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とまつ
ふりがな文庫
“
塗抹
(
とまつ
)” の例文
僅
(
わずか
)
に数筆を
塗抹
(
とまつ
)
した泥画の寸紙の中にも芸衛的詩趣が
横溢
(
おういつ
)
している。造詣の深さと創造の力とは誠に近世に
双
(
なら
)
びない妙手であった。
淡島椿岳:――過渡期の文化が産出した画界のハイブリッド――
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
小児の掌面に
呪文
(
じゅもん
)
三回墨書し、さらにその上を墨にて
塗抹
(
とまつ
)
して文字をして不明ならしめ、これを握ること暫時にしてその手をひらき見れば
妖怪学
(新字新仮名)
/
井上円了
(著)
したがって余の意識の内容はただ
一色
(
ひといろ
)
の
悶
(
もだえ
)
に
塗抹
(
とまつ
)
されて、
臍上方
(
さいじょうほう
)
三寸
(
さんずん
)
の
辺
(
あたり
)
を日夜にうねうね行きつ戻りつするのみであった。
思い出す事など
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
かくてその人は愛の逆用から来る
冥罰
(
みょうばつ
)
を表面的な概念と社会の賞讃によって
塗抹
(
とまつ
)
し、社会はその人の表面的な行為によって平安をつないで行く。
惜みなく愛は奪う
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
それは実に、その後多くのすぐれた国民を襲い、言わばその出生証書を
塗抹
(
とまつ
)
したる、あの恐るべき国家的抑圧の典型となり標本となったのである。
レ・ミゼラブル:06 第三部 マリユス
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
▼ もっと見る
彼らはいつも、小心翼々として自分を監視することにつとめ、前に書いたものを
塗抹
(
とまつ
)
しようとつとめ、「おや、これは前にどこで読んだのかしら……」
ジャン・クリストフ:07 第五巻 広場の市
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
吾人は嘗て彼の原稿なるものを見しことあり、其
改刪
(
かいさん
)
の処は必ず墨黒々と
塗抹
(
とまつ
)
して
刪
(
けづ
)
りたる字躰の毫も見えざる様にし、絶えて尋常書生の
粗鹵
(
そろ
)
なるが如くならず。
明治文学史
(新字旧仮名)
/
山路愛山
(著)
寄生木の大木将軍夫妻は、篠原良平の大木将軍夫妻で、余の乃木大将夫妻では無い。余は厳に原文に
拠
(
よ
)
って、如何なる場合にも
寸毫
(
すんごう
)
も余の
粉飾
(
ふんしょく
)
塗抹
(
とまつ
)
を加えなかった。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
表紙の表には「畫本」と題し、裏には通二丁目山本と書して
塗抹
(
とまつ
)
し、「
壽哉
(
じゆさい
)
所藏」と書してある。
寿阿弥の手紙
(旧字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
黒い薬を顔一面に
塗抹
(
とまつ
)
して、黒い仮面のやうな、さうして
落窪
(
おちくぼ
)
んだ眼ばかりが光つて、その病床の傍へ来てはならないと、物憂げに手を振つた怪物のやうな母の顔であつた。
田園の憂欝:或は病める薔薇
(新字旧仮名)
/
佐藤春夫
(著)
この島の大部分を覆うている唐竹は、屋根を葺くのには、藁よりもはるかに秀れていた。木の枝を、横にいくつも並べて壁にした。そして、近所から
粘
(
ねば
)
い土を見出して、その上から
塗抹
(
とまつ
)
した。
俊寛
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
そういう暗澹たる空模様の中で、黒死館の巨大な二層楼は——わけても中央にある礼拝堂の尖塔や左右の塔櫓が、一
刷毛
(
はけ
)
刷いた薄墨色の中に
塗抹
(
とまつ
)
されていて、全体が
樹脂
(
やに
)
っぽい
単色画
(
モノクローム
)
を作っていた。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
忍びざりき 強ひて
塗抹
(
とまつ
)
して
運命
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
それから主人は鼻の膏を
塗抹
(
とまつ
)
した
指頭
(
しとう
)
を転じてぐいと
右眼
(
うがん
)
の
下瞼
(
したまぶた
)
を裏返して、俗に云うべっかんこうを見事にやって
退
(
の
)
