狂氣きちがひ)” の例文
新字:狂気
『ボズさん!』とぼくおもはず涙聲なみだごゑんだ。きみ狂氣きちがひ眞似まねをするとたまふか。ぼくじつ滿眼まんがんなんだつるにかした。(畧)
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
ジエィン——いつぞや私に刄向かつて來たときの、あの狂氣きちがひじみた怒り方を。世界中で一番惡い人間だと私を嫌つたあの口調を。
けんどそれやわしに言はすとうそや。んぼ氣がちごたかて、わしを知つてゝ、お時を知らんちふことがあるもんか。其處んとこは作り狂氣きちがひや。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
こしもあらはのとねりこよ、草叢くさむらからへた汚れた夢のやうだ。いのちの無い影のなかに咲きたいといふ狂氣きちがひ百合ゆりのやうでもある。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
ロレ まゝゝ、滅相めっそうなことをすまい。これ、をとこではないか? 姿すがたればをとこぢゃが、そのなみだ宛然さながら女子をなごぢゃ。狂氣きちがひめいたその振舞ふるまひ理性りせいのない獸類同然けだものどうぜん
雜俳ざつぱいもやる、ことに芝居狂氣きちがひが大變で、素人芝居をして何百兩と費ひ込んだり、ひいきの役者に引幕を送つたり
狂氣きちがひにしてると隨分ずいぶんづよいものとうらまれる、をんなといふものはすこしやさしくてもはづではないかとてつゞけの一トいきに、おぬひは返事へんじもしかねて、わたしはなんと申てよいやら
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
氣の毒に思ひ何時いつまで狂氣きちがひでも有まじ其内には正氣しやうきに成べしとておの明家あきやすまはせ此處にあること半年程はんねんほどにて漸やく正氣しやうきに成しかば以前の如く産婦さんぷ世話せわわざとして寡婦暮やもめぐらしに世を渡りける。
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あの狂氣きちがひのやうに立騷たちさわいで多人數たにんずうあひだけて、この柔弱かよわ夫人ふじん少年せうねんとを安全あんぜん端艇たんてい送込おくりここと出來できやう? あゝ人間にんげんはいざと塲合ばあひには、恥辱はぢ名譽めいよもなく、まで生命いのちしいものかと
幼いアデェルは私を見ると半分狂氣きちがひのやうになつて喜んだ。フェアファックス夫人は平常ふだんの通りの打解けた親しみを以て私を迎へてくれた。
葡萄のやうな薔薇ばらの花、あなぐら酒室さかむろの花である葡萄のやうな薔薇ばらはな狂氣きちがひ亞爾箇保兒アルコオルがおまへのいきねてゐる、愛の狂亂をつかけておくれ、僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
狂氣きちがひの身にして見ると隨分氣づよいものと恨まれる、女といふものは最う少しやさしくても好い筈ではないかと立てつゞけの一ト息に、おぬひは返事もしかねて、私しは何と申してよいやら
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「まだ生きてやはるんやらう。……狂氣きちがひにならはつたんらしい。」
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「お前は誰?」といぶかしげに、驚きながらも狂氣きちがひじみた樣子もなく私を見上げて、「お前は私のまるで知らない人だ——ベシーは何處にゐるの?」