横丁よこちょう)” の例文
三人が列をそろえて一列横隊で歩き出したところへ、横丁よこちょうから不意にとび出して来た若い婦人がドンと留吉にぶつかりそうになった。
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
このころの東京は、見渡すところ寿司屋ばかりの食べ物横丁よこちょうかと思わせるほどの軒並のきなみであった。雨後うごたけのこどころのさわぎではない。
握り寿司の名人 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
そしてとうとう、自分でその幻燈の中へ這入はいって行った。私は町の或る狭い横丁よこちょうから、胎内めぐりのようなみちを通って、繁華な大通おおどおりの中央へ出た。
猫町:散文詩風な小説 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
客もまだないひるまえの横丁よこちょうの一酒館。まいど武松には顔馴染かおなじみの飲み屋らしい。あっさりしたさかな二、三品に、酒だけは、たっぷり取っておいてから
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
腹がへってはかちはとれぬから、もう仕方がない、横丁よこちょうにでもはいって家のかげで食べようと話をきめたとき、二人は大きい門構もんがまえの家の前を通りかかった。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
須田町すだちょうに出た時、愛子の車は日本橋の通りをまっすぐに一足ひとあし先に病院に行かして、葉子は外濠そとぼりに沿うた道を日本銀行からしばらく行く釘店くぎだな横丁よこちょうに曲がらせた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「なにないことがあるものか。三日みっかにあげず三枚橋まいばし横丁よこちょう売女やまねこいにかけてるじゃないか。——はながまともにいてるのが、いっそ不思議ふしぎなくらいなものだ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そして、多くはただちにそこらの暗い横丁よこちょうなどで、みずから石畳に仰臥ぎょうがして男の下に両脚をひろげる。
女肉を料理する男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
こんな事で時間がかかって帰りは夕飯ゆうめしの時刻になりました。奥さんは私に対するお礼に何かご馳走ちそうするといって、木原店きはらだなという寄席よせのある狭い横丁よこちょうへ私を連れ込みました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから、並木から駒形へ来ると、名代の酒屋で内田というのがあった。土蔵が六戸まえもあった。横町が内田横丁よこちょうで、上野方面へ行くと本願寺の正門前へ出て菊屋橋通りとなる見当——
二人は、海へ行く道と山へ行く道の分岐点ビフュウルになる乾物屋の横丁よこちょうで、涙ぐましき握手をかわし、一人は海へ、一人は山へ、別れ別れにつらい課役に従うため、そこで訣別するのであった。
市民の鮮血せんけつに濡れた、アスファルト路面に、燃えあがる焔が、ギラギラと映った。横丁よこちょうから、バタバタと駈け出した一隊があった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
出会いがしらの声に、誰かと思えば、横丁よこちょうに住む周旋屋しゅうせんやおうというせ婆さんだ。この口達者な婆さんがまた、もひとり後ろに、ふとッちょなでぶ婆さんを連れていて
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二十四五脚の椅子いすが食卓に背を向けてずらっとならべてある食堂の中ほどから、横丁よこちょうのような暗い廊下をちょっとはいると、右の戸に「医務室」と書いた頑丈がんじょう真鍮しんちゅうの札がかかっていて
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
坂の中途へ来たら、前は正面にあったほのおが今度は筋違すじかいに後の方に見え出した。坂の上からまた左へ取って返さなければならない。横丁よこちょうを見つけていると、細い路次ろじのようなのが一つあった。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
中には、娘さんや奥様の姿もあった。そうかと思うと、この町では全く見なれない人物が、塀のかげ横丁よこちょうの曲り角に立っていた。
四次元漂流 (新字新仮名) / 海野十三(著)
などと思っているあいだに、とある横丁よこちょうで、釘勘の姿がふッと見えなくなっています。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いまだにい町になり切れないで、がたぴししているあのへん家並いえなみは、その時分の事ですからずいぶん汚ならしいものでした。私は露次ろじを抜けたり、横丁よこちょうまがったり、ぐるぐる歩きまわりました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
矢口家やぐちやのおかみさん。交番もこの通り焼けていますよ。お宅はこの横丁よこちょうだが、入ってみますか」
一坪館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いたちのような鋭さをして、今朝、塀裏町へいうらまち横丁よこちょうを出てきた手先のがん八は、ツンのめるようなかっこうで、牢屋べいの下草へたんつばを吐きかけながら、そそくさと、代官屋敷のほうへ急いで行った。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういって辻永は、心持こころもち顔色をあおくして説明をした。それによると、彼がいまよじのぼった塀の外は「ユダヤ横丁よこちょう」という俗称をもって或る方面には聞えている場所だった。
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
海岸通り横丁よこちょう老骨董商殺ろうこっとうしょうごろしのニュースは、その翌朝には、新聞記事になっていた。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
所々にブクブクと真黒な粘液ねんえききだし、コンクリートの厚い壁体へきたいは燃えあがるかのように白熱し、隣りのとおりにも向いの横丁よこちょうにも、暑さに脳髄を変にさせた犠牲者が発生したという騒ぎだった。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)