しば)” の例文
しばらく内縁を結ぶの約をなしたるなり、御意見如何いかがあるべきやとたずねけるに、両親ともにあたかも妾の虚名に酔える時なりしかば
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
従て私は和名も科名も共にこれをカナで書く事を決行実践したのであったが、その時ただ科の字のみはしばらくことさらにこれを存置した。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
しん王以下は、永楽えいらくに及んで藩に就きたるなれば、しばらくきて論ぜざるも、太祖の諸子をほうじて王となせるもまた多しというべく
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
伯耆の夜見島大根島などを夜見の国・根の国に聯想した先人の考へも、地方ヂカタから近きに過ぎる様に思はれるが、島を死の国と見た処は、しばらく棄て難い。
古代生活の研究:常世の国 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
老僕ろうぼくひたいしかめ、り有り、大変たいへんが有りたりという。先生手をげて、そはしばらくくをめよ、我まずこれを言わん、浮浪ふろう壮士そうし御老中ごろうじゅうにても暗殺あんさつせしにはあらざると。
龍馬伝には「お乙女とめ怒って彼女を離婚す」とあれど是れ亦誤りなり、お龍氏が龍馬に死別れて以来の経歴は予委しく之を聴きたれど龍馬の事に関係なければ今しばらく略しぬ。
千里駒後日譚 (新字旧仮名) / 川田瑞穂楢崎竜川田雪山(著)
父は手の平へその袋を載せてやゝしばらくながめて居り升たから、私は今度限り勘弁してやるといつて、返してれるかと一寸は思ひ升た、併しそれほど姑息こそくな父ではありませんから
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
しばらく誌して疑いを存しておく」
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼是と勘考かんかうするに今度の儀も篤實とくじつすぎ汝が身の難儀なんぎに成しかも量り難し水清ければうをすまず人明らかならばまじはり少なしとは汝が事ならん扨々憫然あはれ至極しごくしばらく默止もくして居られしかば白洲しらすしんしづまりたりやゝ有りて大岡殿再び九助に向はれ番人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
また、しばらく
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
病児を抱えて座食する事は、到底至難の事なれば、自分は甘んじてのために犠牲とならん、何とぞこのせつなる心を察して、しばらく時機を待ちくれよという。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
畢竟ひっきょう朝威を負うて事を執らるるが故でござる、今しこれに従わずば、勝敗利害はしばらくき、かみは朝庭に背くことになりて朝敵の汚命をこうむり、従って北条の如くに
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そつ殿とのに承ろうにも、国遠し。まずしばし、郎女様のお心による外はないもの、と思いまする。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
歌の上に於て、我々を喜ばした文芸復興は、これでしばらくは、中入りになるのであろう。
歌の円寂する時 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
ああ学識なくして、いたずらに感情にのみ支配せられし当時の思想の誤れりしことよ。されどその頃の妾は憂世ゆうせい愛国の女志士じょししとして、人もゆるされき、妾も許しき。しばらく女志士として語らしめよ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
すなわち其の至るところ又如何いかなるを知らず、近代を以て之を言えば、欧陽少卿おうようしょうけい蘇長公そちょうこうはいは、しばらく置きて論ぜず、自余の諸子、之と文芸のじょう角逐かくちくせば、たれか後となりいずれか先となるを知らざる也。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
かうして、次第に、自然に現実味と描写態度とを加へて来たが、近松になつて徐々に、さうしてしばらくしてから急激に変化し、飛躍して、其後の浄瑠璃は唱導的意義を一切失ふ様になつて了うた。
だから、此は今しばらく預つて、考へて見たいと思ふ。
国文学の発生(第二稿) (新字旧仮名) / 折口信夫(著)