものなれば、もとよりその範囲はんいだっすることあたわず。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
先年もある青年が婦人の誘惑ゆうわくおちいらんとしたとき、かねて聞いていたことは「ここだな」と思い、ついに危険をだっしたということを手紙で通知してきた。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
はしけくさりきて本船と別るる時、乗客は再び観音丸かんのんまると船長との万歳をとなえぬ。甲板デッキに立てる船長はぼうだっして、満面に微笑えみたたえつつ答礼せり。はしけ漕出こぎいだしたり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このままでは、地球の引力圏いんりょくけんだっして、月の世界へ飛んで行かないとも保証はできない。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その点で、君らは精神的にはまだ奴隷どれいの域を一歩もだっしていないということを証明している。いや、それどころか、君らはよりいっそうみじめな奴隷になることを希望しているとさえ私には思える。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
一時の奇貨きかも永日の正貨せいかに変化し、旧幕府の旧風をだっして新政府の新貴顕きけんり、愉快ゆかいに世を渡りて、かつてあやしむ者なきこそ古来未曾有みぞう奇相きそうなれ。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
各自の職務には分限ぶんげんがあって、その範囲はんいだっするをゆるさぬ、すなわち厳格なる境界を越えてはならぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
赤坂をだっして、みずからここへ捕われて来た御子みこ尊良たかながやら、宗良親王やら、ほかのとらわれ公卿も、たくさんおなじむねにいたのであったものを、それも鎌倉の幕令で
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だっして、足利将軍のお手につき、為に、新田義貞は、大敗して都へ逃げくずれたと聞きまする……
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たまには誰がげるとはなしに、ふと心に有難味ありがたみを覚えて、ほとんど相手知らずにぼうだっし、ひざまずいて、有難さに、涙にむせぶこともある。誰しも必ずこの経験があるだろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
みなバタバタと討死をとげ、彼自身も重傷を負って、からくも危地をだっしえたほどだった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秀吉をるに、今は、家康でさえこう思意せずにいられないのに——佐々成政のごとき、単純なる一かい武弁ぶべんが、北陸の一隅などから、旧殻きゅうかくだっしきれない頭脳などをもって
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここは目をつむって尊氏のおごるがままにしておこう。四方よもの官軍がふたたびち上がるときを待つ。どんなこらえをしてもそれを待つ。されば、そちもここをだっして北陸へ落ちて行け。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とまれ、手越河原の難はからくもだっしえたが、矢矧やはぎまでまだ四十里ほどはあった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
煙硝爆破えんしょうばくは紅蓮ぐれんがかぶさったときには、さすがの昌仙も、手のつけようがなく、わずかに、呂宋兵衛その他のものとともに、例の間道かんどうから人無村ひとなしむらへ逃げ、からくも危急をだっしたのであるが
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)