疾病しっぺい)” の例文
産土うぶすなかみがあって、生死せいし疾病しっぺい諸種しょしゅ災難等さいなんとう守護しゅごあたってくれればこそ、地上ちじょう人間にんげんはじめてそのその生活せいかついとなめるのじゃ。
時間のゆるすかぎり、糟谷かすや近郷きんごうの人の依頼いらいおうじて家蓄かちく疾病しっぺいを見てやっていた。職務しょくむ忠実ちゅうじつな考えからばかりではないのだ。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そして疾病しっぺい老耄ろうもうとはかえって人生の苦を救う方便だと思っている。自殺の勇断なき者を救う道はこの二者より外はない。
正宗谷崎両氏の批評に答う (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一、表六句(百韻は八句)には神祇しんぎ、釈教、恋、無常、述懐、人名、地名、疾病しっぺい等を禁ず。窮屈なるやうなれども一理なきにあらず、従ふべし。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
どこで生が終り、どこで死が始まるのだか、誰が定めることが出来よう。ある疾病しっぺいにあっては、生命の外部的機関がことごとく休止して了うことがある。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
人間社会で不愉快なる感を与うるものは数多あまたあるが、これを一々区別して、何が最も有力なるかをたずぬるに、貧困よりも疾病しっぺいよりも、失望よりも何よりも
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
あらゆる疾病しっぺいとほとんど没交渉なこの叔父の前に、津田が手術だの入院だのという言葉を使って、自分の現在を説明した時に、叔父は少しも感動しなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だが後世の大部分のものは人為的作物であるため、疾病しっぺいがはなはだ多いのです。意識の超過や作為の誤謬ごびゅうに陥っていないものは稀の稀だと云わねばなりません。
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
けよ、とあるので、附添と、愛吉は、山を崩すがごとく、氷嚢を取り棄てた。医学士は疾病しっぺいの他に、情の炎の人の身を焼きうしなうことのあるを知ったであろう。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
金遣いにかけては、貧家に育った譲吉は、可なり小心であった。とても疾病しっぺいなどの準備として預けてある貯金を、引き出して迄、大島を買う気にはなれなかった。
大島が出来る話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
疾病しっぺい放縦などの覆い尽せない痕跡なのであろうが、一方彼が常に、砲手として船に乗るまでは数学者だった——などというところをみると、そのかずかずの醜さは
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
たとえば「けがれし霊にかれた人」を癒したのは、一種の精神病をば精神作用で癒したのであり、重い皮膚病でも中風でもそれが神経系統の疾病しっぺいである時に限って
新塾の初めて設けらるるや、諸生みなこの道にしたがい、以て相い交わり、疾病しっぺい艱難には相い扶持し、力役事故には相い労役すること、手足の如く然り、骨肉の如く然り。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
無知や疾病しっぺいや悲惨にたいして神聖な戦いをしてる人々。光を征服し空中の道を開いてる、近代のプロメテウスやイカロスとも言うべき人々の、発明の熱望、正気な熱狂。
人類に下る災禍は果してサタンが神の許可を得て起こす所のものなるか——これ今日の人の疑問とする処である。彼らは言うすべての疾病しっぺいは神より刑罰としてくだりしものにあらず。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
妻が許されて良人おっとといっしょになっても、記録にはのせないからであるが、また子供が幾人生れ、その子がどう育てられるかということも、疾病しっぺいに関することもしるしてはなかった。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
忘却は救いだが、愚のくりかえしは人間のごう疾病しっぺいみたいなものである。「歴史とは人間の巨大な恨みに似ている」と小林秀雄氏は言ったが、太平記の全篇はまさに悲歌そのものだ。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なおしたということを断言しますが、しかしそれよりも、あなたの疾病しっぺいを癒したといったほうが本当ですよ。さあ、出来るだけ早く手荷物をまとめて、キッティ嬢の愛をに飛んでいらっしゃい
A博士はかつて、人工心臓即ち人工的に心臓を作って、本来の心臓にかわらしめ、もって、人類を各種の疾病しっぺいから救い、長生ちょうせい延命をはかり、更に進んでは起死回生の実を挙げようと苦心惨憺さんたんした人であって
人工心臓 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
過去の歴史にかんがみても、個人的生活から出た個人的作は疾病しっぺいが甚だ多い。主我におぼれ作為に傾く。真の工藝は個人的藝術 Individual Art ではない。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
疾病しっぺい、埋葬、苦々にがにがしい論争、困窮、世に認められない天才、——そしてことに、その音楽、その信仰、解放と光明、垣間かいま見られ予感され欲求され把握はあくされた喜悦、——神
場内の一半には医療器械、一半には奇怪な解剖模型や、義手義足や、疾病しっぺい模型のろう人形などが陳列してある。三人はそれらの陳列棚の間を、グルグルといそがしく歩き廻った。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
○今朝麻布狸穴まみあなにて、疾病しっぺい、飢餓、交々こもごも起り、往来に卒倒して死に垂々なんなんとせる屑屋あり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
朝枝は痛々しく蝋のような皮膚はだ色をしていたが、一方にはまた、烈しい精神的な不気味なものがあって、すべてが混血児という、人種の疾病しっぺいがもたらせたのではないかとも思われるのだった。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
戦争で死ぬより疾病しっぺいで死ぬ人数のほうが多いそうですし、もしも水素爆弾がぼかぼか落されるようなことになるとしたら、ブラジルへいっても、南極、北極へいっても同じことだと思いますがね
おごそかな渇き (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
孤独、疾病しっぺい、困窮、苦しみの理由は多くあったにもかかわらず、クリストフは我慢強く自己の運命を堪え忍んだ。かほど忍耐強いことはかつてなかった。彼自身でも驚いた。
のこぎり引き、その他殺人と刑罰との肉体的スリル、人体解剖、毒殺、疾病しっぺい、手術などの医学的スリル、世界中を敵として逃げ廻る犯罪者の身の置きどころもないたえ難い恐怖、追われるもののスリル
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そういう衰残のあわれな顔を刻んだものは、ただ老年と疾病しっぺいのみではなかった。生活の苦しみもそれに加わっていた。——がそれにもかかわらず、彼は悲しんではいなかった。
幸福は彼女にとってただに信仰であるばかりでなく、また美徳ででもあった。不幸であることは一つの疾病しっぺいとさえ思われた。彼女の全生活はしだいにそういう原則に従って方向を定めてきた。
シュルツはうちとけた笑いをして、自分の老体や疾病しっぺいのことを話した。