絡繹らくえき)” の例文
力車りきしや、一輪車、電車、あらゆる種類の車と、あらゆる人種を交へた通行人とが絡繹らくえきとしながらの衝突も生じないのを見ると
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
竇は友人の言葉に従ってそれを造り、両方のかきを堅くした。すると蜂の群が牆の外から来はじめたが、それは絡繹らくえきとして織るようであった。
蓮花公主 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
監視課の事務所の前を来たりったりする人数は絡繹らくえきとして絶えなかったが、その中に事務長らしい姿はさらに見えなかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
楠正成、名和長年ながとし以下の凱旋がいせん諸将を従えられ、『増鏡』に依ると、其の行列は二条富小路の内裏だいりから、東寺の門まで絡繹らくえきとして続いたとある。
四条畷の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
また右手の小高き岡に上って見下ろせば木の間につゞく車馬老若ろうにゃく絡繹らくえきたる、秋なれども人の顔の淋しそうなるはなし。
半日ある記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
柿色の暖簾のれんに、造花の桜の出しが軒に懸けつらねられ、観客の子女や、食物を運ぶ男衆が絡繹らくえきとしていたのを、学校の往復ゆきかえりに見たものであった。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
駒形堂こまかたどうの白壁に日脚ひあしは傾き、多田薬師ただのやくし行雁ゆくかり(中巻第七図)に夕暮迫れば、第八図は大川橋の橋袂はしたもとにて、竹藪たけやぶ茂る小梅の里を望む橋上きょうじょうには行人こうじん絡繹らくえきたり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
サンアントニウス寺の七穹窿は、恰も好し月光に耀けり。柱列の間には行人絡繹らくえきとして、そのさまいと樂しげなれども、われは獨り心の無聊ぶれうに堪へざりき。
電車がとまったので線路にはもう人が絡繹らくえきとして歩いている。自分はその内の一人を捕えて火事の見当を相談した。南の方のは青山だろうということであった。
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
約三百余里にわたる要塞の水陸にはかがり、煙火、幾万幾千燈が燃えかがやいて、一天の星斗せいとがし、ここに兵糧軍需を運送する車馬の響きも絡繹らくえきと絶えなかった。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
囚人たることにさへ気のつかない、新時代の服装をした囚人の夫婦は絡繹らくえきと銀座通りを歩いてゐる。
僻見 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「三」と染め抜いた暖簾のれんの間から、出入絡繹らくえきする群集を見おろして、遥に高く雲の上に、睛を点じたものが富士山であったことは、喜多川歌麿の「霜月見世開みせびらき之図」や
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
音楽会の帰りの馬車や車は最前さいぜんから絡繹らくえきとして二人を後ろから追い越して夕暮を吾家わがやへ急ぐ。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大蛇だいじゃかごに入れてになう者と、馬にまたがりて行く曲馬芝居の座頭ざがしらとを先に立てて、さまざまの動物と異形の人類が、絡繹らくえきとして森蔭もりかげに列を成せるそのさまは、げに百鬼夜行一幅の活図かっとなり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
四月に入ると、街にはそろそろ嫩葉わかばも見えだしたが、壁土の土砂が風にあおられて、空気はひどくザラザラしていた。車馬の往来は絡繹らくえきとつづき、人間の生活が今はむき出しでさらされていた。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
焙烙ほうろくで、豌豆えんどうをいるような絡繹らくえきたるさんざめき、能役者が笠を傾けて通る。若党を従えたお武家が往く。新造が来る。丁稚でっちが走る。犬がほえる。普化僧ふけそうが尺八を振り上げて犬を追っている。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
中にはいたいけな童児が手押車を押し悩んでいるのもございます。わたくしも、その絡繹らくえきたる車の流れをかいくぐるように、御家財を積んだ牛車ぎっしゃを宰領して、幾たび賀茂の流れを渡りましたやら。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
貴族の馬車絡繹らくえきたるその御者が、皆本邦神社の門側に立つ箭大臣やだいじん
其処は絡繹らくえきと終日牛車の絶える事がない。
竹藪の家 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
絡繹らくえき寺門じもんをいづる
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
あまつさ野町のまち野田寺町のだでらまち地黄煎口ぢくわうぜんぐちあるひ鶴來往來つるぎわうらいより、野菜やさい擔荷になひて百姓ひやくしやう八百物市やほものいちおもむもの前後疾走ぜんごしつそう相望あひのぞみて、氣競きほひ懸聲かけごゑいさましく、御物見下おものみしたとほること、絡繹らくえきとしてるがごとし。
鉄槌の音 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ボルゲエゼ家のたちは賀客絡繹らくえきたり。エリザベツタの天に許嫁せしを賀するなり。
中にはいたいけな童児が手押車を押し悩んでゐるのもございます。わたくしも、その絡繹らくえきたる車の流れをかいくぐるやうに、御家財を積んだ牛車ぎっしゃを宰領して、幾たび賀茂の流れを渡りましたやら。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
絡繹らくえきとして、花見、遊山に出掛けるのが、この前通りの、優しい大川の小橋を渡って、ぞろぞろと帰って来る、男は膚脱はだぬぎになって、手をぐたりとのめり、女がなまめかしい友染ゆうぜん褄端折つまばしょり
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わが觀るところの演劇は、緑肥えたる葡萄圃ぶだうばたけ、行人絡繹らくえきたるサレルノ街道、其背後の暗碧なる山脈等を道具立書割として、自ら悲壯劇の舞群ホロスとなれるポムペイ市の死の天使の威を歌へるなり。