トップ
>
空漠
>
くうばく
ふりがな文庫
“
空漠
(
くうばく
)” の例文
十数日を野や山に伏して、ひたすらこの地点まで、と、一図に働き、
遂
(
つい
)
に成ったあとのあの
空漠
(
くうばく
)
とした疲労をお互いに感じあって。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
これは何となく信じ難い、変てこな事実であった。
空漠
(
くうばく
)
たる五ヶ月間が、犯罪動機と犯罪そのものとの
連鎖
(
れんさ
)
を、ブッツリ断ち切っていた。
虫
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
と、
何処
(
どこ
)
か見当の付かぬ処で、大きなおならの音がした。かの女の
引締
(
ひきし
)
まって居た気持を、急に
飄々
(
ひょうひょう
)
とさせるような
空漠
(
くうばく
)
とした音であった。
かの女の朝
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
ジャン・ヴァルジャンのうちにはあまりに多くの無知があったので、多くの不幸の後でさえ、彼のうちには多くの
空漠
(
くうばく
)
たるものが残っていた。
レ・ミゼラブル:04 第一部 ファンテーヌ
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
東洋の端にある日本のことなど
霞
(
かすみ
)
の
棚曳
(
たなび
)
いた空のように、
空漠
(
くうばく
)
としたブランクの映像のまま取り残されているのだと梶は思うと、その一隅から
厨房日記
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
▼ もっと見る
そういえばバスや電車の席にぐったりと
凭掛
(
よりかか
)
っている人間の姿も、何か
空漠
(
くうばく
)
としたものに身を
委
(
ゆだ
)
ねているようである。
秋日記
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
そこでこの聯想も
空漠
(
くうばく
)
でないのだが、私は、「浪柴の野のもみぢ散るらし」という歌調に感心したのであった。
万葉秀歌
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
ある意味でそれは庭であるよりも、一つの
空漠
(
くうばく
)
たる世界が作り上げられていて、それが彼を呼びつづけているのだとでも、ふざけて言ったら言えるのだろう。
生涯の垣根
(新字新仮名)
/
室生犀星
(著)
余の病中に、
空漠
(
くうばく
)
なる余の頭に
陸離
(
りくり
)
の光彩を
抛
(
な
)
げ
込
(
こ
)
んでくれたジェームス教授も余の知らない間にいつか死んでいた。二人に謝すべき余はただ一人生き残っている。
思い出す事など
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
いままでそこには
知
(
し
)
った
顔
(
かお
)
があったのが、まったく
空漠
(
くうばく
)
となって
机
(
つくえ
)
だけがならんでいるばかりです。
残された日
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
わたくしの推測は、單に
此
(
かく
)
の
如
(
ごと
)
くに説くときは、餘りに
空漠
(
くうばく
)
であるが、
下
(
しも
)
にある文政十一年の火事の段と
併
(
あは
)
せ考ふるときは、
稍
(
やゝ
)
プロバビリテエが増して來るのである。
寿阿弥の手紙
(旧字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
大革命の初めのころの中流人士らを逆上さした
空漠
(
くうばく
)
熱烈な観念論に、心からしみ込んでいた。
ジャン・クリストフ:09 第七巻 家の中
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
その
空漠
(
くうばく
)
とした部屋を考え、毎日毎日同じ位地に、変化もなく彼女の帰りを待ってる寝台や、窓の側に
極
(
きま
)
りきってる古い書卓や、その上に載ってる退屈なインキ
壺
(
つぼ
)
などを考え
ウォーソン夫人の黒猫
(新字新仮名)
/
萩原朔太郎
(著)
と、交互に襲ひ来る希望と絶望との前にへたばるやうな気持であつた。痛恨と苦しい
空漠
(
くうばく
)
とがある。私はふいに歩調をゆるめたりなどして、今歩いて来た後方を
遙
(
はるか
)
に振り向いて見たりした。
途上
(新字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
積日の辛苦を
寛
(
くつろ
)
げようと思って電車の方に歩いてくると、去年の十二月の初めから、
空漠
(
くうばく
)
とした女の居処を探すためにひょっとしたら懊悩の極、喪失して病死しはせぬだろうかと自分で思っていた
霜凍る宵
(新字新仮名)
/
近松秋江
(著)
単にわが
空漠
(
くうばく
)
たる信念なりとするも、わが心この世の苦悩にもがき
暗憺
(
あんたん
)
たる
日夜
(
にちや
)
を送る時に当たりて、われいかにしばしば
汝
(
なんじ
)
に振り向きたるよ、ああワイの流! 林間の逍遙子(しょうようし)よ
小春
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
稀
(
まれ
)
には少時間の
