うらゝ)” の例文
若いころの自分には親代々おやだい/\薄暗うすぐらい質屋の店先みせさきすわつてうらゝかな春の日をよそに働きくらすのが、いかにつらくいかになさけなかつたであらう。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
気紛れなあの雪の日も思ひ出せないやうなうらゝかな日、晴代はもう床を離れてゐたので、かぶさつた髪をあげ、風呂へも行つた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
池には天下第一泉の清い水が滾々こん/\として湧き出してゐる。日はうらゝかに照つてゐる。実際、唐扇にでも書いてありさうなシインであつたのを記憶してゐる。
花二三ヶ所 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
宗助そうすけうちかへつて御米およねこのうぐひす問答もんだふかへしてかせた。御米およね障子しやうじ硝子がらすうつうらゝかな日影ひかげをすかして
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
ほのかな哀感の霞を隔てゝうらゝかな子供芝居でも見る樣に懷かしいのであるが、其中で、十五六年後の今日でも猶、鮮やかに私の目に殘つてゐる事が二つある。
二筋の血 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
崖の下から引揚げたばかりで、まだこももかけない與三郎の死骸が、折からのうらゝかな春の朝陽に照らされて、見るも無慘むざんな姿を横たへて居るではありませんか。
田圃たんぼには赤蜻蛉あかとんぼ案山子かゝし鳴子なるこなどいづれも風情ふぜいなり。てんうらゝかにしてその幽靈坂いうれいざか樹立こだちなかとりこゑす。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
空は晴れ渡りて、日はうらゝかに照りぬ。我は父君母君の盛妝せいさうせる姫を贄卓にへづくゑの前に導き行き給ふを見、歌頌の聲を聞き、けふの式を拜まんとて來り集へる衆人の我四邊めぐりを圍めるを覺えき。
その日は朝から晴れ渡つて、春の来たことを知らせる様なうらゝかな日であつた。午頃に伯父が来て、会計その他の退院手続きを済し、午後の二時頃になつて、私達は車を連ねて病院の門を出た。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
翌朝は殊にうらゝかな晴天であった。
ラ氏の笛 (新字新仮名) / 松永延造(著)
さま/″\のをんな引込ひつこむのをとしたが、當春たうしゆん天氣てんきうらゝかに、もゝはなのとろりと咲亂さきみだれた、あたゝかやなぎなかを、川上かはかみほそステツキ散策さんさくしたとき上流じやうりうかたよりやなぎごとく、ながれなびいて
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
櫻のつぼみもふくらんだ、あるうらゝかな春の日の晝少し前のこと——。