山椒さんしょう)” の例文
下水の桶から発散する臭気や、ねぎや、山椒さんしょうや、芥子けしなどの支那人好みの野菜の香が街に充ち充ちた煙りと共に人の嗅覚を麻痺させる。
沙漠の古都 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一朝手裏剣をとっては稀代きだいの名手である点、なるほど「山椒さんしょうは小粒でもピリッとからい」にそむかないとうなずかせるものがある。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
古沼からひきずり出した山椒さんしょうの魚の化け物みたいな人間だ。神経の反射とか、感覚とかいうものがまるでない。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると、そのあとは急に良き醤油に山椒さんしょうの芽の匂う鯛の兜焼かぶとやきが食べたくなり、洋間の中に青竹の欄干の小座敷がしつらえてある和食の料理店へ河岸かしを替えます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
岸辺には藻が茂って、箱根山椒さんしょう魚が泳ぎ廻っている。それにも、知らない運命が気の毒でならなかった。
ある偃松の独白 (新字新仮名) / 中村清太郎(著)
山椒さんしょうの皮を春のうまの日の暗夜やみよいて土用を二回かけてかわかしうすでよくつく、その目方一貫匁かんめを天気のいい日にもみじの木を焼いてこしらえた木灰七百匁とまぜる
毒もみのすきな署長さん (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
はかまヲハカズニ行ッタカラ、雷門ノ内デ込合ウ故ニ、刀ガ股倉ヘ入ッテ歩カレナカッタガ、押合ッテ行クト、侍ガ多羅尾ノ頭ヲ山椒さんしょう摺古木すりこぎデブッタカラ、オレガ押サレナガラ
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
山椒さんしょううおでも棲んでいたのでしょうが、ともかくも龍が棲んでいたというので、昔は龍の池と呼んでいたそうですが、それが中ごろから転じて龍馬の池ということになったのです。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼等は谷川のふちに毒流しをしてうおるために、朝早くからしもの村から登って来て山椒さんしょうの樹の皮を剥ぎ、しきみの実やたでなどといっしょに潰して毒流しの材料を作っているところであった。
岩魚の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
種は煮焼きしたものも盛に用いたが、蝦と鮑は必ず生きて動いているものを眼の前で料理して握り、物にっては山葵わさびの代りに青紫蘇あおじそや木の芽や山椒さんしょう佃煮つくだになどを飯の間へはさんで出した。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
山小屋の囲炉裏に、串に刺した鰍を立てならべ榾火ほたびで気長にあぶって、山椒さんしょう醤油で食べるのが最もおいしい。焼きからしを摺鉢ですり、粉にして味噌汁のだしにすれば、これまた素敵である。
冬の鰍 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
荊棘いばら山椒さんしょうの樹のようなもので引爬ひっかいたのであろう、雨にぬれた頬から血が出て、それが散っている、そこへ蝋燭の光の映ったさまははなはだ不気味だった。漸く其処そこへ歩み寄った晩成先生は
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
煮た塩昆布をそのまま茶漬けにするのも、もとより異存はないが、山椒さんしょうの好きな人は、山椒の実の若くやわらかい時に、昆布といっしょに煮るといい。あるいは唐辛子とうがらしなどを入れるのもいい。
塩昆布の茶漬け (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
卑弥呼ひみこは竹皮を編んで敷きつめた酒宴の広間へ通された。松明たいまつの光に照された緑のかしわの葉の上には、山椒さんしょうの汁で洗われた山蛤やまがえると、山蟹やまがにと、生薑しょうがこい酸漿ほおずきと、まだ色づかぬ獮猴桃しらくちの実とが並んでいた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
ひら小鯛こだいの骨抜四尾。独活うど花菜はなな山椒さんしょうの芽、小鳥の叩き肉。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「先生におだてられゝば山椒さんしょうの木へ逆さになって登る代物しろものだ」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
山椒さんしょうがヒリッと舌をさした。
風琴と魚の町 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
どこからとも知れず、宙にうなって飛来したのは、いわずもがな、人猿山椒さんしょうの豆太郎投ずるところの本朝の、手裏剣の小柄!
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「忍剣かなにか知らねえが、いまごろは、山椒さんしょうの魚の餌食えじきになっているだろう」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一、薬味 ねぎのみじん切り、ふきのとう、うど、ひねしょうがのおろしたもの、七味とうがらし、みょうがの花、ゆずの皮、山椒さんしょうの粉など、こんな薬味がいろいろあるほうが風情があっていい。
美味い豆腐の話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
山椒さんしょう一つまみ蓋の把手とってに乗せて、飯櫃めしびつと一緒に窓から差し出した。
家霊 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「こうもり、こうもり、山椒さんしょう食わしょ。」
薬前薬後 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
山椒さんしょうは小粒でも辛い」
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「チェッ! 火事は渋江村しぶえむら、ときやがら。こちとら小石川こいしかわ麻布あざぶは江戸じゃアねえと思っているんだ。しぶえ村とはおどろいたネ。おどろき桃の木山椒さんしょうの木……」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
夕陽ゆうひのうすれかけたみずうみの波をザッザときって、おかへさして泳いでくるものがあった。湖水のぬし山椒さんしょううおかとみれば、水をきッてはいあがったのはひとりの若僧わかそう——かの忍剣にんけんなのであった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山椒さんしょうの豆太郎、どことなくみだらな眼をニヤつかせて、さすがに争われずふっくらと白い弥生の胸元をのぞきこむようにしているので、はッとした弥生、思わず立ちあがった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)