卑怯者ひきょうもの)” の例文
そこでわしは、では逃げてくれ、逃げて江戸へなり何処へなり行って、姿をかくしてくれと云うと、俺を卑怯者ひきょうものにするのかと云うのだ。
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ひばりは、こう、ほおじろにかっていいました。おとなしいほおじろだったけれど、卑怯者ひきょうものられたことが残念ざんねんだったのです。
平原の木と鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
と馬上にのび上がり、「返せ者ども、おくれて卑怯者ひきょうものの汚名をのこすな、元親みずから冥途めいどの先がけしようぞ、つづけ!」
だんまり伝九 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
卑怯者ひきょうものめ!」とある者は言った、「姿を現わせ、見える所に出てこい。それができないのか。隠れてばかりいるのか!」
馬鹿野郎! 手前たちは木偶でくの棒だ。卑怯者ひきょうものだ。この子供がたとえばふだんいたずらをするからといって、今もいたずらをしたとでも思っているのか。
卑怯者 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「柳沢さんが、ちょっと雪岡さんに用があるから来て下さいって。……でも卑怯者ひきょうものだから、よう来ないだろうって」
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
およそその後今日までに私のけた苦痛というものは、すべての空想家——責任に対する極度の卑怯者ひきょうものの、当然一度は受けねばならぬ性質のものであった。
弓町より (新字新仮名) / 石川啄木(著)
それを盗賊の所為とか個人的怨恨えんこんの結果とか云う風に見るのは、故意に事実に眼を蔽う卑怯者ひきょうものの振舞である。
「敵に声をかけられておめおめ逃げるという卑怯者ひきょうものは浦中にあるかも知らんが、黙々塾もくもくじゅくにはひとりもないぞ」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
たとえこの佐渡が、身に卑怯者ひきょうものそしりをうけましょうとも、お家維持のためには、なお、御熟考の余地があるものと……押して申し上ぐる次第にござりますが
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
水野は命を惜しむ卑怯者ひきょうものではない。自分とても同様である。しかも伯母の理窟も一応はもっともである。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おぬしは、卑怯者ひきょうものじゃな。ははあ、さっき、わしが阿濃あこぎに薬をくれようとしたら、おぬしが腹を立てたのを見ると、あの阿呆あほうをはらませたのも、おぬしらしいぞ。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いっちゃあいかん。意味なく恐れるのは卑怯者ひきょうものか馬鹿者だ。十分注意をはらって、これなら大丈夫だと自信がついたら、おそれないことだ。僕は自信があるから西瓜を
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
信念とがないんだ! つまり憶病者なんだ! 僕は! 卑怯者ひきょうものなんだ! だが、僕は、今度は、やるよ、やって見よう! コーターマスター四人をもたせて見よう。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
「お黙んなさい!……卑怯者ひきょうもの、あなたには、私の苦しんでることがわからないんですか。……あなたから言ってもらいたくありません。打っちゃっといてください!」
自己欺瞞ぎまん酩酊めいていとに過ごそうとするのか? のろわれた卑怯者ひきょうものめ! その間をなんじみじめな理性をたのんで自惚うぬぼれ返っているつもりか? 傲慢ごうまんな身のほど知らずめ! 噴嚏くしゃみ一つ
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
もう壁にぶっつかったようにペンをわしづかみにして、原稿紙をピリピリさせながら——この臆病者おくびょうもの卑怯者ひきょうもの、子供にも親にもひかれるこの偽者にせものめ——などと殴り書きした。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
トレープレフ ところが、僕が決闘を申しこもうとしていると人から聞くと、人格者たちまち変じて卑怯者ひきょうものになっちまったってね。いよいよつんでしょう。見ぐるしい脱走だ!
こういう例を見ると、「花御供はなごく」の意味が充分にわかる。たぶん花も充分にその真の意味を知るであろう。彼らは人間のような卑怯者ひきょうものではない。花によっては死を誇りとするものもある。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
あの中間の犠牲取扱者は一体何様どういうものであるか、卑怯者ひきょうものなのか豪傑なのか。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「お前こそ馬鹿だ、三百代言だ、卑怯者ひきょうものだ! ソーニャが、ソーニャがお前の金を盗んだって。ソーニャが泥棒だって! ちょっ、かえってあのの方がお前にやるくらいだよ、ばか!」
(犬のようにそっと入って来るなんて、貴郎あなたはよっぽど卑怯者ひきょうものですわね)
雨夜草紙 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
家中かちゅう一同は彼らを死ぬべきときに死なぬものとし、恩知らずとし、卑怯者ひきょうものとしてともによわいせぬであろう。それだけならば、彼らもあるいは忍んで命を光尚に捧げるときの来るのを待つかも知れない。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
卑怯者ひきょうものッ、宮内の卑怯者ッ」
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
臆病者おくびょうもの卑怯者ひきょうものはみんなそれだ、自分で悪いことをしておきながら、その責任を人に背負わせようとする、なにより恥知らずな、きたならしい卑劣な根性だ
霜柱 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ひとりの卑怯者ひきょうものもいなかった。ひとりの死汚しにぎたない者も出なかった。ことごとくみな信長にじゅんじた。外泊していた者まで駈けつけて来て、主君の側に忠誠の枕をならべた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みすみす敵の手に渡して置いて逃げ隠れするような卑怯者ひきょうものに、生まれついてはおりません。右門は千曲川の絶壁から真っ逆様に川の中へ切り込まれたのでございます
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ワーテルローでプロシア人とイギリス人との前から逃げ出した奴らは皆卑怯者ひきょうものだ。私が知ってるのはそれだけのことだ。お前の親父さんもその中にいたかどうか、私は知らん。
卑怯者ひきょうものだと思われ、拳固げんここわがってるのだと思われていた。けれどなぐられるよりも人をなぐるほうがずっと恐かったのだ。腕白者の一人にいじめられたある日、だれかにこう言われた。
労働者階級を裏切る唯一の卑怯者ひきょうものの典型を、おれはおれ自身の中に見いだした。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
、船長ノルマン。お前は、ず太いが、卑怯者ひきょうものだ。なぜ、正直者のおれに人ごろしをさせた。しかもおれには、わけもなんにも知らせないで……。おれをペテンにかけやがった。正直者のおれを……
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「ぼくは卑怯者ひきょうものを卑怯だといったのに富士男は乱暴らんぼうをした」
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
売ったこともある、おれは泥にまみれ、傷だらけの人間だ、だから泥棒や売女や卑怯者ひきょうものの気持がよくわかる
「忍剣、そちのうしろから、鉄砲てっぽうをむけた卑怯者ひきょうものがあったによって、わしが、このとおりにしたぞ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「黙れ黙れ卑怯者ひきょうものめが!」浪人者は威猛高いたけだかに叫ぶと一緒に猿臂えんぴを延ばし、相手の腕を引っ掴んだ。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「おう、卑怯者ひきょうものが!」と彼は言った。
卑怯者ひきょうもの!」
「お兄さまの悪口をいって、お兄さまが裏切者なんですって、卑怯者ひきょうもので不忠者ですって、そして千浪がそんなことうそよっていったら、みんなでどろをぶっつけたんだわ」
伝四郎兄妹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「どう致しまして。彼は、荒木一類のごとき卑怯者ひきょうものではありませぬ」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
卑怯者ひきょうもの、そんなにおいちが欲しいならやってみろ、そうむざむざと斬られはしないぞ」
つばくろ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
卑怯者ひきょうもの」と昂軒は喚き返した、「それでもきさまは討手か、勝負をしろ」
ひとごろし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
卑怯者ひきょうもの——」
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)