えびら)” の例文
義仲と共にあった今井四郎兼平、しばし敵陣を睨むと、やおら背のえびらより鏑矢かぶらやを取り出し、その中に火を入れて弓につがえた。
それに花やかな弓小手ゆごて、太刀を佩き短刀を差して頭に綾藺笠あやいがさ、腰には夏毛の行縢むかばき、背には逆顔さかづらえびら、手には覚えの弓、太くたくましい馬をかせて
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
をとこは、——いえ、太刀たちびてれば、弓矢ゆみやたづさへてりました。ことくろえびらへ、二十あまり征矢そやをさしたのは、唯今ただいまでもはつきりおぼえてります。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
此処の眺望は一層の闊大を加えて北方は北アルプスのえびら岳迄視界が開ける、南アルプスや槍穂高の方面は漸く霞にめられて、鋭い輪廓もうすれて来た。
美ヶ原 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
粟生弘氏は翁の門下でも古株で相当年輩の老人であったが、或る時新米の古賀得四郎氏が稽古に行くと、大先輩の粟生氏が「えびら」のきりの謡を習っている。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
陣中の座興にと、信長、家康の士酒井左衛門尉忠次に夷舞えびすまいを所望し、諸将えびらを敲いてはやした。充分の自信があったのであろう。落付き払った軍議の席である。
長篠合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
すずしの御衣おんぞの下に、もえぎの腹巻、太刀を横たえ、えびらを負うた武者姿など、たとえば紅梅が雪を負ったようで、かの平家の公達きんだち一ノ谷の敦盛あつもりも、こうであったかと、おもわせる。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
田楽、葛籠造つづらつくりえびら細工、てうさい饅頭売、(禅宗)、(律家)、(念仏宗)、(法華宗)、(連歌師)、(比丘尼)、(尼衆)、(山法師)、(奈良法師)、(華厳宗)、(倶舎宗)。
俗法師考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
シゴイさんは四代目クラブではただ一人の本職プロだが、四代目クラブにはあまり賛成でないパパでさえ、ああいう軍人なら軍人も悪くない。建武なら〈えびらの梅〉というところだねなんていっていた。
だいこん (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
小姓はえびらを負い半弓を取って、主のかたわらに引き添った。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
やさしくもあやめ卯の花さし添へしえびら背負ひて弓引くや誰
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
愛のひえきつた世でござる、何卒どうぞえびらの矢をとつて
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
梶原源太かじわらげんたが「えびらの梅」という形になっていた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
えびらごとく、麻袋あさぶくろたゝいてつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
えびら神将しんしやう
全都覚醒賦 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
男は、——いえ、太刀たちも帯びてれば、弓矢もたずさえて居りました。殊に黒いえびらへ、二十あまり征矢そやをさしたのは、ただ今でもはっきり覚えて居ります。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
紅に日の丸を描いた扇が、波にゆられ、浮きつ沈みつしているのを見ながら、平家はふなばたをたたき、源氏はえびらをたたいて、この見事な弓取りをめ讃えたのであった。
一方は、背にえびらを負い、弓をもち、左大臣の扮装をした興世王である。もう一人は、不死人で、これも、おいかけを付けた冠に、右大臣の装束をつけ、太刀を佩いて、を長く曳いていた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小森を迎えに行った侍がそのあとから、二十四差したえびらを持ってついて来ました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
二 えびらの梅
十番雑記 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
(十三)猩々(十四)小鍛冶(十五)岩船半能(十六)烏帽子折子方(十七)田村(十八)殺生石直面(十九)羽衣ワキ(二十)是界(二十一)蘆苅(二十二)えびら(二十三)湯谷ゆやツレ(二十四)景清ツレ——但これは稽古だけで能は中止(二十五)船弁慶ツレ
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
かはいたゆみ黒塗くろぬりのえびらたか征矢そやが十七ほん、——これはみな、あのをとこつてゐたものでございませう。はい、うま仰有おつしやとほり、法師髮ほふしがみ月毛つきげでございます。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
えびらに結びつけられていた紙をほどいてみると、旅宿花りょしゅくのはなという題で、一首の歌が書き連ねてあった。
生田ノ森の梅花をえびらにさして奮戦したという梶原源太景季かげすえのような武者たちが、戦いも終わった夕べ、カムベの民の献酒をどんな風に飲んだであろうか。酒徒ならぬぼくにも、連想の興味は尽きない。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
えびらの梅
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かわを巻いた弓、黒塗りのえびらたかの羽の征矢そやが十七本、——これは皆、あの男が持っていたものでございましょう。はい。馬もおっしゃる通り、法師髪ほうしがみ月毛つきげでございます。
藪の中 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
背のえびらに矢が一本もなくなったとき、十二人が射殺され、十一人が負傷したという速射であったが、弓をがらりと捨てた明秀はつらぬきを脱いではだしとなるや、ひらりと橋桁にとんだ。
黒皮縅くろかわおどしの鎧を着て二十四差した黒縨くろほろの矢を負い、塗籠籐ぬりごめとうの弓を脇にかいばさんだ勇ましい姿であったが、かぶとを脱いで背中にかけ、えびらから、小硯こすずり畳紙たとうがみを取りだすと、すぐ願書を書きはじめた。
やがて、いつかあたりも暗くなり、人の姿も定かには見えなくなった頃、北南より廻った搦手からめての一万余騎が、頃は良しと倶利迦羅堂前あたりで落ち合い、えびらをたたき、一度にどっとときの声を挙げた。