新内しんない)” の例文
パッと又浮上うきあがるその面白さは……なぞと生意気をいうけれど、一体新内しんないをやってるのだか、清元きよもとをやってるのだか、私は夢中だった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
下谷から葭町へ住替をさせたのは、わたしが女から頼まれてやった事で、その訳はこの女には〆蔵しめぞうという新内しんないながしがついていました。
あぢさゐ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
芸妓げいぎ、日本画、浄るり、新内しんない、といった風のものも政府の力で保護しない限り完全に衰微してしまう運命にありそうな気がする。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
三十前後の新内しんない流しをつかまえ、かれにお酒をすすめたが、かれ、客の若さに油断して、ウイスキイがいいとぜいたく言った。
狂言の神 (新字新仮名) / 太宰治(著)
時によると、表を、新内しんないながしが通った。ヴァイオリンの俗謡が響いた。夜分は、客を呼ぶ女の声が聞えることもあった。
溺るるもの (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
新内しんない若辰わかたつが大の贔負ひいきで、若辰の出る席へは千里を遠しとせず通い、寄宿舎の淋しい徒然つれづれにはさびのある声で若辰のふしころがして喝采かっさいを買ったもんだそうだ。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
それはお雪ちゃんが、名取なとりに近いところまでやったという長唄ながうたでもない。好きで覚えた新内しんないの一節でもない。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
バーからひびくレコード音楽は遠いパリの夜のちまたを流れる西洋新内しんないらしい。すべてが一九三三年向きである。
初冬の日記から (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
唯一挺の三味線と咽喉のど資本もとの門付という物貰いでございますが、昔は門付と申すとまア新内しんないに限ったように云いますし、また新内が一等いゝようでげすが
彼女は羽左衛門と、三下さんさがり、また二上にあがりの、清元きよもと、もしくは新内しんない歌沢うたざわの情緒を味わう生活をもして来た。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
新内しんない流し、それから宗十郎の声色こわいろをよくつかうので評判の飴屋などがいたが、そのほかにこの紙芝居なども子供相手とは云っても、やはり芸人には違いなかろう。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
同じ柳派へ出て新内しんないを語っているこのお艶は、たしか自分よりひとつ年下だが、あだな節廻し、ばちさばきが、美しい高座姿とともに今なかなかの人気を呼んでいる。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
上滝かうたきのお父さんの命名なりと言へば、一風いつぷう変りたる名を好むは遺伝的趣味の一つなるべし。書は中々たくみなり。歌も句も素人しろうと並みに作る。「新内しんない下見したみおろせば燈籠とうろかな」
学校友だち (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
新内しんないとか端唄はうたとか歌沢うたざわとか浄瑠璃じょうるりとか、すべてあなたのよく道具に使われる音楽が、其上に専門的な趣をもって、読者の心を軽くつ哀れに動かすのは勿論もちろんの事ですから申し上げる必要もないでしょう。
木下杢太郎『唐草表紙』序 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あるはまた顔もかなしき亭主つれあひなが新内しんない
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
芸妓げいぎ、日本画、浄るり、新内しんない、といった風のものも政府の力で保護しない限り完全に衰微してしまう運命にありそうな気がする。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
こういう横町の二階の欄干から、自分は或る雨上りの夏のに通り過る新内しんないを呼び止めて酔月情話すいげつじょうわを語らせて喜んだ事がある。
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
横になると新内しんない明烏あけがらすをところまんだらつまんで鼻唄はなうたにしているうちに、グウグウと寝込んでしまいました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
読経どきょうすぐにはじまった。保吉は新内しんないを愛するように諸宗の読経をも愛している。が、東京乃至ないし東京近在の寺は不幸にも読経の上にさえたいていは堕落だらくを示しているらしい。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
きのうは、新内しんないの女師匠が来た。富士太夫の第一の門弟だという。二階の金襖きんぶすまの部屋で、その師匠が兄に新内を語って聞かせた。私もお附合いに、聞かせてもらう事になった。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
その上にも景気をつけて新内しんないをやらせたり、声色こわいろつかいを呼込んでいるのもあった。
浄瑠璃じょうるりが何故に面白いのか、新内しんないがなぜ情死させる力があるのか、さっぱりわからない事になりつつあるかも知れない。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
今までは折々門外の小路こうじに聞えた夜遊よあそびの人の鼻唄はなうた、遠くの町を流して行く新内しんない連弾つれびき枝豆白玉えだまめしらたまの呼声なぞ
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
人に聞かせるほどの堪能たんのうのないことを自覚しているから、ホンの手すさびに、さわってみて、新内しんないを一くさり口ずさんではみたが、こんな時に、主膳に立聞きをされて
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
新内しんないが来る、義太夫ぎだゆうがくる。琴と三味線を合せてくるのがある。みんな下手へたではない、巧者こうしゃが揃っているからだ。向う新道の縁台でやらせている遠く流れてくる音を、みな神妙に聴入っている。
「師匠も知ってるから、きいてごらんなさい。芸事にゃあ、器用なたちでね。歌沢もやれば一中もやる。そうかと思うと、新内しんないの流しに出た事もあると云う男なんで。もとはあれでも師匠と同じ宇治の家元へ、稽古に行ったもんでさあ。」
老年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
並木の茶屋のにぎわいと町を歩く新内しんないの流しが聞えて駒形堂こまかたどうの白い壁が月の光にあおく見え出した。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
近代日本女性の複雑な恋愛が新内しんないによって表現される訳には行き難いし、われわれの悲しみを琵琶歌びわうたを以て申上げる事もずかしいのである如く、あの粘着力ある大仕掛にして大時代的な
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
千代田型のと言っている時に聞えたのが生憎あいにく常磐津ときわずでもなく、清元きよもとでもなく、いわんや二上にあが新内しんないといったようなものでもなく、霜にゆる白刃の響きであったことが、風流の間違いでした。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そのあとで、主膳は座敷の中で寝転んで、詩を吟じてみたり、新内しんないを語ったりしてみましたが、やがて思い出したように起き直りました。米友が提灯からうつした行燈には火が入っていました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
水門すいもん忍返しのびがえしから老木おいきの松が水の上に枝をのばした庭構え、燈影ほかげしずかな料理屋の二階から芸者げいしゃの歌ううたが聞える。月が出る。倉庫の屋根のかげになって、片側は真暗まっくら河岸縁かしぶち新内しんないのながしが通る。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
新内しんないが流して行きます。が次第にふける……
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)