しき)” の例文
と、萩乃の手が、ふろしきの結びめにかかった時だった。剣道修業で節くれだった門之丞の黒い手が、むずと、萩乃の白い手をおさえたのです。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
貞「いゝえ私の床は参ってからしきっぱなしで、いつも上げたことはないから、ずっと遣るとこう潜り込むので、へえ有難う」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
其処そこしきものには熊の皮を拡げて、目のところを二つゑぐり取つたまゝの、して木の根のくりぬき大火鉢おおひばちが置いてあつた。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
八右衞門きゝてなる程勘太郎とやらんうたがしきものなれども屹度きつと隱居を殺したりとも定難さだめがたし併し御吟味を願はゞ何か惡事有る者ならんが各々おの/\證人にならるゝとも此事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
で、私はまた上り口へ行って、そこに畳み寄せてあった薄いむしろのような襤褸ぼろ布団を持ってきて、それでもしきかけと二枚延べて、そして帯も解かずにそのまま横になった。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
けふなん葉月はづき十四日の野辺のべにすだく虫の声きかんと、例のたはれたる友どちかたみにひきゐて、両国りょうごくの北よしはらの東、こいひさぐいおさきのほとり隅田のつつみむしろうちしき
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
兩國といへばにぎわしきところと聞ゆれどこゝ二洲橋畔けうはんのやゝ上手かみて御藏みくら橋近く、一代のとみひろき庭廣き家々もみちこほるゝ富人ふうじんの構えと、昔のおもかげ殘る武家の邸つゞきとの片側町かたかはまち
うづみ火 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
しまいには、下棚の底板を剥がしてしき柱床はしらどこまでのぞきこんだが、鼠一匹でてこなかった。
顎十郎捕物帳:13 遠島船 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
寝床はそこにしきぱなしになっていたが、ぬけのからだった。しかし毛布は、人間の身体が入っていたことを証明するかのように、トンネル形にふくれていた。枕は土間にとんでいた。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
所謂いはゆるこしの松ふうしゆく女もいく人か住むといふやうな物しづかな屋しき町でもある。
どうしてもお国が富んでいる、仁徳をおしきになる
すじかひにふとんしきたり宵の春
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
出させ三郎兵衞を饗應もてなしながら猶帳合をなし居けるうち邸方やしきがたよりむづしきはらひ殘りの掛合かけあひなどありて四郎右衞門も忙敷いそがしくたり立たりせしまぎれに三郎兵衞は掛硯筥かけすゞりばこの上に置たる彼の百兩を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「ここがいぞ、いや、しきものはいらん、いらん。」
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
しきて今や/\と相待あひまちける所へ三五郎次右衞門寺社奉行じしやぶぎやう郡奉行こほりぶぎやう同道にて來りしかば祐然は出迎いでむかたゞち墓所はかしよへ案内するに此時三五郎は我々は野服のふくなれば御燒香せうかうを致すはおそれあり貴僧きそう代香だいかう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)