機屋はたや)” の例文
「飛んでもない、邪魔なんて、ひがんでくれては困るが、その荷元の機屋はたやというのが、江戸の者とちがって、おそろしい堅人なのさ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むらからあのとうげをこして母親ははおやまちて、機屋はたやでこの反物たんものい、いえにかえってからせっせとぬって、おくってくださったのです。
田舎のお母さん (新字新仮名) / 小川未明(著)
家へ帰って見ると妹は機屋はたやの天井にしごきをかけて縊死いししていた。神中はその死体を座敷へ運んでとこをとって寝かし、己もそのへやで縊死した。
雀が森の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
この人はスコットランドのグラスゴーの機屋はたやの子でありまして、若いときからして公共事業に非常に注意しました。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
多分あの沿道は河内木棉かわちもめんの産地だったので、機屋はたやがたくさんあったのであろう。とにかくその昔はどれほど自分のあこがれをたしてくれたか知れなかった。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
おかみは行々ゆくゆく彼をかゝり子にする心算つもりであった。それから自身によく太々ふてぶてしい容子をした小娘こむすめのお銀を、おかみは実家近くの機屋はたやに年季奉公に入れた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
全町これ機屋はたやといいたいほど仕事は盛であります。これに続くのは足利あしかがで、織機の音はせわしなくこの町にも響いています。佐野は綿織物めんおりものを主にして作ります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
○さて此娘、 尊用なりとていそぎのちゞみをおりかけしに、をりふし月水ぐわつすゐになりて 御機屋はたやに入る事ならず。
それから小出氏の身の上話になつて、小出氏は、一ノ宮で機屋はたやをしてをつたが、それは今は子供に讓り、老後は此處に引込んで果樹の栽培をやつてをるとのことであつた。
横山 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
発戸ほっとには機屋はたやがたくさんあった。いちごとに百たん以上町に持って出る家がすくなくとも七八軒はある。もちろん機屋といっても軒をつらねて部落をなしているわけではない。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
月に一度ずつ、江戸へゆく機屋はたやの手代に、橋場のようすを探って貰った。金次の傷は浅かった、しかし婿縁組を延ばす役には立った。おつやも首を振りとおし、七兵衛の気持も変った。
夕靄の中 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
機屋はたやの窓にも、湖の上にも、陽炎かげろふがゆらゆらと燃えはじめました。
虹の橋 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
宿に休んだのは一日だけで、翌日はもう、お蝶は城下の西青沼の方角へ、お百草の金看板と、小さな機屋はたやをたずねていました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おせんは、あちらからながれてくる、機屋はたやでうたっているうたいて、自分じぶんむかしおもして、なみだぐんでいました。
北の不思議な話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
○さて此娘、 尊用なりとていそぎのちゞみをおりかけしに、をりふし月水ぐわつすゐになりて 御機屋はたやに入る事ならず。
長い踏板ふみいた船縁ふなべりから岸に渡された。一番先に小さいおととが元気よくそれを渡つて、深い船の中に飛んでりた。其処そこまで送つて来た婿の機屋はたや盲目めくらのお婆さんをおぶつて続いて渡つた。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
カラカラと明け方の街道をとおる野菜車やさいぐるま、どこか裏の方で、もう仕事をはじめたらしい機屋はたやおさのひびき、物売りの呼び声、井戸つるべの音。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むら機屋はたやでは、あいかわらず、わかおんなはたおとかれ、うたこえが、いえそとへひびいていたのです。
北の不思議な話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
機屋はたやの亭主が女工を片端かたはしからかんして牢屋ろうやに入れられた話もあれば、利根川にのぞんだがけから、越後えちごの女と上州じょうしゅうの男とが情死しんじゅうをしたことなどもある。街道に接して、だるま屋も二三軒はあった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
北埼玉きたさいたま多門寺たもんじに近い方角である。この辺、桑の木ばかりだった。その広い桑園のなかに、いつも、おさの音をのどかにさせている一軒の機屋はたやがある。
篝火の女 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
機屋はたやへいってはたらいても、うたがうまいので、仲間なかまからかわいがられていました。
北の不思議な話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
一人の娘は去年さる機屋はたやに望まれて嫁にやつた。
(新字旧仮名) / 田山花袋(著)
戦場の寺住居ではあったが、空地には、桑畑もあり機屋はたやもあった。それを染める染瓶そめがめも備えてあった。
日本名婦伝:大楠公夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
秩父ちちぶや甲州境の山の影が、どっぷり町の西北を囲ってはいるが、ここにまとまっている宵のには、酒のにおいだの——博労ばくろうの声だの、機屋はたやのおさの響きだの、問屋場役人の呶鳴る声だの
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
千軒機屋はたや調布町ちょうふまち
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)