孵化ふか)” の例文
大和やまと郡山こおりやまの旧城跡、三笠みかさ春日かすがと向き合いの暖い岡に、広い池を幾つも掘って、この中に孵化ふかする金魚の子の数は、百万が単位である。
やがて一王朝たらしめんと静かに孵化ふかされつつあったその一家は、あらゆるものを恐れ、静安を乱されることを欲しなかった。
このうちに、なかとされたたまご孵化ふかして、一ぴきのはちとなり、めいめいは、いずこへとなくんでゆきました。
雪くる前の高原の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
クリストフは、びんの中に侏儒しゅじゅをでも孵化ふかさせるために蒸留器を大事にあたためてる、それらワグナー派の学者たちに背を向けた。
何にせよ孵化ふか後二か月ないし三か月の雛鳥を去勢するのだから、少し手荒いことをすると鳥が弱ってぐ死んでしまう。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
鴨の子の孵化ふかしたては池や川に放すわけに行かぬので、盥を庭に置いてその中に飼うて置く。小さい雛はうようよとその盥の中で騒いでいるのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
かものような羽色をしたひとつがいのほかに、純白のめすが一羽、それからその「白」の孵化ふかしたひなが十羽である。
あひると猿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
代議士と選挙民とはにわとり孵化ふかされた家鴨あひるひなが水に入って帰らないように、たちまちに代議士は権力階級へ、選挙民は屈従階級へと分れて千里の距離を生じ
選挙に対する婦人の希望 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
それかあらぬか、琵琶湖で孵化ふかしたあゆの稚魚を地方の渓流へ放流すると、通常のあゆ通り立派に成長することが分って、近来は諸所で盛んに放魚が行われているようだ。
若鮎について (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
しかし、その歳孵化ふかした仔魚は、復一の望んでいたよりも、び過ぎてて下品なものであった。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
松下村塾は、徳川政府顛覆てんぷくの卵を孵化ふかしたる保育場の一なり。維新革命の天火を燃したる聖壇の一なり。笑うなかれ、その火、燐よりも微に、その卵、豆よりも小なりしと。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
こうして、三十五日すると、しぜんに孵化ふかした、さかずきぐらいの大きさの赤ん坊がめが、くもの子を散らすように、ぞろぞろ砂からはいだして海へ海へとはって行くのだ。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
また、大岡亀次郎たち一連の浮浪の徒の発生もみな、それを孵化ふかさせた汚水が罪のみなもとである。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
悪魔式鼻の表現研究者の卵は、こうして人間到る処に孵化ふかしつつあるのであります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
タンガニカには身長が二メートルもある蠅がんでいたという記録があるが、あの卵はその蠅の卵だったんだ。恒温室で孵化ふかして、それで先刻さっきからピシピシと激しい音響をたてていたんだ。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
優良種を自家で孵化ふかするのは方法から云っても手間から云っても六つかしいとされているが、ただ自家用産卵をさせる為ならば、地鶏じどりというのがいいそうである、これは鶏としての体躯も小さいし
おもむろな孵化ふかであり、内的夢想であって、私は眼を開いてそれに身を任せながらも、他の仕事を実現した、すなわち、大革命に関する最初の四つの戯曲(七月十四日、ダントン、狼、理性の勝利)
それもよし、それもよし! おう闇夜やみよよ、太陽を孵化ふかし出すものよ、われは汝を恐れない! 一つの星が消えせても、他の無数の星が輝き出す。
その上端の方が著しく濃い褐色に染まっている。その色が濃くなるとじきに孵化ふかするのだとキャディがいう。
ゴルフ随行記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
時には傷のない卵もあり、または孵化ふかしたばかりの雛が、落ちていてありにたかられていることもあった。
そこには、するど無数むすうとげがあって、そとからのてきまもってくれるであろうし、そのやわらかな若葉わかばたまご孵化ふかして幼虫ようちゅうとなったときの食物しょくもつとなるであろうとかんがえたからでした。
冬のちょう (新字新仮名) / 小川未明(著)
隅田川以東に散在する材木堀の間に挟まれた小さな町々の家並みは、やがて孵化ふかするひなを待つ牝鶏ひんけいのように一夜の憩いから目醒めようとする人々を抱いて、じっと静まり返っていた。
勝ずば (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
一体鳥類は春季に巣をくって、そこに卵を産みこれを孵化ふかさすのであります。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
何か恐るべきものが孵化ふかされつつあった。可能なる革命の輪郭がまだおぼろげにではあったがほの見えていた。全フランスはパリーをながめ、全パリーはサン・タントアーヌ郭外をながめていた。
そうして幾多の数学家の卵を地上に孵化ふかさせて来た。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いろいろの花が咲いたりいろいろの虫の卵が孵化ふかする。気候学者はこういう現象の起こった時日を歳々に記録している。そのような記録は農業その他に参考になる。
春六題 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
少年の魂の中で行なわれてる恐ろしい熱狂的な孵化ふか作用は、彼の眼に止まらなかった。
最初さいしょは、それは、おじいさんのよろこばしましたのですけれど、ちょうがたくさんのたまごんでいって、あとから、あお裸虫はだかむし無数むすう孵化ふかして、やわらかなや、べることをりますと
花と人間の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
暴動の孵化ふかはクーデターの予謀に策応する。
青桐あおぎりの葉は、ばたばた鳴って女の坐っている窓の前で、黒い、大きな、掌と掌とが叩き合って夜のやみを讃美する。黒い掌の鳴る方に当って、森の腐れから、孵化ふかした蚊が幾万となく合奏し始めた。
森の暗き夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
もう、季節きせつあきなかばだったからです。そのたまご孵化ふかして一ぴきのむしとなって、からだ自分じぶんのようなうつくしいはねがはえて自由じゆうにあたりをべるようになるには、かなりの日数にっすうがなければならぬからでした。
冬のちょう (新字新仮名) / 小川未明(著)