柔順おとな)” の例文
お銀は仔羊こひつじのように柔順おとなしくなって来た。笹村の顔色を見ると、じきにその懐へ飛び込んで来るようなれしさを見せて来た。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
鳥渡ちよつと人好きはよくないかも知らんが極く無口な柔順おとなしい男で、長く居るだけ米国の事情に通じて居るから、事務上には必要の人才じんさいだ。』
一月一日 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「ええ。泣くな泣くな。縁起の悪い。ウムウム。わかったわかったそうかそうか。よしよし。俺が頼うでやる頼うでやる。柔順おとなしうしとれ」
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「まあ、まあ、旦那」と顔役の亜弗利加アフリカ丸が飛んで出た。「本人も柔順おとなしくお供すると言ってるんですから——が、一体うしたと言うんです」
上海された男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
こんなことも何時いつもとは違つたことなんです。Sさんは良人をつとと同じ京都の人で、評判の柔順おとなしい人交際ひとづきあひい人なんです。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
さて、柳河の虚弱なびいどろ罎は何時いつのまにか内氣な柔順おとなしいさうして癇の蟲のひりひりした兒になつた。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
遊君おいらんが綺麗で柔順おとなしくって持てさいすりゃ言種いいぐさはないんじゃないか。遅いや、ね、お前さん。」
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
よしかへらずとて彼地あしこはお前樣まへさまのおやしきゆゑ、成長おほきうなりたまふまでのお留守居るすゐいまもおまうしたけれどそれこそさびしく、やにりて母樣かあさまこひしかるべし、なに柔順おとなしう成長おほきうなりたまへと
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
女房が歿なくなりましたので、弟子の恒太郎つねたろうという器用な柔順おとなしい若者を養子にして、娘のおまさめあわせましたが、恒太の伎倆うでまえはまだ鈍うございますから、念入の仕事やむずかしい注文を受けた時は
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「その塩梅あんばいじゃ、子息むすこ柔順おとなしくしていたって、いつ身上しんしょうを渡すか解らないと言ったようなものせえ。」
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ただ柔順おとなしく、僅かに Gonshan(良家の娘、方言)のあの情の深さうな、そして流暢な
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
女房は締り屋の堅造かたぞうで、一高の優等生になっている柔順おとなしい一人息子の長男と一緒に、裏二階で十時頃まで小説を読んでいたが、怪しい物音や叫び声なんか一度も聞かなかった。
近眼芸妓と迷宮事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
とがせまい、罪にもせまい。わらわが心で見免みのがさうから、いかえ、柔順おとなしく御殿をや。あれを左へ突当つきあたつて、ずツと右へ廻つてお庭にや。お裏門の錠はまだ下りてはぬ。いかえ。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
いはゞわしも福人の一人、いづれも柔順おとなしい子供を持つて育てるに手は懸らず人には褒められる、分外の慾さへ渇かねば此上に望みもなし、やれ/\有難い事と物がたられる、あの相手は定めし母樣はゝさん
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
この小さな抒情小曲集に歌はれた私の十五歳以前の Life はいかにも幼稚な柔順おとなしい、然し飾氣のない、時としては淫婦の手を恐るゝ赤い石竹の花のやうに無智であつた。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
「……サ柔順おとなしく働らけ。誰も手前てめえの事なんか云ってる奴は居ねえんだからな。ハハハ」
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「始終家がみ合っているものですし、あの人だってちっとも柔順おとなしかありませんよ。」
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いはゞわし福人ふくじん一人ひとり、いづれも柔順おとなしい子供こどもつてそだてるにかゝらずひとにはめられる、分外ぶんぐわいよくさへかわかねば此上このうへのぞみもなし、やれ/\有難ありがたことものがたられる、あの相手あいてさだめし母樣はゝさん
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「遠慮しましょうかね、」と柔順おとなしく膝の上へ大事に置く。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今からかんげえてみるとあん時によく殺されなかったもんで……多分、出来ることならあっしをおどかし上げて柔順おとなしくして、彼の棚の扉の細工をさせようってえ腹だったのでしょう。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ただ柔順おとなしく僅に Gonshanゴンシヤン(良家の娘、方言)のあの情の深さうな
水郷柳河 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「それでお前さえ柔順おとなしく辛抱してくれれば、私は何でもして上げるよ。芳太郎が厭なら厭でもいいのさ。あれに身上をけて別家さして、お前に他から養子をしたっていいんですからね。」
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いはばわし福人ふくじんの一人、いづれも柔順おとなしい子供を持つて育てるに手はかからず人には褒められる、分外の欲さへ渇かねばこの上に望みもなし、やれやれ有難い事と物がたられる、あの相手は定めし母様ははさん
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
先生の病院はこの功徳の評判だけでも大繁昌だいはんじょうですばい。アハハ……なあ花坊。祝い芽出度の若松様よ……トナ……さあ。花ちゃん。この手を離しなさい。柔順おとなしうこの帯を離しなさい。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
寸の間もはなれざりしものを、今さら一人はやりともなきに、我まゝなれども此處より一人手廻りのひとをつれたく、お新さまを宜き口あらばとお頼みなりしが、あのやうに可愛くしかも柔順おとなしき娘を
花ごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
暖い乳房を含んで柔順おとなしく眠ってしまいました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)