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冷々
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ひえびえ
ふりがな文庫
“
冷々
(
ひえびえ
)” の例文
そして、頬を草の根にすりつけ、
冷々
(
ひえびえ
)
とした地の息を嗅ぎながら、絶えず襲い掛かってくる、あの危険な囁きから逃れようと
悶
(
もだ
)
えた。
白蟻
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
彼女はもう泣く事にも
飽
(
あ
)
いたのか、五月の
冷々
(
ひえびえ
)
とした
畳
(
たたみ
)
の上にうつぶせになって、小さい
赤蟻
(
あかあり
)
を一
匹
(
ぴき
)
一匹指で追っては殺していた。
魚の序文
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
大地は、
冷々
(
ひえびえ
)
していた。——ひょっとして、自分のあるいている今の闇が——あの世という
冥途
(
よみ
)
の国ではあるまいかなどと思った。
親鸞
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
だが、音もなくカーヴを廻りきり、
冷々
(
ひえびえ
)
とした夜風の中に、遠く闇の中に瞬く、次の駅の青い遠方信号が、見えて来ると源吉は
鉄路
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
裏の田圃に秋の
蛙
(
かわず
)
が啼き出して、夜風が
冷々
(
ひえびえ
)
と身にしみて来た頃に、半七と松吉は身支度をして緑屋を出た。
半七捕物帳:46 十五夜御用心
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
▼ もっと見る
大時計の
傍
(
そば
)
を通るとき、時間を覗くと恰度十二時で——人通りが稀になって、どこのカッフェも店仕舞をやっていた。外気が
冷々
(
ひえびえ
)
として、細かい雨が降りだした。
孤独
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
冷々
(
ひえびえ
)
した
夕闇
(
ゆうやみ
)
のなかで、提燈を
抱
(
かか
)
えるようにして暖まったり、
莨
(
タバコ
)
を吸ったりして荷物のくるのを待った。
遠藤(岩野)清子
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
それがすむと、どこから持って来たのか
冷々
(
ひえびえ
)
と露の
洩
(
も
)
れている
一升壜
(
いっしょうびん
)
の口を開いてコップに移した。冷え切った麦湯! ゴクンゴクンと喉を通って
腸
(
はらわた
)
までしみわたる。
地中魔
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
その前は宵から引続いた夜であり、その後は
冷々
(
ひえびえ
)
とした北の微風が流れ出す朝であった。その凡てが澱んで動かぬ時間の間、彼は床の中に幾度か身を悶えて自ら自己を
訶
(
さいな
)
んだ。
掠奪せられたる男
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
時雄は読書する勇気も無い、筆を執る勇気もない。もう秋で
冷々
(
ひえびえ
)
と背中の冷たい
籐椅子
(
とういす
)
に身を
横
(
よこた
)
えつつ、雨の長い脚を見ながら、今回の事件からその身の半生のことを考えた。
蒲団
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
襟を吹く秋風のみが、いたずらに
冷々
(
ひえびえ
)
と
肌
(
はだ
)
を
撫
(
な
)
でて行った。
歌麿懺悔:江戸名人伝
(新字新仮名)
/
邦枝完二
(著)
ただ暗き壁の
面
(
おも
)
冷々
(
ひえびえ
)
と
邪宗門
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
壺の内も外も、境のないほど、秋葉が
生
(
お
)
いしげっている。まだ、萩に早く、
桔梗
(
ききょう
)
も咲かぬが、雨後の夜気は、仲秋のように
冷々
(
ひえびえ
)
と感じる。
親鸞
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
階下は
昏
(
くら
)
く
冷々
(
ひえびえ
)
としてゐる。富岡は女の降りて来るのを、階段の下で待つてゐた。卓子に椅子の乗せてある店の床に、鼠がちらちらしてゐた。
浮雲
(新字旧仮名)
/
林芙美子
(著)
一等辛いことは——動作は簡単だが、こう手をのべてピストルを握れば、
鉄
(
かね
)
の肌が
冷々
(
ひえびえ
)
として——
ピストルの蠱惑
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
敬二少年は、もうすっかり目が
冴
(
さ
)
えてしまった。寝ていても無駄なことだと思ったので、彼は寝床から起き出して、
冷々
(
ひえびえ
)
した
硝子
(
ガラス
)
窓に近づいた。月はいよいよ
明
(
あきら
)
かに、
中天
(
ちゅうてん
)
に光っていた。
○○獣
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
フト
郷里
(
くに
)
の荒果てた畑を偲い出しながらぐんぐん墜落する西日の中に、長い影を引ずって、幾度か道を間違えた末、やっと『水木舜一郎』の表札を発見した時は、
冷々
(
ひえびえ
)
とした空気の中にも
魔像
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
電車に乗っても、背筋から足先へかけて
冷々
(
ひえびえ
)
とした。
野ざらし
(新字新仮名)
/
豊島与志雄
(著)
初更からふたたび壇にのぼり、夜を徹して孔明は「
行
(
ぎょう
)
」にかかった。けれど深夜の空は
冷々
(
ひえびえ
)
と死せるが如く、何の
兆
(
しるし
)
もあらわれて来ない。
三国志:07 赤壁の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
