)” の例文
一学が駈けちらした先々で、赤穂方の者は幾人かを負って、駈け捨てられ、蹴捨けすてられ、切っ先の勢いに刎ね捨てられている。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
枕頭まくらもとには軍医や看護婦が居て、其外彼得堡ペテルブルグで有名なぼう国手こくしゅがおれのを負った足の上に屈懸こごみかかっているソノ馴染なじみの顔も見える。
芝居や寄席のような、人の集まりのなかへも入って行ったが、を負ったようなその心は、何に触れても、深く物を考えさせられるようであった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
で、そのようすは重いを負って、もがきまわっている人間のように見えた。が、なぜ美作の立っているほうへ、好んで転がって行くのであろう?
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
人々は遠距離にありてだにむねを負へるを、君は敵の陣地に入ることなれば、注意して自らまもり給へといふ。
どっと倒れる所、孫右衛門得たりと斬つけて耳の上と眼の上へおわせた。ハラハラとして、その様をみていた市蔵、来金道が打込むとき吾を忘れて走出した。
鍵屋の辻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
宇津谷峠うつのやとうげに差しかかったところを、三人組の兇賊に襲われ、宰領の武家中根鉄太郎なかねてつたろうは斬られ、馬子二人までを負わされて、五千両見事に奪い取られたことがありました。
お客さまも売廻っていたお医者さんの外は皆それぞれを負った。お医者さんには株の打診をする人が多い。僕はその晩勘定に廻った。人情として、喜んで貰える方へ先ず足が向いた。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
光忠にを負わせて、同時に斬り死にした織田家の士は猪子いのこ兵助だといわれている。村井春長軒も、唐橋門の下で討死にした。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「大丈夫でござる、お案じなさるな。……が、少しばかりを負うてござる。……ちと苦しい。……いや大丈夫!」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あだかも人のうなるような……いやうなるのだ。誰か同じくあしを負って、もしくは腹に弾丸たまって、置去おきざり憂目うきめを見ている奴が其処らにるのではあるまいか。
「では申し上げるが——實は昨夜、津志田家に曲者くせものが押入つて、下男の半次にを負はせ」
そう言って淋しく笑う女も、を負った獣のように蒼白い顔をして、笹村の前に慄えていた。骨張った男の手に打たれた女の頭髪かみは、根ががっくりと崩れていた。ただれたような目にも涙が流れていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
だが、残った郷士の一人は、先にを負っていたし、力とたのむ方が、悲惨な最期をとげたので、それも狼狽していた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうしてお前がたった一人で家の中へ飛び込んで行き、九郎右衛門にを負わせたため、さすがの九郎右衛門も自由を失い捕えられたということじゃな」
赤格子九郎右衛門の娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
随分生皮いきがわはがれよう、を負うたあし火炙ひあぶりにもされよう……それしきはまだな事、こういう事にかけては頗る思付の渠奴等きゃつらの事、如何どんな事をするかしれたものでない。
「ゆうべ……いや明け方かも知れんな。この附近、を負った学僧が一名、歩み迷ってはいなかったか。——まだ生若い末輩まっぱいじゃよ。ご存じないかの」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
乱闘のにわから走り出たのは、これまでの戦いに薄手ではあるが、数ヵ所にを負った紋也であった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
頭を繃帯ほうたいしている花和尚、片目をつぶされた劉唐りゅうとう。そのほか、生け捕るために、を負ッたり、またクタクタに骨を折らせられた連中だ。無理はない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「息の音を止めたは八人でもあろうか。を負わせたは二十人はあろう」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その鋭刃えいじんになぎ立てられ、半数あまりの原士たちが、算をみだし、を負って、ドドドッ——と下り勾配こうばいへ押し崩れてゆくのを、夜叉やしゃのごとく追いかけて
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
千坂内膳、市川主膳、大国平馬など——そのときまだ七、八名の顔は見えたが、あとの数名はを負ったか討死したか、早くも謙信の前後に見えなかった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「敵、武田勝頼の勢、山県隊と力をあわせて、お味方の左翼をかこみ、石川数正どのには、われ、中根正照まさてるどの、青木広次どのなど、次々に御戦死です」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その日、末石弥太郎がを負って三木川の草むらに、水をすくって休んでいたのを、いきなりかがみ寄って
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、たすけ起して、走りかけた。を負って、虫の息だった庄七は、由の体も一緒にズルズル引きずって
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
加藤駿河守するがのかみ、浦野民部などまでを負い、とりわけ原美濃守は、この一戦に十三創の重傷で後退したといわれ、また同じく敵方の旗本、新海又三郎、辻六郎兵衛は討死。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とばかり、を負った仲間のひとりだけを引っ担いで駆け出したのは。——ところが、皆の起ち上がった十間ばかり先に、もう一名、弾にあたって斃れているものがあった。
上杉謙信 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さしも泊中はくちゅうでの豪傑たちさえ、それには当りうる者がありません。雷横らいおう、石秀、孫新、黄信こうしん、いずれもを負い、蹴ちらされた兵といったら数えきれず、あの黒旋風の李逵りきまでが」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二、三の者へを負わせたのは確実だが、同時に自分も撲られたりかすきずに染まっている。のみならず、敵はあり余る手にまかせて、小石を拾ったり、雑草を根こぎにして投げつける。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
郷士たちの方は、二人といっても、すでに一人はを負っているので、まったく逆上あがっていた。城太郎の太股ふとももの辺からも、鮮血はそこらへ散るし、文字どおり斬りつ斬られつの修羅図であった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
忽ち、その場で討死するもあり、を負って敵の中へ捲き込まれてしまった者も少なくないが、かくて大部分の者は、機をはかって、まっしぐらに城門のほうへ退き、最後のばしを上げてしまった。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
逃げたら逃げたでいいが、狐にを負わせたことが、不安になった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
されば——この屋根ふきは、至って、おとなしい人間でござりますが、なにか、仕事の上で、ちょっと口返しをしたというのが、相手のかんにさわったらしく、いきなり乱暴をしかけられ、足場から
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だから、手薄なところで、素ばやく三、四名にを負わせ、さっと引き揚げて——後に一乗寺あとにおいては、吉岡の遺弟七十余名を相手に、われ一人にて勝ったりと、世間へいい触らすかもわからぬて
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)