弾機ばね)” の例文
旧字:彈機
但し弾機ばね一個不足とか、生後十七年、灰色のぶちある若き悍馬かんばとか、ロンドンより新荷着、かぶおよび大根の種子とか、設備完全の別荘
(新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
一所懸命にやってみたが、僕の予想していたとおり、それは上がらなかった。そこで僕は隠し弾機ばねがあるにちがいないと気がついた。
そう言えば、かささぎは、弾機ばね仕掛けのような飛び方をして逃げて行く。七面鳥は生垣のなかに隠れ、初々ういういしい仔馬こうまかしわ木蔭こかげに身を寄せる。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「ああ、僕はやつぱり日本人だ。JAPONAIS だ。MONGOL だ。LE JAUNE だ。」と頭の中で弾機ばねの外れた様な声がした。
珈琲店より (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
僕は時計を持っていたが弾機ばねが途中でこわれて役に立たぬ。此の時計は目覚まし時計で、闇に見ると数字のところの光る様に作ったものである。
ドナウ源流行 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
それでも革舟コラクルはただちょっと跳ね上って、弾機ばね仕掛のように踊り、鳥のように軽々かるがると向側の波窪へ降りてゆくのであった。
と勝ち誇つた軍鶏しやものやうに一寸気取つてみせる。弾機ばねゆるんだ吹込蓄音機は黙りこくつて、ぐうともすうとも言はない。
ペンタクルの中央には階子はしごの形があって、その三段目には一七六五年と記されていた。さらに精密に検査しているうちに、わたしは弾機ばねを発見した。
人造人間の弾機ばねによって、そのたびに粋なナイト・ドレスをつけた夜の女が、写真に絵姿となってあらわれるのだ。
大阪万華鏡 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
弾機ばねのいい黒塗の乳母車に白衣の保姆ナアスをつれた若夫人が草原の上へ小テーブルに向って脚を組んでいる。そこはケンシントン・ガーデンの奥の野天喫茶店だ。
ロンドン一九二九年 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
強い弾機ばねが放たれたように、再び元の位置に飛び返って、「夢であったか、それとも夢ではなかったのか」
「隠れるか」と一等運転士チイフ・メイトが言った。弾機ばねのように為吉は其の胸へ噛り付いた。声が出なかった。
上海された男 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
そのうちに、客車の車輪と弾機ばねとの単調な動揺は、しだいに彼を落ち着かせ、あたかも音楽から起こされる波が力強い律動リズムにせきとめられるように、彼の精神を支配していった。
と、男を圧迫おしつける様に言つて探る様な眼を異様に輝かした。そして、弾機ばねでも脱れた様に
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
心の底は弾機ばね仕掛けになっているのでありましょうか。どの感情の道を辿って行っても真面目に突き詰めて行けばきっとその弾機に行き当るのでしょうか、必ず楽観に弾ね上って来ます。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
見ると東坡巾先生は瓢も玉盃も腰にしてしまって、懐中ふところの紙入から弾機ばねの無い西洋ナイフのような総真鍮製そうしんちゅうせいの物を取出して、を引出して真直まっすぐにして少しもどすと手丈夫てじょうぶな真鍮の刀子とうすになった。
野道 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
私は悸然ぎよつとして、慌てて雑誌を机の下へ投げ込んで弾機ばねの様に立ち上つた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
するともう一人がそばの豆腐屋か何かの店から十のうへ火を一杯掬ってきて、突然いきなり勘六の尻へ当てがいました。忽ち勘六は弾機ばね仕掛けのように立ち上ったばかりか火と見ると一二間飛び退きました。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
弾機ばねの廻らぬ自働車ママ銑葉ぶりきの台へ載せたまま馬車に轣かせてやりませう
都会と田園 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
それと、彼女が、弾機ばねのやうに飛びあがつたのと同時であつた。
すべてを得るは難し (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
苦痛の弾機ばねの上に乗つた人形だ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
跳ねかへる弾機ばね
一心の弾機ばね
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
大きな箱馬車に乗つて、弾機ばねに揺られながら出かけると、またしても鍛冶屋の眼にはあらゆる珍らしい光景が映りだした。
かささぎは、それでも、弾機ばね仕掛けのような飛び方をして逃げて行く。七面鳥は生籬いけがきの中に隠れている。そして、弱々しい仔馬こうまが、柏の木蔭に身を寄せている。
その時計はだいぶ古くなって、神戸を出帆するとき神戸の時計店で弾機ばねを直した。それから維也納ウインナにいるときも、民顕ミュンヘンにいるときも度々その弾機を直した。
ドナウ源流行 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
弾機ばねもない堅い椅子が四五脚、むき出しの円卓子まるテーブルの周囲に乱雑に置いてあった。その一つを腰の下に引きよせるや否や、ブーキン夫人は新しい勢いで云いだした。
(新字新仮名) / 宮本百合子(著)
おめかしやの婦人は弾機ばねではじき飛ばされたやうな顔をして、さつさと其処そこを立ち去つたさうだ。
と、男は強い弾機ばねに弾かれた様に、五六歩窓側まどぎはを飛び退すさつた。「呀ツ」と云ふ女の声が聞えて、間もなく火光がパツと消えた。窓を開けようとして、戸外そとの足音に驚いたものらしい。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
県庁所在地のNNというまちる旅館の門へ、弾機ばねつきのかなり綺麗な小型の半蓋馬車ブリーチカが乗りこんで来た。
それを見ると、そこらにゐた四五羽の鶏は、弾機ばね細工のやうに、いきなり地べたにひつくりかへつて、紐でしばられるやうに二本の脚をちやんと腹の上にそろへてゐるのであつた。
勇気とか堅忍とかいうものは、結果ではなくて一つの行動の内面的な弾機ばねである。
用の少い官吏とか会社員とかが、仕様事なしの暇つぶしに、よくる奴で、恁麽こんな事をする男は、大抵弾力のない思想をツて居るものだ。頭脳に弾機ばねの無い者は、足に力の這入はいらぬ歩行あるき方をする。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ぱっと留め金が外れたように、彼女らはその弾機ばねをはずませる。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
ちょっと眼につかないような小さな弾機ばねが仕掛けてあって、それを押すと、その義足をつけた男がひとりでにのこのこと歩き出してどっかへ行ってしまったため
内田博士は弾機ばね細工のやうに一あし後へ飛んだ。そしてどこへ持物をおいたものかと、狼狽うろたへ気味にそこらを見廻してゐたが、思ひきつてわきに抱へた書物をそのまゝそつと地面ぢべたに置いた。
それを生かしてゆく強靭な理性の弾機ばねをもち得ないで来ている。
「どう考えるか」に就て (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
弾機ばね仕掛けの煙草たばこの粉。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
伎倆うでのしっかりした職人か、さもなければ丈夫な百姓ばかりでな。ようがすかね、例えばあの馬車大工のミヘーエフじゃて! あいつは立派な弾機ばねつきの馬車より他にゃあ拵らえなかっただ。