かはら)” の例文
練吉はちいさい時頭の大きな首の細い子供であつたが、房一は彼をかはらのまん中で追ひまはしたこともあるやうな気がする。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
この頃咲く花に石竹せきちくがあります。照り続きで、どんなに乾いたかはらにも、山道にも、平気で咲いてゐるのはこの花です。
石竹 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
青く淀んだ川水と雪に蔽はれたかはらの境目のところに、非常に小さい風の渦が起つて、そこに遊び戲れてゐる日光の中に絹糸のもつれのやうな陽炎が立ち
北信早春譜 (旧字旧仮名) / 野上豊一郎(著)
かれ立停たちどまつて、つゆは、しとゞきながらみづれたかはらごとき、ごつ/\といしならべたのが、引傾ひつかしいであぶなツかしい大屋根おほやねを、すぎごしみねしたにひとりながめて
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それは渓の水が乾いたかはらへ、小さい水溜を残してゐる、その水のなかだつた。思ひがけない石油を流したやうな光彩が、一面に浮いてゐるのだ。お前はそれを何だつたと思ふ。
桜の樹の下には (新字旧仮名) / 梶井基次郎(著)
あくあしたの食後、貫一はづこの狭き畑下戸はたおり隅々すみずみまで一遍ひとわたり見周みめぐりて、ぼその状況を知るとともに、清琴楼の家格いへがらを考へなどして、かはらに出づれば、浅瀬にかかれる板橋の風情ふぜい面白く
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
同じ年配の子供達が向うの田圃やかはらで遊んでゐるのを見ると、堪へきれなくなつて涙を流します。時偶ときたま仲間が遣つて來ると小踊して歡び、仲間に歸られてはと、ご飯も食べないのです。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
かはらへついて廻したぞ」と、艫の方から声がかゝつたが、夕立のやうに、水がざわついて、小さな水球が、霧雨きりさめとなつて飛んで来たので、もう名高い天竜峡に入ツて来たと知つた、竜角峯とか
天竜川 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
みんつてるかはらうへに——さア/\一しよをどらぬか?
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
かはらづたひの 竝樹なみきの 蔭に
石はかはらで光つてる
別後 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
何故なぜなら、かみは、うしてやませまつて、ながれあをくらいのに、はしさかひ下流かりう一方いつぱうは、たちま豁然くわつぜんとしてかはらひらけて、いはいしもののごとくバツとばしてすごいばかりにひろる。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
南にあたりて箒川ははきがわゆるめぐれるかはらに臨み、しては、水石すいせき粼々りんりんたるをもてあそび、仰げば西に、富士、喜十六きじゆうろく翠巒すいらんと対して、清風座に満ち、そでの沢を落来おちくる流は、二十丈の絶壁に懸りて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
さういふ平地を河は大きくうねつて、玉砂利のかはらがたいへん白く広く見える。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
今夜の泊りの「満島みつしままではまだ四里半もありやす」と、道伴れになつた同船の客から聞いて、傘をさしかけ、かはらにしやがんで、下つて来る船を待つ、河原に焚火をした痕と見えて、焦げた薪や
天竜川 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
石はかはら
都会と田園 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
河向ふのかはらで遊んでゐる町の子達は、ひづめの音で房一の姿を認めた。あたりの物静かな、音といへば河の瀬の低い単調な音ばかりでけだるいよどんだ空気の中に突然としてはげしい蹄の音が起る。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)