まつた)” の例文
汝等は羽ある蟲のまつたからず、這ふ蟲の未だ成り終らざるものに似たるに、汝等の精神たましひ何すれぞ高く浮び出づるや 一二七—一二九
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
それから、豊臣徳川両氏の外教禁遏ぐわいけうきんあつに会つて、始の中こそ、まだ、姿を現はしてゐたが、とうとう、しまひには、まつたく日本にゐなくなつた。
煙草と悪魔 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
吾はその悔の為にはかのいきどほりを忘るべきか、任他さはれ吾恋のむかしかへりて再びまつたかるを得るにあらず、彼の悔は彼の悔のみ、吾が失意の恨は終に吾が失意の恨なるのみ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
またゝに、かり炭燒すみやきほふられたが、民子たみこ微傷かすりきずけないで、まつたたまやすらかにゆきはだへなはからけた。
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
瓦となりてもまつたきを望む、彼が望みの卑しさよと、旧き友等に嘲られむが心外なれば、何分にも我が心の済むまでは、今しばらく内分にと、いはるる詞も無理ならねば。
葛のうら葉 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
宗教の高尚なる使命を帯びたる如くに、美術も亦た高尚なる使命を帯べり。ヒユーマニチーは其の唯一の目的なり。無より有を出すにあらず。有を取りて之をまつたうするものなり。
万物の声と詩人 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
「貴方はきつと終りをまつたうしない方だわね。貴方はきつと病気ぢや死なない方だわ。」
須磨子も一旦は「死」の悲しみを突きぬけて、芸術に生きよう、抱月氏の愛をまつたうするためには、女性を捨てて芸術家になりをはせよう、それより外に道は無いと思ひ込んだらしかつた。
しゆもろ/\實在中じつざいちゆうにありて、まつたく、つ眞に、且つ生き給ふ如く眞ならむを欲す。
頌歌 (旧字旧仮名) / ポール・クローデル(著)
終日の労働をまつたうして帰る大勢の仲間たちに行き逢ふことは厭であつた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
わが肉身は 卵殻の如く まつたく且つもろくして
無題 (新字旧仮名) / 富永太郎(著)
これ意志の目的めあてなる善みなこのうちに集まり、このそとにては、こゝにてまつたき物も完からざるによりてなり 一〇三—一〇五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
だから彼は場合によつて、軽蔑けいべつと好意とを、まつたく同一人に対して同時に感ずる事が出来た。この近江屋平吉の如きは、正にさう云ふ愛読者の一人である。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
たふとく優くも、高くうるはしくも、又は、まつたくも大いなる者在るを信ぜざらんと為るばかりに、一度ひとたび目前まのあたりるを得て、その倒懸の苦をゆるうせん、と心くが如く望みたりしを
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
今少し天賦の幸福をまつたふする様にならねばならぬと、いふ考へが起こつて参りました。
こわれ指環 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
不満足ふまんぞくたしたのであらう——いかさまにもひとのこつたひとみれば、おうらそれよりなさけ宿やどさぬ、つゆびぬ、……手足てあしすでまつたうしてをのもつくだかれても、対手あひて鬼神きじんでは文句もんくはないはづ
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
(哀詞本文は未だ稿をまつたうせず)
哀詞序 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
(予は今日にして、子爵の独身生活の理由を発見し得たるを覚ゆ)若し予にして満村を殺害せんか、子爵と明子とが伉儷かうれいまつたうせんは、必しも難事にあらず。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
あゝ樂しみよ、あゝいひがたき歡びよ、あゝ愛と平和とより成るまつたき生よ、あゝ慾なき恐れなき富よ 七—九
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
すべて欠けたるをまつたうせしめんの大御誓おほみちかひをもて国土百姓をやすらけく恵ませ給ふとなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ただこの上の願ひには、このこわれ指環がその与へ主の手に依りて、再びもとのまつたきものと致さるる事が出来るならばと、さすがにこの事は今に……。(『女学雑誌』一八九一年一月一日)
こわれ指環 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
先生が独造の別乾坤べつけんこん、恐らくは是よりまつたからん乎。古人曰「欲窮千里眼更上一層楼きはまらんとほつすせんりのめさらにいつそうろうをのぼらん」と。
「鏡花全集」目録開口 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
もしこの迷ひなかりせば、我は疾くにかの人を殺さずんば、我自ら死しゐたりしならむ。さるを死なず殺さず今日まで自他の身をまつたふすること得たりしは、にもこの迷ひ一ツの為にぞある。
葛のうら葉 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
私たちがあの信号兵を、猿扱ひにしてゐた時でも、副長だけは、同じ人間らしい同情を持つてゐたのです。それを、軽蔑した私たちの莫迦ばかさかげんは、まつたくお話しにもにもなりません。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)