よこ)” の例文
私の學資は毎月極めて郷里くにから送つてよこして呉れるといふ風には成つて居ませんでした。これには私は多少の不安を感じて居ました。
と、直ぐ有り合せの麺麭屑パンくづと、お説教本とを贈つてよこさうとするかも知れないが、犬を食つたのは何も肉が高くなつたからではない。
いかにも人を馬鹿にした云い草や又、あまり見っともいい事でもないのにむき出した葉書でなぞよこすのがたまらなく気にさわった。
栄蔵の死 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「云ひ憎いわけがあるの。何時帰るか解らないけれど妾が手紙をよこすまでは、何とかうまいことを云つて家に居て下さいね。」
女優 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
所々奔走してゐるけれども、まだ出来さうな様子が見えないので、已を得ず三千代に云ひ付けて代助の所に頼みによこしたと云ふ事がわかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
慰めの手紙をよこしてくれたことがあったのであるが、こんな所で、山と雲だけを眺めている伯父の身にとっては、もっともな心づかいであったのである。
由布院行 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
相手のたゝいてよこす歌が分ると、そのしるしに、こっちからも同じ調子で打ちかえしてやる。隣りはその間、自分のをやめて聞いているのだ。そして俺のが終ると
独房 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
サディはウッドワード夫人がフロリダ地方へ出立する以前、一ヶ月ばかり女中として住み込んでいた。そして彼女は室々の詳細の様子をスパイダーに知らせてよこしたのだ。
赤い手 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
弁才すぐれた比丘とあり、この二大宝を二億金の代りに我によこせと、中天王惜しんで与えそうもなきを見、かの比丘説法して、世教は多難なる故、王は一国のみを化す、これに引き替え
園子の姉とか妹とかいう人達までこの老人にたくしてそれぞれ餞別せんべつなぞを贈ってよこしてくれたことを考えても、思わず岸本の頭は下った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
母さんは云ひかけて、烈しくかぶりを振つて、そして、とう/\、また、この田舎の叔父様のところによこされてしまつた。
鵞鳥の家 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
応募原稿は総て三万余通、世界の各方面から送つてよこされたもので、なかには仏蘭西の塹壕のなかで書いた物さへあつた。
「もとは、よく手紙が来たから、様子が分ったが、近頃じゃちっともよこさないもんだから」
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「未来のWと思っていたが、君が嫁いて失望した……いずれその内に訪ねて行く……」こんなことを女名前にして書いてよこす人も有った。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一体ぢきに手紙の返事をよこす人には神信心の厚い、正直者が多いものだが、この応募者も察する所、正直者だつたに相違ない。返事にはかうあつた。
と礼を云ひ、母がよこしたのだといふチユーリツプの鉢を私の机の上に置いた。春時分のことだつたに違ひない。
塚越の話 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「もとは、よく手紙がたから、様子がわかつたが、近頃ぢやちつともよこさないもんだから」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「どんなにか叔母さんも御力落しでしょう」と正太はお雪の方へ向いて、慰め顔に、「郷里くにの母からも、その事を手紙に書いてよこしました」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かういふ理由わけで、H氏が上京する報知が来ると、井上侯はいつも迎へ車を停車場ていしやばまでよこす事を忘れなかつた。
それあ、町へ行くのはドリアンを飛ばせて行くんだから僕は返つて面白いけれど、何しろ先月からは何も彼もキヤツシでなければよこさないといふ規定が出来たのでね。
川を遡りて (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
已を得ず三千代に云い付けて代助の所に頼みによこしたと云う事が分った。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お節が旅館から妹へ通じてよこした電話で、叔父さんのところでは馳走振の鰻飯うなぎめしを冷くして待つて居た。お婿さんの外国土産などもそこへ取出された。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
浜口夫人はその女中については、幾度か実家さとへ頼んでよこして貰つたが、なか/\気に入つたのが無かつた。
自分でもそれを悦んでゐるらしく、やがて私によこす手紙にもB・Rと署名したりした。手紙といふのは、若しも土曜日に他の約束が出来て熱海にゐる私を訪れ難い折に、簡単な断り状に過ぎなかつた。
