引攫ひっさら)” の例文
揺れる火影ほかげに入乱れる処を、ブンブンとうなって来て、大路おおじの電車が風を立てつつ、さっ引攫ひっさらって、チリチリと紫に光って消える。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
世間の猫はコソコソ忍び足で近づいては、油断を見済まして引攫ひっさらうものだが、二葉亭の猫は叱られた事がないからこわいという事を知らない。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
一人いちにんの悪者が島田髷の女を捕えて打擲ちょうちゃくするのみならず、娘の持ったる包を引攫ひっさらって逃げきました。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「脱走武士なんかがやって来て、軍用金だといって、引攫ひっさらって行ってしまうじゃアありませんか。……親方ア金持だというからそこんところを余程うまくやらねえと。……」
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
引攫ひっさらって、目ざす吉原、全盛の北のくるわへ討入るのに、しころの数ではないけれども、十枚で八銭だから、員数およそ四百枚、たもと懐中ふところ、こいつは持てない。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何故と云って二月から五月までひとの娘を引攫ひっさらって、斯様こんな山の中へ連れて来て居るんだよ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
店の客人が、飲さしの二合びんと、もう一本、棚より引攫ひっさらって、こいつを、丼へ突込つッこんで、しばらくして、婦人おんなたちのあとを追ってぶらりと出て行くのに、何とも言わねえ。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
旅魚屋の傳次は斯う云う事には度々たび/\出会って馴れて居るから、場銭ばせん引攫ひっさらって逃出す、庄吉も逃出し、眞達もく処がないから庫裏くりから庭へ飛下り、物置へ這入って隠れますと
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「御免なさい、」というかと思うと、引攫ひっさらうように小包を取って、もすそを蹴返すと二階へ、ふい。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それとお前がくッついて殿様を殺し、大小や有金ありがね引攫ひっさら高飛たかとびをしたのだから、云わばお前も盗みもの、それにお國も己なんぞに惚れたはれたのじゃなく、お前が可愛いばッかりで
が、界隈かいわいの荒れた卵塔場から、葬礼とむらいあとを、引攫ひっさらって来たらしい、その提灯は白張しらはりである。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
駕籠を釣らして来て源三郎とおこよと云う女太夫を引攫ひっさらって逃げようとする、るめえとする、争って鎗で突かれて親父様はお逝去かくれだから、お家は改易になり、座光寺の家もつぶれたがね
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
女房はきがけに、安手な京焼の赤湯呑を引攫ひっさらうと、ごぼごぼと、仰向あおむくまであらためてうがいをしたが、俥で来たのなどは見た事もない、大事なお花客とくいである。たしない買水を惜気なく使った。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
賊はおめえさんたちだ、わっちは西浦賀の女郎屋の半治という者で、孩児がきの時分から身性が悪くって、たび/\諸方ほうぼうくすぶって居て、野天博奕のでんばくち引攫ひっさらい又ちょっくらもち見た様な事も度々たび/\遣って
(どうしたんです。)と、ちょうどい、その煙草盆を一つ引攫ひっさらって、二人の前へ行って、中腰に、敷島を一本。さあ、こうなると、多勢の中から抜出ぬけだしたので、常よりは気が置けない。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
側にいた年齢としごろ廿二三で半合羽はんがっぱを着ている商人体あきんどていの男が、草鞋のよごれたのを穿いて頬冠ほうかむりをしながら、此の男も出に掛りますと、突然いきなり傍にあった角右衞門の風呂敷包を引攫ひっさらってげましたから
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と、甘谷が座蒲団を引攫ひっさらって、もとの処へ。……身体からだに似ない腰の軽い男。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その金エ引攫ひっさらって逃げ出す音に目エ覚して、後姿を見れば此の野郎でがんすから、魂消て口い明いたっきり、おッちめることが出来やしなかった、すると老爺さまがおこって早く名主どんのおちょうへ付けろ
そのはずでさ、来ないも道理。どさくさ紛れに、火の玉の身上しんしょうをふるった、新しいばりかんを二ちょうくしが三枚、得物に持った剃刀をそのまま、おまけに、あわせまで引攫ひっさらって遁亡フイなんですって。……
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
秋葉の旦那だんな、つむじが曲つた。颶風はやての如く、御坊ごぼうの羽黒と気脈を通じて、またゝくの今度のもよおし拙道せつどうは即ちおおせをうけて、都鳥の使者が浜松の本陣へ着いたところを、風呂にも入れず、縁側から引攫ひっさらつた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
(別嬪が居て御覧ごろうじろ、米一升のかわりに引攫ひっさらっちまう。)
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「信や……絵の具皿を引攫ひっさらっておいで。」
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
煮込を一串ひとくし引攫ひっさらう。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)