温順おとなし)” の例文
「ああ、妾が必然きっと連れて来て見せるから、温順おとなしくして待っておいで。え、それでもいやかえ。ねえ、お葉さん、確乎しっかり返事をおよ。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
到底どうせもらう事なら親類なにがしの次女おなにどのは内端うちば温順おとなしく器量も十人なみで私には至極に入ッたが、このを迎えてさいとしては
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
養母おつかさん、わたしを食つた其鬼が、お前の難有ありがたがる大臣サ、総理大臣の伊藤ツて人鬼サ、——私もネ、其れまでは世間なみの温順おとなしむすめだつたことを覚えてますよ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
惣「うん成程うかえ、能く墓参はかめえりをする、中々温順おとなしやかな実銘じつめいな男だと云って、村でも評判がい」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
つかはし其場をすませし事迄を落なく語りければ與惣次は大いに感心かんしんなし如何にも今の世には得難き人なり殊に女房叔母ともに奇麗きれいに向ふへつかは温順おとなしき心底なりと傳吉がとく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
それよりかあの温順おとなしやかな写真屋さんな——あの人も一度東京へ用があって来たとか言って、寄って行ったけれど、罐詰屋かんづめやさんと違って、なかなか人品もいいし、何かによく気もつくし
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
真面目まじめ理屈りくつしんなり諄々くどくどと説諭すれば、不思議やさしも温順おとなしき人、何にじれてか大薩摩おおざつまばりばりと語気はげしく、らざる御心配無用なりうるさしと一トまくりにやりつけられ敗走せしが
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
或日食堂への行きずりに私のそでをつかまへ、今日われ/\皆で西寮では誰と誰とが幅をかすだらうかを評議したところ、君は温順おとなしさうに見えて案外新入生に威張る手合だといふ推定だと言つて
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
と、う考えたので、彼は故意ことさらに小さくなって、さながら死せるようにしずまっていた。対手あいて温順おとなしいので、忠一も少しく油断した。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あげし方が足下そくかの家の息子むすこなりしかとは知ねども容姿みなりもよく若きに似氣にげなく物柔ものやはらか折屈をりかゞみき人なればむすめもつは早くも目が附き何處いづこの息子か知ざれど美男びなんの上に温順おとなしやとおなじ事ならあゝいふ人に娘を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
彼はごく温順おとなしくって宜うございますから、おうかれなすっちゃアどうです
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お葉を追い捉えた重太郎は、定めて破れかぶれの乱暴を始めるかと思いのほか、彼ははり温順おとなしい態度であった。が、湿うるんだ眼は一種異様に輝いていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
相續爲る御身ゆゑ學問にこり夜歩行よあるき一ツなさらざるもさうなくてはかなはねどとは言へ善惡二つながらおあんなさるは親御のつねましてや外にお子とてなき和君あなたが餘り温順おとなしすぎし病氣でも出はせぬかとお案じなされて玉くしげたに親樣おやさまが此忠兵衞を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
彼女は何方どちらかといえば温順おとなし過ぎる位であった。むしろ陰気な女であった。しかし柔順すなおで正直で骨を惜まずに能く働いて、どんな場合にも決していやそうな顔をしたことはなかった。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)