土竜もぐら)” の例文
旧字:土龍
「ウン起きたか省作、えい加減にして土竜もぐらの芸当はやめろい。今日はな、種井たねいさらうから手伝え。くよくよするない、男らしくもねい」
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
こんなにひっかしがった穴だらけのぼろ家にいるのとは、お星さまと土竜もぐらよりえれえちげえだに、なあよ、おめえいってくろよ杢助
似而非物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
にんじんは道ばたで、煙突掃除えんとつそうじのように黒い一匹の土竜もぐらを見つける。いいかげん玩具おもちゃにしたあげく、そいつを殺そうと決心する。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
闇の中にばかりつぶって居たおれの目よ。も一度かっとみひらいて、現し世のありのままをうつしてくれ、……土竜もぐらの目なと、おれに貸しおれ。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
えりには銀の輪を掛け、手には鋼鉄の叉棒さすぼうを握って一ぴき土竜もぐらに向って力任せに突き刺すと、土竜は身をひねって彼のまたぐらをくぐって逃げ出す。
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
四角に仕切った芝居小屋のますみたような時間割のなかに立てこもって、土竜もぐらのごとく働いている教師よりはるかに結構である。
作物の批評 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
古代の支那人がマンモスを土竜もぐら科の一種の地中にむ動物と考え、陽の目を見ればたちどころに死んでしまうと信じていたことが書かれている。
永久凍土地帯 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
半七は土竜もぐらのように這い込むと、まだ三間とは進まないうちに、道は塞がって行く手をさえぎられた。彼はよんどころなく後退あとずさりをして戻った。
半七捕物帳:66 地蔵は踊る (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この地震の震源地は、亀有かめあり、亀戸を含む地帯と信ぜられ、特に亀有には土竜もぐら状隆起が現れたと伝えられるが、これは地震断層であったと想像される。
地震なまず (新字新仮名) / 武者金吉(著)
大江山隊長を先頭に、大辻珍探偵をビリッコに、一行十一勇士は勇ましくも土竜もぐらのように(というと変だが)、明暗めいあんもわからぬ地中にもぐりこんだ。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
聖晩餐大会はきっと、沈滞した田舎から、こうした掘り出された土竜もぐらのような、目の見えない、どうにも仕様のない生き物を吸い寄せたのに違いなかった。
人の恋路の邪魔する奴は馬に蹴られて死ねばいいという都々逸があるけれど、俺の世の中へでるのを邪魔する杉大門も土竜もぐらにでも蹴られて死んじまえばいい。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
栗鼠りす、木いたち羚羊かもしか、犬、鯨、海狸ビーバー、熊、穴熊、猪、土竜もぐらなど、内地の獣類は、いろいろ食べたことがある。
香熊 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
地蔵様の台座の下は、土竜もぐらの穴のように深々と掘れてあり、この中を捜ったはずみで、台座のゆるんだ地蔵様が、下に転がり落ちたと思えないことはありません。
木の幹に身体をはさまれ、枝葉に行手をさえぎられ、道でない道を潜りながら、土竜もぐらの様に進むのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
土竜もぐらが庭の土をげて困る時は庭の四方へ石油をらしておくと決して土竜が入りません。鉄や真鍮しんちゅうの物を磨くにも石油で綺麗になりますし、なかなか功能が多いものです。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
過去と称する盲目の巨大な土竜もぐら彷徨ほうこうするのが暗黒の中に透かし見らるる、広大なる土竜もぐらの穴であって、その古い吐出口の墓窟のごとき恐ろしさに匹敵するものは何もない。
コソコソ這い出た土竜もぐら一匹——筑紫権六は鼠舞ねずみまいして、そのまま一散に逃げようとするのを五右衛門ムズと引っ掴み、月の光で顔を見たが、にわかにカラカラと笑い出した。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
鼻はいのこのごとく、目を縦にして、さながら土竜もぐらのごとく、軟毛全身に密生して、尾さき二つに裂けたる奇獣にて、顕微鏡にてこれを検すれば、毛さきに一種の異彩を放てり、云云うんぬん
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
笑うべき土竜もぐらの巣だ! 生命が一過すれば、すべては清掃されるのだ……。
雲の絶え間から、万年雪が玻璃はりの欠片のように白く光って、水の色は、鈍く扁平にひからびている、私は穴蔵へでも引き入れられるような気になって、また石小舎へ戻った、光を怖れる土竜もぐら
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
かげふかきしこ土竜もぐらつちやぐらたたきうちこぼち日にさらすべし
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
土竜もぐらのせいでしょうか。」
古井戸 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
闇の中にばかりつぶつて居たおれの目よ。も一度くわつとみひらいて、現し世のありのまゝをうつしてくれ、……土竜もぐらの目でも、おれに貸しをれ。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
そこで、両肱りょうひじをついて、土竜もぐらの掘った塚を見渡してみる。それは、老人の皮膚にもりあがる血管のように、電光形を描いて地面にもりあがっている。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
私は、はげしい目まいをおさえて、しばらく強い光の中に、うつしていた。土竜もぐらならずとも、この光線浴こうせんよくには参る。これも博士の警戒手段の一つである。
「山犬だよ。土竜もぐらかなんかやッつけたんだよ。逃げない方がいい、逃げるとかえって危いから」
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
探り探りの不安な逃走で、分かれ道などは全く不明な土竜もぐらの穴のような道程だった。
「とんでもない、穴を掘って縛られた日には、日本中の土竜もぐらは暮しが立たねえ」
大きな土竜もぐらと思ったに、わりゃ筑紫権六だな! いつぞや大原の街道を、百地三太夫に逢い損ねブラブラ帰る夕暮れ時、藪畳やぶだたみから手下と共に、現われて出た追剥おいはぎの頭、それがやっぱり筑紫権六
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
下女はしまも色も判然はっきり映らない夜具の中に、土竜もぐらのごとくかたまって寝ていた。今度は左側の六畳をのぞいた。がらんとしてさみしい中に、例の鏡台が置いてあって、鏡の表が夜中だけにすごく眼にこたえた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかし三人の山賊どもはやがて土竜もぐら作業に飽きて相談をし直した。
土竜もぐらの塚は、そこで、インドふうに建てられた小屋そのまま、ひとかたまりになって小さな村を形づくっている。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
昼間は必ず水中深く潜航を続けることになっていましたので、明るい水上の風景を見ることも出来ず、水兵たちはまるで水中の土竜もぐらといったような生活をつづけていたわけでした。
太平洋雷撃戦隊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
恐るべき黴菌ばいきんが内部に満ちあふれていた時代、恐ろしい響きのかすかに鳴り渡るのが足下に聞こえていた時代、土竜もぐらが穴を掘るような高まりが文明の表面に見えていた時代、地面が亀裂きれつしていた時代
すきの刃のように、または盲の土竜もぐらのように、行き当りばったりに、その不撓ふとう不屈の鼻を前へ押し出す。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
鋤鍬すきぐわのように、または盲の土竜もぐらのように、行き当たりばったりに、その不撓不屈ふとうふくつの鼻を前へ押し出す。
土竜もぐら——「静かにしろ、やい、上のやつ。仕事をしているのが聞えやしねえ」
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
土竜もぐら——静かにしろ、やい、上のやつ。仕事をしているのが聞こえやしねえ。