紙袋かんぶくろ)” の例文
あとは眞の闇、兩手を後ろ手にしばられた上、猫に紙袋かんぶくろの體では、氣は確かでも、年寄の主人清右衞門、どうすることも出來ません。
紙袋かんぶくろを頭へかぶせらるる事——これは苦しいばかりではなはだ興味のとぼしい方法である。ことに人間の相手がおらんと成功しないから駄目。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
猫を紙袋かんぶくろにおしこんで、押入れにほうりこんであるからこそ、鼠どもも、外でちっとは大きな顔ができるようなものの……。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それに火をつけて、煙が立ち始めると、皆は大きな紙袋かんぶくろの口を広げて、その中へ、煙をみんなあおぎ込んでしまい、そのあとをしっかとひもわえました。
お山の爺さん (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
幕間まくあいにちょいと楽屋へ立違って、またもとの所へ入ろうとすると、その娘のたもとわきに、紙袋かんぶくろが一つ出ています。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
林「其の時使ったのかって置きたいと思って糠袋のかぶくろをあけて、ちゃんと天日てんぴにかけて、乾かして紙袋かんぶくろに入れて貯っておいて、炊立たきたての飯の上へかけてうだ」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
う然う、もっと方々見せてやる積りだったが、猫に紙袋かんぶくろかぶせたように平に辞退して逃げて行ったよ」
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それを但馬守たじまのかみられるのが心苦こゝろぐるしさに地方ぢかた與力よりき何某なにがしは、ねこ紙袋かんぶくろかぶせたごと後退あとずさりして、脇差わきざしの目貫めぬきのぼりうくだりう野金やきんは、扇子せんすかざしておほかくした。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
土蔵の前のなしの木に紙袋かんぶくろをかぶせて置いて、大風に落ちた三つの梨のうちで、一番大きい梨の目方が百三匁、ほかの二つは目方が六十五匁あったと、そう言うような人なんだからね。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
女房は黙って部屋を出て往ったが、直ぐ店で使う小さな紙袋かんぶくろを持って来た。
蠅供養 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
椽の下からあらわいでたる八百八狐はっぴゃくやぎつね付添つきそいおれかかとねらうから、此奴こやつたまらぬと迯出にげだうしろから諏訪法性すわほっしょうかぶとだか、あわ八升も入る紙袋かんぶくろだかをスポリとかぶせられ、方角さらに分らねばしきりと眼玉を溌々ぱちぱちしたらば
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
猫に紙袋かんぶくろ
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
ところがあのお継と来たら、また引き立たない事おびただしいんだからな。引き立てようとすれば、かえって引き下がるだけで、まるで紙袋かんぶくろかぶった猫見たいだね。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「知ッてる……生紙きがみ紙袋かんぶくろの口を結えて、中に筋張った動脈のようにのたくるやつを買って帰って、一晩内に寝かしてそれから高津の宮裏の穴へ放すんだってね。」
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
花松魚はながつお紙袋かんぶくろへ入れて置くのだが、是も猫鰹節ねこぶしこまッかに削ったものさ、海苔のり一帖いちじょう四銭二厘にまけてくれるよ、六つに切るのを八つに切るのだ、是にはしを添えて出す
皆集まって、大きな紙袋かんぶくろの横の方を少し破いて、中をのぞこうとしました。すると、その破れ目から、中の煙がふーっと出て来ました。皆はあわてて、破れ目を押えました。
お山の爺さん (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
と云われてお村はが悪いから真赤になって、猫が紙袋かんぶくろかぶったように逡巡あとびさりにして、こそ/\と台所から抜出して仕舞いましたが、さアもう文治郎の所へくことは出来ません。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「それ、あの、忠兵衛の養母おふくろといった隠居さんが、紙袋かんぶくろを提げているから、」
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なんとも返答をいたす事が出来ないんで……矢ッ張黙ってモジ/\といしきばかりを動かし、まるで猫に紙袋かんぶくろをきせましたようにあとずさりをいたしますんで、勝五郎は弥々いよ/\きたちまして
猫を紙袋かんぶくろに入れて、ちょいとつけばニャンと鳴かせる、山寺の和尚さんも、鼠には困った。あと、二度までも近在の寺に頼んだが、そのいずれからも返して来ます。おなじく鼠がかかるので。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)