ひび)” の例文
髪にはくしが一つだけ、手も足も水仕事でひどくあれているし、白粉おしろいけなどいささかもみられない顔の赤くなった頬には、もうひびがきれていた。
透きまもなく繁りあった雑木のなかにひびだらけの獰猛な腕をひろげた栗の木の姿はあっぱれ武者ぶりではあるがかんじんの栗は一つもない。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
「小山さん、そんな水いじりをなすっちゃ、いけませんよ。御覧なさいな、お悪戯いたをなさるものだから、あなたの手はひびだらけじゃありませんか」
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
時とするとジャン・ヴァルジャンはコゼットのひびのきれたまっかな小さい手を取って、それにくちびるをつけることもあった。
お婆さんは、ごくりごくりと咽喉のどを鳴らしながら水を呑んだ。お美代はすぐに眼を伏せて、膝の上の自分の手を見た。くろい肌には一面の赤いひびだった。
蜜柑 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
それは油気のない髪をひつつめの銀杏返いてふがへしに結つて、横なでの痕のあるひびだらけの両頬を気持の悪い程赤く火照ほてらせた、如何にも田舎者ゐなかものらしい娘だつた。
蜜柑 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
眼球が脱却して洞穴になつた二つの眼窩、頬が凹んでその上に突起した顴骨、毛の一本も生えてゐない頭と、それに這入つてゐるひびのやうな條、これが氏の首である。
続癩院記録 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
風が吹く、土が飛ぶ、霜がえる、水が荒い。四拍子そろって、妻の手足は直ぐひび、霜やけ、あかぎれに飾られる。オリーヴやリスリンをった位では、血が止まらぬ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
お三どんがひびを切らしたってそれが不便ふびんというんじゃありません、そんなのははじめッからその気でつき合っているんですからね、甘いことをいうと附上りまさ、癖になりますからね
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これなら大丈夫と思ううちに、これも同じく隠しようのないままに残されていたひびだらけの足のかかとも、美少女の小さな足袋たびの中に無理やりに押込んでヒシヒシとコハゼをかけてしまいました。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ぼんやりとして、すず色の円い輪が、空の中ほどを彷徨さまよっている、輪の周囲まわりは、ただ混沌として一点の光輝も放たない、霧の底には、平原がある、平原のプレーンひびが割れたようになって、銀白の川が
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
百姓が手につかむ霜にも、水仕事するものが皮膚に切れるひびあかぎれにも、やがて来る長い冬を思わせないものはない。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それは油気のない髪をひっつめの銀杏返いちょうがえしに結って、横なでのあとのあるひびだらけの両ほおを気持の悪い程赤く火照ほてらせた、如何いかにも田舎者いなかものらしい娘だった。
蜜柑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ひびあかぎれの手を、けちで炭もよくおこさないから……息で暖めるひまもなしに、鬼婆の肩腰を、さするわ、むわ、で、そのあげくが床の上下あげおろし、坊主枕のおおいまで取りかえて、旦那様、御寝げしなれだ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは油氣あぶらけのないかみをひつつめの銀杏返いてふがへしにつて、よこなでのあとのあるひびだらけの兩頬りやうほほ氣持きもちわるほどあか火照ほてらせた、如何いかにも田舍者ゐなかものらしいむすめだつた。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
下婢はひどい荒れ性で、ひびの切れた手を冷たい水の中へ突込んで、土のついた大根を洗った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
小娘こむすめ何時いつかもうわたくしまへせきかへつて、不相變あひかはらずひびだらけのほほ萌黄色もえぎいろ毛絲けいと襟卷えりまきうづめながら、おおきな風呂敷包ふろしきづつみをかかへたに、しつかりと三とう切符ぎつぷにぎつてゐる。……
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
小娘は何時かもう私の前の席に返つて、不相変あひかはらずひびだらけの頬を萌黄色の毛糸の襟巻に埋めながら、大きな風呂敷包みを抱へた手に、しつかりと三等切符を握つてゐる。…………
蜜柑 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
が、重い硝子戸ガラスどは中々思ふやうにあがらないらしい。あのひびだらけの頬はいよいよ赤くなつて、時々鼻洟はなをすすりこむ音が、小さな息の切れる声と一しよに、せはしなく耳へはいつて来る。
蜜柑 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
が、重い硝子ガラス戸は中々思うようにあがらないらしい。あのひびだらけの頬はいよいよ赤くなって、時々鼻洟はなをすすりこむ音が、小さな息の切れる声と一しょに、せわしなく耳へはいって来る。
蜜柑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
が、おも硝子戸ガラスど中中なかなかおもふやうにあがらないらしい。あのひびだらけのほほいよいよあかくなつて、時時ときどき鼻洟はなをすすりこむおとが、ちひさないきれるこゑと一しよに、せはしなくみみへはひつてる。
蜜柑 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)