山百合やまゆり)” の例文
栗原山の山居にもいたあの山百合やまゆりにも似ていた可憐な——名を、おゆうといった女性であることは、もうあらためて問うまでもない。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夕涼ゆふすゞみにはあしあかかにで、ひかたこあらはる。撫子なでしこはまだはやし。山百合やまゆりめつ。月見草つきみさうつゆながらおほくは別莊べつさうかこはれたり。
松翠深く蒼浪遥けき逗子より (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
山百合やまゆりは花終らば根を掘りて乾ける砂のなかに入れ置けかし。あれはかくせよ。これはかうせよと終日ひねもすたすきはづすいとまだになかりけり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
かばんを置いたる床間とこのまに、山百合やまゆりの花のいと大きなるをただ一輪棒挿ぼうざしけたるが、茎形くきなりくねり傾きて、あたかも此方こなたに向へるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
今秋は御地おんちより山百合やまゆり二千個、芍薬種子たね三升程、花菖蒲はなしやうぶ五百株送附し来る都合に相成居り候間、追つて明年の結果御報知申上ぐべく候。(後略)
新らしき祖先 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
自分はすぐに顔を洗いに行った。不相変あいかわらず雲のかぶさった、気色きしょくの悪い天気だった。風呂場ふろば手桶ておけには山百合やまゆりが二本、無造作むぞうさにただほうりこんであった。
子供の病気:一游亭に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
山百合やまゆりのマルタゴン、いろい眼をしたマルタゴン、東羅馬ひがしろおまの百合の花、澆季皇帝げうきくわうてい愛玩あいぐわん聖像せいざうかう
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
この姫のもとにおいでになつて一夜おやすみになりました。その河をサヰ河というわけは、河のほとりに山百合やまゆり草が澤山ありましたから、その名を取つて名づけたのです。
今は十三歳と聞けばなつかしき山百合やまゆりの、いま幾年いくとせたゝば人目にかゝらむなど戯れけるうちに、老婆はほかの小娘の、むかしの少娘のとしばへなるものをいだき来りて我を驚ろかせぬ。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
山里もほおとち、すいかずらの花のころはすでに過ぎ去り、山百合やまゆりにはやや早く、今は藪陰やぶかげなどに顔を見せる蕺草どくだみや谷いっぱいに香気をただよわす空木うつぎなどの季節になって来ている。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
逗子の別荘にては、武男が出発後は、病める身の心細さやるせなく思うほどいよいよ長き日一日ひまたひのさすがに暮らせば暮らされて、はや一月あまりたちたれば、麦刈り済みて山百合やまゆり咲くころとなりぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
夕暗ゆふやみに白さ目につく山百合やまゆりの匂ひ深きは朝咲きならむ」
睡蓮 (新字新仮名) / 横光利一(著)
なつ山百合やまゆり難波薔薇なにはばらにほのめきぬ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
緋おどし谷一たいは、ほとんど山百合やまゆりの花でうまっている。むしろ百合谷ゆりだにぶべきところだが、その盆地に特殊とくしゅな一部落ぶらくがあって、百合より名をなすゆえんとなっている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
物可恐ものおそろしげなる沢の名なるよ。げに思へば、人も死ぬべき処の名なり。我も既に死なんとせしがと、さすがうつつの身にもむ時、宮にはあらで山百合やまゆりの花なりし怪異を又おもひて、彼は肩頭かたさき寒くふるひぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
山百合やまゆりのマルタゴン、葡萄色えびいろ頭巾づきんかぶつてゐる。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)