どま)” の例文
是には往来の人もみんな心を動かしてゐる様に見える。立ちどまるものもある。可哀想だといふものもある。然しだれも手を付けない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
この男往来をあるきながら急に立ちどまり、石などを拾い上げてこれをあたりの人家に打ちつけ、けたたましく火事だ火事だと叫ぶことあり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
かかとあがつた靴も穿かない草履穿ざうりばき今日けふも出たなら疲れはもつとひどかつたかも知れないと、あがり切つたところで立ちどまつて息を突きながら思つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
とうとうやつたな‥‥と、わたしおもつた。そして、總身そうみ身顫みぶるひをかんじながらどまつた。中根なかね姿すがたえなかつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
それをかばう様に跛ひきながら歩くので、笹に埋れた倒木に行き当ると乗り越すに手間が取れる。二人はドンドン先へ行って、気が付くと立ちどまっては待っている。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
所長さんは、日向ひなたどまって、ぼくをつまみあげ、つくづくと見ていた。
もくねじ (新字新仮名) / 海野十三(著)
あにいへの門を這入ると、客間きやくまでピアノのおとがした。代助は一寸ちよつと砂利のうへに立ちどまつたが、すぐ左へ切れて勝手ぐちの方へ廻つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
むかし旅人がみち行暮ゆきくれて、とある小社の中に仮宿すると、夜深く馬のすずの音が聞えてきて社の前に立ちどまり、こよいは何村に産があります。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
と云いながら初さんは突然暗い中で立ちどまった。初さんの腰にはのみがある。五斤のつちがある。自分は暗い中で小さくなって
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
健三はその輪の上にはたりと立ちどまる事があった。彼の留る時は彼の激昂げっこうが静まる時に外ならなかった。細君はその輪の上でふと動かなくなる事があった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
此汽車は名古屋どまりであつた。会話はすこぶる平凡であつた。只女が三四郎の筋向すぢむかふに腰を掛けたばかりである。それで、しばらくの間は又汽車のおと丈になつて仕舞ふ。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
老人の部屋は、余がしつの廊下を右へ突き当って、左へ折れたどまりにある。おおきさは六畳もあろう。大きな紫檀したんの机を真中にえてあるから、思ったより狭苦しい。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小野さんは自分の手元から半切れを伝わって机掛の白く染め抜かれているあたりまで順々に見下して行く。見下した眼の行きどまった時、やむを得ず、ひとみを転じてロゼッチの詩集をながめた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三四郎は又立ちどまつた。三四郎はせいの高い男である。うへから美禰子を見下みおろした。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いそがしい徃來わうらいひと何人なんにんでもとほるが、だれどまつてほどのものはない。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
この草原を、散歩する人のほかに、こんなに行きつ戻りつするものはないはずだ。しかしあれが散歩の姿であろうか。またあんな男がこの近辺きんぺんに住んでいるとも考えられない。男は時々立ちどまる。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「おおい」と後れた男は立ちどまりながら、きなる友を呼んだ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「うん」と碌さんはうらめしい顔をして、同じく立ちどまった。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一人ひとり手巾ハンケチひたいを拭きながら立ちどまった。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)