ゑぐ)” の例文
宿やどと、宿やどで、川底かはそこいはゑぐつたかたちで、緑青ろくしやうゆき覆輪ふくりんした急流きふりうは、さつ白雲はくうんそらいて、下屋げやづくりのひさしまれる。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ゑぐられる様に腹が痛む。小供等はまだ起きてない。家の中は森としてゐる。窓側の机の上にはまだ洋燈が朦然ぼんやりともつてゐた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
隣りの納戸から、自分と勘兵衞と一緒に居るところへ槍を突つ込んだのは、恐ろしいたくらみだ——が、考へて見ろ、槍は捻つてゑぐるやうに突くものだ。
死力をめたる細き拇指おやゆびに、左眼ゑぐられたる松島は、いたみに堪へ得ぬかほわづかもたげつ「——秘密——秘密に——名誉に関はる——早く医者を、内密に——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
ゑぐり出し、自分で自分の右手をぎ取るのだ。お前の心臟が犧牲となり、お前はそれを突き刺す僧になるだらう。
うめなんぞじつて、おとつゝあはらゑぐいてやつからつてろ」勘次かんじとうからしぶつてしたでいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
最愛のものゝ腹を割き頭をゑぐる……さうする事が自分の事業に對して一番忠實な處置であるのを信ぜねばならぬ彼れの世界はすぐその背後に廣がつてゐるのだ。
実験室 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
上の方を取り棄て、釜肌を殘して、西瓜の實をゑぐるやうに、眞ん中だけの飯を移し取つて、それだけを喰ふことにしてゐた。釜肌にくツ附いた飯を、飯の皮と呼んでゐた。
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
左の目は眼球の黄褐色をした部分の内部が壞れて、うしろへ脱落してゐるらしいといふ診斷で、事によると目の球をすつかりゑぐり出さなければならないかも知れないと言はれたのである。
赤い鳥 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
胆嚢たんなうと肝臓らしきものをゑぐり取りて乙女の前垂に包み、傍の谷川にて汚れたる手足と刀を洗ひ浄めつゝ一散に山を走り降り、きもあるじが教へ呉れし通りに山峡の間を抜け、村里と菜種畠をよぎり行くに
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
だが、おもへば私はき過ぎた。曙は胸ゑぐ
「あの矢の根は物凄かつたが、矢が當つてついた傷なら、眞つすぐに突きける筈。ところが、この傷はゑぐれてゐる」
はやしはづれから田圃たんぼへおりるところわづかに五六けんであるが、勾配こうばいけはしいさかでそれがあめのあるたびにそこらのみづあつめて田圃たんぼおとくちつてるので自然しぜんつちゑぐられてふかくぼみかたちづくられてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
人を刺して、いきなりゑぐるのは、武藝の心得のある者だ。素人の盲目突めくらづきではない。——曲者はあの晩加島屋に三百兩の金が用意してある事を知つて居る武家だ。
手負乍ら、お嘉代の烈々れつ/\たる氣魄きはくが、その打ちしめつた言葉のうちにも、聽く者の肺腑はいふゑぐります。
けてゐるから大したことは無いが、存分にゑぐつた傷だから、請合ひ兼ねるといふことで
細い刄物で背後うしろから一と突きに突き上げたものですが、お君の場合は思ひ切りゑぐつてあるのに、これはたゞ突いただけで、同じく致命的なものであつたにしても、大變な違ひがあります。