発止はっし)” の例文
旧字:發止
もがきにもがく姫の手が、近々とのしかかって来る怪物の顔を、発止はっしと打った。そのはずみに、どうしたことか、ポロリと落ちた黄金仮面!
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ドッと打ち出す種ヶ島、ヒューと飛び来る吹矢の矢を発止はっしと杖で打ち落とし、老人と少年は次第次第に虹橋を渡って空に昇る。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
発止はっしと思い当ったのは、裂かれたる琵琶です。疑うべくも、疑うべからざる証拠のあるものを、何として今まで気がつかなかったのだろう。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
熊の皮の胴服の男は、口汚くののしると、山刀をり、たぎり返る激怒のやり場に困ったらしく、側の手頃の立樹の幹を、発止はっしと切り落します。
遂に一本の尖剣が発止はっし頸骨けいこつの髄を貫いて、牛は地響をたてて倒れました。同時に、私は側で、恋人が気を失っているのに気がついたのです。
バルザックの寝巻姿 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
ボートルレは太い杖を持っていたが、突然その杖を振り上げて、礼拝堂の扉を飾っている数個の彫像の一つを発止はっしと打った。
ぴーんと音がして、番号札が、発止はっしと三千子の顔に当るのと、がたんと穴の内側から戸が下りるのと同時であった。
鬼仏洞事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは物体にたとえれば、いやな汁をいっぱいに含んだ海綿か何かのような笑いだが、私は柔かい海綿でなく固い石を発止はっしと頬に打ちつけられた感じだった。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
発止はっし! 投げた小柄を、植木屋、肘をたてに、ツーイと横にそらしてしまった。柳生流秘伝銀杏返いちょうがえしの一手……銀杏返いちょうがえしといったって、なまめかしいんじゃアない。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
侍は提灯をあげて面態をしらべようとした、そのとき菅田平野の右手が伸び、侍の鼻柱(眼と眼の中間)を発止はっしと突いた。侍はのけざまによろめき、提灯を手からとばした。
日日平安 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
と、いちばい、憎さも憎しと柳眉りゅうびを立てて、あやなす二刀の秘術をきわめ、魔術とも見えるそのはやい光の輪のうちに、発止はっしと、相手の槍を見事、巻き取ッてからめ落していた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
エリザベス女王の寵臣エセックス伯爵が彼女自身の判決で処刑されたとき、発止はっしと打ちおろされた首斬人の斧は、三度めにようやく首をきり落すことができたとつたえられる。
せいばい (新字新仮名) / 服部之総(著)
陪審官のそれにも優る傍聴席の疑惑——それをば発止はっしと打ち静めてしまったのは、私の功名心と雄弁の魅力であったのです。あの男を殺した者はたった一人の、この私なのです。
自責 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
みちすがらある森の木陰をよぎりしに、忽ち生茂おいしげりたる木立のうちより、ひょうト音して飛び来る矢あり。心得たりと黄金丸は、身をひねりてその矢をば、発止はっしト牙にみとめつ、矢の来しかたきっト見れば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
閻王えんおうの眉は発止はっしと逆立てり
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
右の肩を打たれようとしたのを、肩を開いたために、それが落ちて来て、刀のつかにのせていた手の甲をすべって、右の小指を発止はっしと打砕きました。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
当たって砕けろ! と三蔵は、うんと諸手もろてで突いて出た、そこを小野派の払捨刀ふっしゃとう、ピシッと横から払い上げ、体の崩れへ付け込んで、真の真剣であご発止はっし
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼女は素早く身辺を見廻し、机の上に載って居た亡き父の肖像入りの額面を取上げるより早いか二人の方に駆け寄り蠅男の顔面目掛けて発止はっしと打ち下ろした。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今度は権三の額、古瘡ふるきずのあたりを発止はっしと打ちました。言うまでもなく銭形の平次得意の投げ銭です。
見得みえもなくそれを握って、お蝶は小間物屋へ駆けこみましたが、暫くしてそこを出て来た彼女の顔は、また前にも増してしおれ返って、出るとすぐに、発止はっしとそこの切石へ珠をつけて砕いてしまう。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
発止はっしとばかり叩きつけた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
お杉お玉が旅人の投げる銭を受けるのは、かおそむけて受けたり、笠を傾けて受けたり、ばち発止はっしと受けたりします。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
のけぞりかえるように、逃げ腰に振り返った途端とたん発止はっし鉢合はちあわせたのは束髪そくはつった裸体の女客であった。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「さてこそ曲者くせもの!」と甚五衛門は、思わず空を振り仰いだ。「えい!」と空に掛け声あって、発止はっしと飛びくる鋭い小剣こづか。それを片袖に縫い止めながら甚五衛門は大音に
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
摺れ違いざま、例の一刀両断と思う小手へ、どこからほうったか、発止はっしと叩きつけたつぶてが一つ。
銭形平次捕物控:126 辻斬 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
順序を追うてそれを思い返しているうちに、発止はっしとこの少年の頭にひらめいたのは、そうだ、この絹だ、この絹をまとめて、外国へ売ってやることはできないか。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
発止はっしと受けは受けたものの、ズルズルと後へ退った刹那、足踏み外して逆様さかさま、幾丈と高い断崖から、氷張り詰めた千曲川へ、「無念!」と叫ぶ声と共に行方も知れず落ちて行った。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
追いすがった十手は、発止はっしと女の肩を打ちました。
発止はっし!」これはまた、どうしたことでしょう、今度は戻って来る方の岸から、礫の雨が飛んで来ました。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
当るを幸い——主膳は机の上のすずりをとって、発止はっし唐紙からかみへ向って投げつけました。硯の中には宿墨しゅくぼくがまだ残っていた——唐紙と、畳に、淋漓りんりとして墨痕ぼっこんが飛ぶ。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今更それを考えて、米友がポカンと呆れ返っていると、その裏から発止はっしと思いついたのは——
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その取落した猪口を拾い取ると、何と思ったか、力を極めて、それを室のたつみの柱の方向をめがけて発止はっしと投げつける。猪口はガッチと砕けて夜の嵐に鳴滝なるたきのしぶきが散るようです。
いざや島田を斃すは我一人と、井上真改しんかいの太刀を振りかざして飛び込んで来たのを、島田虎之助の志津三郎は軽くあしらって発止はっしと両刀の合うところ、ここに鍔競合つばぜりあいの形となりました。
洗水盤みたらしの石を発止はっしと打つと、竹刀の中革なかがわ先革さきがわ物打ものうちのあたりがポッキと折れる。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それを掌で発止はっしとハタいて打ち落し、うつらうつらと枕に親しみかけました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と主膳は我知らず叫び出すと共に、今までの疑問が発止はっしとばかり解けました。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
香具師の連中といえば、興行界の伝手つてを以て行けば、存外、たやすく当りがつくかも知れない。その時に米友の頭へ発止はっしと来たのは、そうだ、この女軽業の親方は顔がいいし、じゃの道はへびだ。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お手の物で米友は、その石を発止はっしと受け止めました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)