タンタレスの春 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
彼女あれは病人を引受けてるで……俺がまた入替りに成って、彼女をもよこすわい……御風呂にでも入れてやって御くれ」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一人は徳川の四天王、一人は江戸の国学者、一人は幕末の剣術使ひで、新村氏とはみんな深い昵懇なじみであつたが、不都合な事には、誰一人年賀状をよこしてゐなかつた。
それを受取って見て、岸本は元園町の友人が復た手紙と一緒にわざわざ迎えのくるままでもよこしてくれたことを知った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
欧羅巴ヨーロツパの戦線に派遣せられた米国の軍隊に、牛乳配達夫の召集せられたのが一人まじつてゐた。その男が最近郷里くに女房かないあてによこした手紙には、次のやうな文句があつた。
親戚や知人からはそれぞれ品物やら手紙やらで祝ってよこした。三吉が妻の友達にと紹介した二人の婦人からも来た。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
なりはなつたが、何だつて桂田氏が思ひがけなくあんな電報をよこしたのか、訳が分らなかつた。
しかし同情のこもった岡見の手紙は、一旦は捨吉をびっくりさせたが、それをよこしてくれた岡見の心情を考えさせた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
手錠といふと、数年前西伯利亜シベリアの監獄にゐる或る囚徒が本国の文豪ゴリキイに手錠を一つ送つてよこした。自分が牢屋でこさへた記念品だから、遠慮なく納めて呉れと言つた。
その前に父から私によこした手紙の中には古い歌などを引合に出して寸時も忘れることの出來ないといふやうな濃情の溢れた言葉が書き連ねてあつたこと
幾度封筒を逆さにしてみても、なかからは柿は愚かな事、柿のへた一つ出なかつた。芥川氏は前の日によこした原稿が気に喰はなかつたらしく、態々わざ/\書きかへて送つてくれたのだつた。電報は
この友人が多忙いそがしいからだわずかひまを見つけて隅田川の近くへ休みに来る時には、よく岸本のところへ使をよこした。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こうした周囲まわりの空気の中で、捨吉は待侘まちわびた手紙の返事を受取った。先輩の吉本さんからよこしてくれた返事だ。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
牧野君からは、早速便りがあって、一緒に心配した甲斐かいが有ったと言って、自分のことのように悦んでくれた。骨休めに、遊びに来い、こうも言ってよこした。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「そうそう、木曾路を行くがごとしなんて、君から書いてよこしたッけネ——是方こっちの暑さが思いやられたッけ」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何時いつ山の上へ着いたとも、何処どこへ宿を取ったとも、判然はっきり知らせてよこさないような曾根が、こうして自分等の家へ訪ねて来たということは、ひどく三吉を驚かした。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
信州の方へ度々手紙をよこした未知の若い友は、その人の友達と二人で旅舎やどやに私を待つて居て呉れた。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
六月の二十日頃に出た手紙は、海のれるのと霧が深いのとで未だ同じ港に滞在して、目的の地を踏むことも出来ずに居ると言つてよこした。お節は待遠しい思をした。
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「私はおつかさんの側には半歳はんとししか居ません。ホラ、叔父さんのとこから電報をよこして下すつたでせう。あの時はおつかさんは私を離したくないやうな風でしたけれど……」
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
しかしお母さんの言ったことは、殊に別れ際に、「月に一度ぐらいはお前も手紙をよこしてくれよ」
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
父は村の中の眺望ながめの好い位置を擇んで小さな別莊を造つたとかで、母と共に新築の家の方へ移つたことや、その建物から見える遠近をちこちの山々、谷、林のさまなどを書いてよこしました。
「めづらしいことだ——きつと誰かに教はつてよこした、なんて言ふだらうなあ。」
伊豆の旅 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
東京の友人が戦地へ赴く前によこした別離わかれの手紙は私の心に強い刺戟を与へた。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
殊に同じ経験があると言って、長く長く書いてよこしてくれた雑誌記者があった。君とは久しく往来も絶えて了ったが、その手紙を読んで、何故に君が今の住居すまいの不便をも忍ぶか、ということを知った。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)