各々めいめい)” の例文
白い姿のあわただしく行交ゆきかうのを、見る者の目には極めて無意味であるが、彼等は各々めいめいに大雨を意識して四壁の窓を閉めようとあせるのである。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
當日、脱いだ各々めいめいの衣服をたたみ、持物や鼻紙まで添へて、やがてそれを、郷里の遺族たちへ——と考へてゐたのである。
折々の記 (旧字旧仮名) / 吉川英治(著)
と云いながら、窓を立て切って、各々めいめい囲炉裏いろりはたへ帰る。この混雑紛どさくさまぎれに自分もいつのにか獰猛どうもうの仲間入りをして、火の近所まで寄る事が出来た。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ところが支倉はぜくら君、失神が下等神経に伝わっても、そういう連中が各々めいめい勝手気儘きままな方向に動いている——それはいったい、どうしたってことなんだい。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そして、各々めいめい床屋とこや主人しゅじんは、すこしでもていねいに、きゃくあたまって、また、ていねいにかおったのでした。
五銭のあたま (新字新仮名) / 小川未明(著)
そこで、智慧蔵は村の若者十人をつれて、狸山たぬきやまへ探検に出かける事になりました。智慧蔵は長いやりを提げ、若者は各々めいめい刀を一本づゝ腰に差してゐました。
馬鹿七 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
要するに掛値のないほんとの話は、金が今にも必要だ! ただそれだけの話であつて、そのほかのことは各々めいめいに勝手なさうして逞しい空想力といふものがある。
黝ずんだ天井は低く垂れ下つて、糸のあらはな畳の上に彼女は坐つてゐた。彼女と並んで六人の女の子が坐り、彼女等はみな各々めいめいが小さな罨法鍋を前にしてゐた。
外に出た友 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
それでいよいよ目を落してしまったところを見届けると、また黙って、各々めいめいすいと出ておいでなすってね。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「何をホザイてゐるんだ。なんだ唐人の寐言みたいだ。結局環境といふも結局各々めいめいの作り出すもんだ。」
私の事 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
女達は、もう鼻啜はなすすりをしながら、それじゃアとて立ちあがる。水を持ち、線香を持ち、庭の花を沢山に採る。小田巻草千日草天竺牡丹てんじくぼたん各々めいめい手にとり別けて出かける。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
こう思って各々めいめいは同じく山下へ入り込んで行きましたが、究竟くっきょうと思う木蔭こかげ山蔭やまかげをも無事に通り抜けさして、ついに鶯谷うぐいすだに新坂しんざかの下まで乗物を送って来てしまいました。
ト、八戸君も小松君も、卓子から離れて各々めいめい自分の椅子を引ずつて暖炉ストウブ周匝あたりに集る。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
八人の警吏が各々めいめい弓張ゆみはりを照らしつつ中背ちゅうぜいの浴衣掛けの尻端折しりはしおりの男と、浴衣に引掛ひっかけ帯の女の前後左右を囲んで行く跡から四、五十人の自警団が各々提灯ちょうちんを持ってゾロゾロいて行った。
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
正午過ひるすぎから降り出した吹雪のために、集ったのはわずかに五人の男子でありましたが、五人はいつものように鹿爪しかつめらしくならないで、各々めいめい椅子を引き寄せてストーヴを取り囲み、ウイスキーを飲み
印象 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
それから暫くの間、私達は各々めいめいそっぽを向いて、黙り込んでいたが、突然カタンという音がして、諸戸は私の机の上に俯伏うつぶしてしまった。両腕を組合せて、その上に顔をふせて、じっとしている。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
各々めいめいが思い思いの処に立って、夢からさめたばかりの様に気抜けのした、手持ちぶさたな顔をして、今まで自分等のさわいで居た処を見て始めて、折角せっかく盛り分けた薯の椀の或るものはひっくりかえり
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
各々めいめい勝手に保存した結果が、事件の基となったのであった。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
寝てるとね、盗んで来たここに在る奴等が、自分がられた時の様子を、その道筋から、機会きっかけから、各々めいめいに話をするようで、たのしみッたらないんだぜ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこで創作家も一種の人間でありますから各々めいめい勝手な世界観を持って、勝手な世界を眺めているに違ない。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
文学の立場は各々めいめい違ってるから、一概に美妙や紅葉の取った道を間違ってると軽断するではないが、二葉亭にいわしむれば生活の血のにじまない製作は文学を冒涜ぼうとくする罪悪であったのだ。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「紅茶の御馳走ごちそうだ、君、寄宿舎の中だから何にもない、砂糖は各々めいめい適宜に入れることにしよう。さあ、神月こうづき。」
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一週間ほどしてから、彼らは各々めいめいに見舞状を書いて、それを一つ封に入れて、余の宿に届けた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自分だけが命ぜられたツモリで各々めいめい一生懸命になって骨を折ってると、イツカ互に同士討どうしうちしている事が解るから誰も皆厭気いやきがさして手を引いてしまう。手を引くばかりでなく反感を持つようになる。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
各々めいめい自分勝手な迷信から、他人の持物を侵そうとする、それも方角が悪いといって、掃溜の置場所を変えよとでも謂うことか、とりを殺そうとは沙汰の限り。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
各々めいめいに向けて云い送るべきはずのところを、略して文芸欄ぶんげいらんの一隅にのみ載せて、余のごときもののために時と心を使われたありがたい人々にわが近況を知らせるためである。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
日雇ひやといの賃銭を集めて、うちに帰ると親仁の酒の酌をして、きゅうふたを取換えて、肩腰をさすって、枕に就かせて、それから、を取って、各々めいめい、二階に三人、店に五人
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
始めはわずか二三軒かと思ったら、登るに従って続々あらわれて来た。大きさも長さも似たもんで、みんな崖下がけしたにあるんだから位地にも変りはないが、むきだけは各々めいめい違ってる。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大勢寄ってなさる仕事を、貴女方、各々めいめい御一人ずつで、専門に、完全に、一にんを救って下さるわけには参りませんか。力が余れば二人です、三人です、五人ですな。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
共に清水港の別荘に居る、各々めいめいの夫は、別に船をしつらえて、三保まわりに久能の浜へぎ寄せて、いずれもその愛人の帰途かえりを迎えて、夜釣をしながら海上を戻る計画。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
るがい。よく冷えてら。たまらねえや。だが、あれだよ、みんな、渡してある小遣こづかい各々めいめいもちだよ——西瓜すいかかったらこみで行きねえ、中は赤いぜ、うけ合だ。……えヘッヘッ。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)