空漠
(
くうばく
)
を耐え忍んで、目に見えぬ島々を心ざした者が、意外な幸運を見つけて帰ってきてその体験を
談
(
かた
)
るというようなことが、年とともにだんだんと積み重ねられたことも考えられる。
海上の道
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
と、訊ねてみると、
空漠
(
くうばく
)
だった。何も得てない気がした。
剣の四君子:03 林崎甚助
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
生きたる物も、死したるも、此
空漠
(
くうばく
)
の
荒野
(
あらぬ
)
には
海潮音
(旧字旧仮名)
/
上田敏
(著)
空漠
(
くうばく
)
たる
沙漠
(
さばく
)
を隔てて、その両側に僕はいる。僕の父母の仮りの宿と僕の伯母の仮りの家と……。伯母の家の方向へ僕が歩いてゆくとき、僕の足どりは軽くなる。
鎮魂歌
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
私は何でこの
空漠
(
くうばく
)
な響をもつ偽という字のために、兄さんがそれほど興奮するかを不審がりました。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
そして彼らの言葉のうちにはうめきの声が交じっていたが、彼はそれに耳を傾けようともしなかった。彼の頭は他にあって、夢想に、不可能の光輝に、
空漠
(
くうばく
)
たる愛に、熱狂に向いていた。
レ・ミゼラブル:06 第三部 マリユス
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
誰のことを自分は思っているのか? 気に留めて考えれば
空漠
(
くうばく
)
として、悲しくも、喜ばしくもないが、静かに落付ていると胸の底から細い、悲しい、
囁
(
ささや
)
きのように、痛むともなく痛みを覚えて
面影:ハーン先生の一周忌に
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
この歌でも、鴨の
羽交
(
はがい
)
に霜が置くというのは現実の細かい写実といおうよりは一つの「感」で運んでいるが、その「感」は
空漠
(
くうばく
)
たるものでなしに、人間の観察が本となっている点に強みがある。
万葉秀歌
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
生きたる物も、死したるも、此
空漠
(
くうばく
)
の
荒野
(
あらぬ
)
には
海潮音
(新字旧仮名)
/
上田敏
(著)
空漠
(
くうばく
)
としたなかにあって、荒れ狂うものに
攫
(
さら
)
われまいとしているし、
径
(
みち
)
や枯木も鋭い抵抗の表情をもっていた。だが、すべてはさり気なく、冬の朝日に洗われて静まっている。
冬日記
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
けれども考える方向も、考える問題の実質も、ほとんど
捕
(
つら
)
まえようのない
空漠
(
くうばく
)
なものであった。彼は考えながら、自分は非常に
迂濶
(
うかつ
)
な
真似
(
まね
)
をしているのではなかろうかと
疑
(
うたが
)
った。
門
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
おそらく、彼はその精神の最も
空漠
(
くうばく
)
たる一
隅
(
ぐう
)
において、移り変わりゆく眼界と人間の一生とを比べてみたであろう。人生のあらゆる事物は絶えず
吾人
(
ごじん
)
の前を過ぎ去ってゆく。影と光とが入れ交じる。
レ・ミゼラブル:04 第一部 ファンテーヌ
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
彼
(
かれ
)
は
考
(
かんが
)
へた。けれども
考
(
かんが
)
へる
方向
(
はうかう
)
も、
考
(
かんが
)
へる
問題
(
もんだい
)
の
實質
(
じつしつ
)
も、
殆
(
ほと
)
んど
捕
(
つら
)
まえ
樣
(
やう
)
のない
空漠
(
くうばく
)
なものであつた。
彼
(
かれ
)
は
考
(
かんが
)
へながら、
自分
(
じぶん
)
は
非常
(
ひじやう
)
に
迂濶
(
うくわつ
)
な
眞似
(
まね
)
をしてゐるのではなからうかと
疑
(
うたが
)
つた。
門
(旧字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
僕は
訝
(
いぶか
)
る。階段は一歩一歩僕を誘い、廊下はひっそりと僕を内側へ導く。ここは、これは、ここは、これは……僕はふと
空漠
(
くうばく
)
としたものに戸惑っている。コトコトと靴音がして案内人が現れる。
鎮魂歌
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
いかに
空漠
(
くうばく
)
なる主人でもこの三令嬢が女であるくらいは心得ている。女である以上はどうにか片付けなくてはならんくらいも承知している。承知しているだけで片付ける手腕のない事も自覚している。
吾輩は猫である
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
空
常用漢字
小1
部首:⽳
8画
漠
常用漢字
中学
部首:⽔
13画
“空”で始まる語句
空
空地
空虚
空想
空洞
空腹
空家
空気
空嘯
空手