やがては、壁も天井も、そして一
穂
(
すい
)
の
短檠
(
たんけい
)
の灯までが、水音を立てているのではないかと疑われるほど、武蔵は
冷々
(
ひえびえ
)
とした気につつまれた。
宮本武蔵:03 水の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
地の下に、
蚯蚓
(
みみず
)
が泣きぬいて、星の美しい夜となった。夜となれば暑い夏も、ずっと
冷々
(
ひえびえ
)
して、人間の心からも、
焦々
(
いらいら
)
したものを
拭
(
ぬぐ
)
ってゆく。
夕顔の門
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
たえず、
冷々
(
ひえびえ
)
と
面
(
おもて
)
をかすめてくる
陰森
(
いんしん
)
たる風、ものいえば、ガアンと
間道中
(
かんどうじゅう
)
の悪魔がこぞって答えるようにひびく。
神州天馬侠
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
白みかけたばかりの夜明けの風が、今や、刑場の
筵
(
むしろ
)
にのって、
刃
(
やいば
)
の露に散ろうとするわが子のそばから吹いて来るように、
冷々
(
ひえびえ
)
と、老先生の顔を
衝
(
う
)
った。
牢獄の花嫁
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
淙々
(
そうそう
)
と瀬の水の戯れは、月の白い限りの天地を占めて独り楽しんでいる。上流から下流まで、ここは奥丹波の風の通路のように
冷々
(
ひえびえ
)
と夜気が流れている。
宮本武蔵:05 風の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
冷々
(
ひえびえ
)
と、夜霧が白洲に下りている。夏の夜は明け
易
(
やす
)
い。とこうする間に、東の空が白み出すのではあるまいか。
大岡越前
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
老先生の白い
髯
(
ひげ
)
に、深夜の風が、
冷々
(
ひえびえ
)
とながれた。わが子を奪う
冥途
(
よみ
)
の
扉
(
と
)
から洩れて来るような風である。
牢獄の花嫁
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
研
(
と
)
ぎたての刀を横に置いたように、加茂川の水は青かった。ふり仰ぐと
冱寒
(
ごかん
)
の月は
冷々
(
ひえびえ
)
と冴えているのだった、かかる折には望ましい雲もいつか四方にくずれて。
親鸞
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
和書の本棚や、机や経巻などが、
冷々
(
ひえびえ
)
と、備えてあるほか、ふつうの住僧の部屋とかわりはない。
大岡越前
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
こんな深夜なのに、道のどこからともなく、
笙
(
しょう
)
に和してひちりきの音が
冷々
(
ひえびえ
)
とながれていた。
宮本武蔵:05 風の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
湖の夜風が、
冷々
(
ひえびえ
)
と忍んでくる。二人は、ゆれる灯影をよそに、しばらく黙然としていた。
大谷刑部
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
冷々
(
ひえびえ
)
と樹海の空をめぐっている
山嵐
(
さんらん
)
の声と
一節切
(
ひとよぎり
)
の
諧音
(
かいおん
)
は、はからずも
神往
(
しんおう
)
な調和を作って、ほとんど、自然心と人霊とを、ピッタリ結びつけてしまったかのごとく澄みきっていた。
鳴門秘帖:03 木曾の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
床下にいると、外にはないと思っていた風が
冷々
(
ひえびえ
)
と動いていた。太田黒兵助は、自分の膝を抱えこんだまま、骨まで冷えてゆく体がわかった。ガチガチと奥歯が鳴るのをどうしようもなかった。
宮本武蔵:05 風の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
皎々
(
こうこう
)
の月も更け、夜気はきわだって
冷々
(
ひえびえ
)
としてきた。いかに意気のみはなお青年であっても、身にこたえる寒気や、
咳
(
しわぶき
)
には、彼も自己の人間たることをかえりみずにはおられなかったのであろう。
三国志:07 赤壁の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
かかる冬の
冷々
(
ひえびえ
)
とするのに、下には色地の
襟
(
えり
)
をみせているが、上には、
白絖
(
しろぬめ
)
の雪かとばかり白いかいどりを着て、うるしの
艶
(
つや
)
をふくむ黒髪は、根を
紐結
(
ひもむす
)
びにフッサリと、
曲下
(
わさ
)
げにうしろへ垂れている。
鳴門秘帖:02 江戸の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
五月雨
(
さみだれ
)
の
雨滴
(
うてき
)
の中に、
冷々
(
ひえびえ
)
と、そうした感傷の思い出を心に聴き、また従兄弟の光春は、彼の目に触れない遠い
小間
(
こま
)
で、炉の火加減をのぞき、
釜師
(
かまし
)
与次郎が作るところの
名釜
(
めいふ
)
のあたたかな
沸
(
たぎ
)
りを聞き
新書太閤記:07 第七分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
肌は汗だが、山高まるほど、
山気
(
さんき
)
は
冷々
(
ひえびえ
)
と毛穴にせまる。
私本太平記:11 筑紫帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
冷
常用漢字
小4
部首:⼎
7画
々
3画
“冷々”で始まる語句
冷々然
冷々亮々