けた。
吾輩は猫である
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
消滅する事物の
塗抹
(
とまつ
)
のうちにも、消え
失
(
う
)
する事物の縮小のうちにも、哲学はすべてを認知する。ぼろを再び
緋衣
(
ひい
)
となし、化粧品の破片を再び婦人となす。
レ・ミゼラブル:08 第五部 ジャン・ヴァルジャン
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
注入されたあらゆる賛美とあらゆる尊敬とを
塗抹
(
とまつ
)
し、すべてを——虚偽をも真実をも、否定し、真実だと自分で認めないすべてのものを、あえて否定しなければいけない。
ジャン・クリストフ:06 第四巻 反抗
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
とっさに弁ずる
手際
(
てぎわ
)
がないために、やむをえず省略の
捷径
(
しょうけい
)
を
棄
(
す
)
てて、
几帳面
(
きちょうめん
)
な
塗抹
(
とまつ
)
主義を根気に実行したとすれば、拙の一字はどうしても
免
(
まぬか
)
れがたい。
子規の画
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
倒るる者の上には飛びかからんと待ち構えてる、不信なる同盟者イギリス、法律に対して四人の死刑を拒まんためにベッカリアの背後に潜んでる上院、王の馬車から
塗抹
(
とまつ
)
された
百合
(
ゆり
)
の花
レ・ミゼラブル:07 第四部 叙情詩と叙事詩 プリューメ街の恋歌とサン・ドゥニ街の戦歌
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
彼らは
自業自得
(
じごうじとく
)
で、彼らの未来を
塗抹
(
とまつ
)
した。だから歩いている先の方には、花やかな色彩を認める事ができないものと
諦
(
あき
)
らめて、ただ二人手を
携
(
たずさ
)
えて行く気になった。
門
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
彼等
(
かれら
)
は
自業自得
(
じごふじとく
)
で、
彼等
(
かれら
)
の
未來
(
みらい
)
を
塗抹
(
とまつ
)
した。だから
歩
(
ある
)
いてゐる
先
(
さき
)
の
方
(
はう
)
には、
花
(
はな
)
やかな
色彩
(
しきさい
)
を
認
(
みと
)
める
事
(
こと
)
が
出來
(
でき
)
ないものと
諦
(
あき
)
らめて、たゞ
二人
(
ふたり
)
手
(
て
)
を
携
(
たづさ
)
えて
行
(
ゆ
)
く
氣
(
き
)
になつた。
門
(旧字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
ただまのあたりに見れば、そこに詩も生き、歌も
湧
(
わ
)
く。着想を紙に落さぬとも
璆鏘
(
きゅうそう
)
の
音
(
おん
)
は
胸裏
(
きょうり
)
に
起
(
おこ
)
る。
丹青
(
たんせい
)
は
画架
(
がか
)
に向って
塗抹
(
とまつ
)
せんでも
五彩
(
ごさい
)
の
絢爛
(
けんらん
)
は
自
(
おのず
)
から
心眼
(
しんがん
)
に映る。
草枕
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
この壁の周囲をかくまでに
塗抹
(
とまつ
)
した人々は皆この死よりも
辛
(
つら
)
い苦痛を
甞
(
な
)
めたのである。
倫敦塔
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
近頃日本でも美顔術といって顔の垢を吸出して見たり、クリームを
塗抹
(
とまつ
)
して見たりいろいろの化粧をしてくれる専門家が出て来ましたが、ああいう商売はおそらく昔はないのでしょう。
道楽と職業
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
下劣なる趣味を拘泥なく一代に
塗抹
(
とまつ
)
するは学人の恥辱である。彼らが貴重なる十年二十年を
挙
(
あ
)
げて
故紙堆裏
(
こしたいり
)
に
兀々
(
こつこつ
)
たるは、衣食のためではない、
名聞
(
みょうもん
)
のためではない、ないし
爵禄財宝
(
しゃくろくざいほう
)
のためではない。
野分
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
塗
常用漢字
中学
部首:⼟
13画
抹
常用漢字
中学
部首:⼿
8画
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