泰西たいせい)” の例文
まるで、泰西たいせい名画のみごとな版画をみているように、湿しめり気のない空気が、すべてのものを明るく、浮立うきたたせてみせてくれるのでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
泰西たいせい文学は古今の別なく全く西洋的にして二千年来の因習を負へるわが現在の生活感情に関係なき事あたかも鵬程ほうてい九万里の遠きにことならず。
矢立のちび筆 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
まげにさしてあったさんらんたる美光の品も、それにゆかりのある、泰西たいせい名工の彫琢ちょうたく白金彫はっきんぼり聖母せいぼマリヤのこうがいなのであった。
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だから、僕の考ではやはり泰西たいせい文明の御蔭で女の品行もよほど進歩したものだろうと断定するのだが、どうだろう寒月君
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
たてものの娘だからということばかりではなしに、女優というのが、なくてはならないと、たとえ泰西たいせいの模倣そのままでも、論じられていもしたのだ。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
女子すら泰西たいせいの文字を学びこれに通ずる細川忠興ほそかわただおき夫人明智あけち氏の如きあり。その物質上精神上如何いかに偉大なる影響を及ぼしたるかは、夢想だも及ばざらん。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
泰西たいせいの文運に遅れざらんとして、種々の説、種々の主義を迎えるにいとまがない一部の俳人はそれに耳をして、俳句もまた時流に遅れざらん事を心掛けているが
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
で、生来始てやや真面目になって再び筆硯に親しもうとしたが、もう小説も何だか馬鹿らしくてちっとも書けない。泰西たいせいの名家の作を読んで見ても、矢張やっぱり馬鹿らしい。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
儒教道徳の大半は泰西たいせいの新空気に出会ひて、玉露のはかなく朝暉てうきに消ゆるが如くなりしにあらずや。
鴎外おうぐわい先生を主筆とせる「しがらみ草紙さうし」第四十七号に、謫天情僊たくてんじやうせん七言絶句しちごんぜつく、「読罪与罰上篇つみとばつじやうへんをよむ」数首あり。泰西たいせいの小説に題するの詩、嚆矢かうし恐らくはこの数首にあらんか。
泰西たいせいの諸国にて、その公園にむらがる雀は、パンに馴れて、人のてのひらにも帽子にも遊ぶと聞く。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
眞珠太夫といふのは、泰西たいせいのヴイナスの傳説のやうに、越中の國で蜃氣樓しんきろうを吐く大はまぐりを見付け、磯へ引あげて一と晩砂濱へ置くと、中から、玉のやうな女の兒が生れたといふのです。
泰西たいせいでは古く聖書にあった。「癩病やめるものきよめられん」こう基督キリストは云っている。東洋にも古くからあったらしい。既に論語にも現われている。「伯牛疾あり子之を問ふ、斯人にして斯疾あり」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
主意は泰西たいせいの理学とシナの道徳と並び行なうべからざるの理を述ぶるにあり。文辞活動。比喩ひゆ艶絶。これを一読するに、温乎おんことして春風のごとく、これを再読するに、凜乎りんことして秋霜のごとし。
将来の日本:02 序 (新字新仮名) / 田口卯吉(著)
こんな風に今の銀座界隈かいわいその時分の「煉瓦」辺が、他の場所よりも早く泰西たいせい文明に接したというわけは、西洋の文明がず横浜へ入って来る、するとそれは新橋へ運ばれて築地の居留地へ来る。
銀座は昔からハイカラな所 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
さらに快活なる意気をもって泰西たいせい文明のあとを追走し、もってこれと競争せんと欲するがごときの形勢を現出したるは、吾人がかつ訝りかつ祝するゆえんにして
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
泰西たいせいの都市にありては一樹の古木一宇いちうの堂舎といへども、なほ民族過去の光栄を表現すべき貴重なる宝物ほうもつとして尊敬せらるるは、既に幾多漫遊者の見知けんちする処ならずや。
浮世絵の鑑賞 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
泰西たいせいの画家に至っては、多く眼を具象ぐしょう世界にせて、神往しんおう気韻きいんに傾倒せぬ者が大多数を占めているから、この種の筆墨に物外ぶつがい神韻しんいんを伝え得るものははたして幾人あるか知らぬ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ましてその閲歴は波瀾万丈はらんばんじょう、我国新女優の先駆者であり、泰西たいせいの劇団にもその名を輝かして来た、マダム貞奴さだやっこを、細かに書いたらばどれほど大部たいぶの人間生活の縮図が見られるであろう。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
桂子その人に捧げている、小次郎の心持ちというものは、あの泰西たいせい騎士ナイトなる者が、自分を庇護ひごしてくれる貴婦人に向かって、捧げているところの心持ちと、ほとんど変わりないものであった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
泰西たいせい名画の題材として、記憶している人も少なくはあるまい。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
泰西たいせいの築城術になろうて、天主閣を建るものあり。その工芸、医薬を応用するものあり。甚しきはみずから基督キリスト教的名号を名乗り、その印章には羅馬ローマ字を用ゆるものあり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
橋あり舟ある運河の岸においてのみこれを看得みうるが、銀座日本橋の大通の如き平坦なる街路の眺望に至っては、われら不幸にしていまだ泰西たいせいの都市において経験したような感興を催さない。
たまたま彼女が泰西たいせいの思想劇の女主人公となって舞台の明星スターとなったときに、丁度我国の思想界には婦人問題が論ぜられ、新しき婦人とよばれる若い女性たちの一団は、雑誌『青鞜せいとう』を発行して
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
余が議論の原理は、泰西たいせい諸学士の思想より脱胎だったいし来たるもの少なからずといえども、これを事実に適用して演繹えんえきするに至りては余まったくその責めに任ぜざるべからず。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
希臘ギリシヤ羅馬ローマ以降泰西たいせいの文学は如何ほどさかんであったにしても、いまだ一人いちにんとして我が俳諧師其角きかく一茶いっさの如くに、放屁や小便や野糞のぐそまでも詩化するほどの大胆をあえてするものはなかったようである。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
主意は泰西たいせいの理学とシナの道徳と並び行なうべからざるの理を述ぶるにあり。文辞活動。比喩ひゆ艶絶。これを一読するに、温乎おんことして春風のごとく、これを再読するに、凜乎りんことして秋霜のごとし。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
泰西たいせいにボッカーズの『浮世双紙』、ナワール女王の『懺悔録ざんげろく』等あり。漢土に『飛燕外伝』、『雑事秘』の類あり。近世に至つて『紅楼夢』『金瓶梅』の如き、皆読む者をしてアヂな気を起さしむ。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)