鎮撫ちんぶ)” の例文
旧字:鎭撫
懐良王は、後醍醐ごだいご帝の皇子、延元えんげん三年、征西大将軍に任じ、筑紫つくし鎮撫ちんぶす。菊池武光きくちたけみつこれに従い、興国こうこくより正平しょうへいに及び、勢威おおいに張る。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「どうでしょう、暮田さん、沢家のおやしきの方へは何か報告が来るんでしょうか。東山道回りの鎮撫ちんぶ総督も行き悩んでいるようですね。」
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
この輩を名づけて国侍・地侍じざむらいまたは郷士ごうしと称えている。地侍の鎮撫ちんぶ策は、新たなる国持衆くにもちしゅうの最も取扱いに困難したる問題である。
名字の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
小原はきわめて手際てぎわよくかれらを鎮撫ちんぶした、かれは平素沈黙であるかわりにこういうときにはわれ鐘のような声で一同を制するのであった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
仏高力ほとけこうりきと呼ばれた河内守清長かわちのかみきよながの曾孫で、島原の乱後、ぬきんでて鎮撫ちんぶの大任を命ぜられ、三万七千石の大禄をみましたが
そして、二月の初めには、一党の軍師といわれる吉田忠左衛門が、内蔵助の命を含んで、関東の急進派鎮撫ちんぶのために江戸へ下ることになった。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
西郷南洲さいごうなんしゅう翁が慶応けいおう年間、京都に集まった薩摩さつまの勇士の挙動はなはだ不穏なりと聞き、これが鎮撫ちんぶに取りかかったとき
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
さてこれが鎮撫ちんぶに当るものが五百でなくてはならぬのは、長尾の家でまだ宗右衛門が生きていた時からの習慣である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
高田郡兵衛が顔を見せないために、原惣右衛門や、大高源吾などの鎮撫ちんぶの使者に、正面から自分たちの主張をのべて当る者は、堀部安兵衛になっていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それを鎮撫ちんぶするのに、陸軍大臣に麻布あざぶ第三連隊に総動員を命ずるという前代未聞の大騒ぎが起ったのであった。
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
八十人あまりのおもに薩摩のさむらいが二階と階下とに別れて勢揃せいぞろいしているところへけつけてきたのは同じ薩摩なまりの八人で、鎮撫ちんぶに来たらしかったが、きかず
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
奈良にこの意を体して赴いた別当忠成の鎮撫ちんぶの言は、いきり立った興福寺の大衆の耳に入らなかった。まして年来平家に対して憎悪の念を抱きつづけてきた寺である。
正月、戊辰ぼしんの戦いの意味もまだ分明しないうち、早くも同じく三月には奥羽鎮撫ちんぶの征討軍が起された。順逆の態度を考えるひまもないほど、ことは矢つぎばやに起った。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
やっとのことで銘々の「マギイ」を鎮撫ちんぶ納得誤魔化ごまかし果せた「ジグス」たちが、期待と覚悟と解放のよろこびに燃え立ちながら、こうしてここ、音に聞くアレキサンドル橋のたもと
群集は崩れ、雑沓ざっとう鎮まり、一条の紛乱はかくしてようやく鎮撫ちんぶに帰しぬ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼らはわれわれのほうへ詰め寄りながらも、同時にわれわれをあがめ恐れて、荒れさわぐ数億の羊の群れを鎮撫ちんぶすることのできる偉大な力と知恵とを持ったわれわれを、誇りとするに至るだろう。
「それにまた国司信濃や益田右衛門介らが鎮撫ちんぶを名としてせ加わって、とうとう御所へ押しかけてしまった、そこで会津、一橋、薩州の兵を相手に、かしこくも宮闕きゅうけつの下を戦乱のちまたにしてしまった」
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
人心じんしん籠絡ろうらくしてその激昂げきこう鎮撫ちんぶするにるの口実こうじつなかるべからず。
東征先鋒せんぽう鎮撫ちんぶ総督らの進出する模様は、先年横浜に発行されたタイムス、またはヘラルドの英字新聞を通しても外人の間には報道されていた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
松山の板倉伊賀守勝静いたくらいがのかみかつきよは老中を勤めてゐた身分ではあるが、時勢にそむ王師わうしに抗すると云ふ意志は無かつたので、伊木の隊は血を流さずに鎮撫ちんぶの目的を遂げた。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
群集ぐんしゅう心理しんりが、かく落ちつかなくなったものを、にわかに鎮撫ちんぶすることは、とうてい容易よういなことではない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すなわち勘定の便利を本位にした点は村を補助貨幣のごとく取り扱ったわけである。地侍じざむらい鎮撫ちんぶするためにも、なるべく多くの名主・庄屋を設ける必要があった。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
日ごろ西郷にこころよからぬ人々が西郷の挙動をもって正反対の意味あるがごとくに言い放ち、西郷は名を浪士の鎮撫ちんぶるが、実はこれを煽動せんどうするものであると、島津久光しまづひさみつ公に告口つげぐちした。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「オロシャの蚕食」といい、「蝦夷えぞ鎮撫ちんぶ」といい、つまりは「北門の開発」という言葉だけの美しさを、どう、どこから解決してよいのか。これという見当もついていない有様である。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
ごう二十二人、兵部侍郎へいぶじろう廖平りょうへい刑部侍郎けいぶじろう金焦きんしょう編修へんしゅう趙天泰ちょうてんたい検討けんとう程亨ていこう按察使あんさつし王良おうりょう参政さんせい蔡運さいうん刑部郎中けいぶろうちゅう梁田玉りょうでんぎょく中書舎人ちゅうしょしゃじん梁良玉りょうりょうぎょく梁中節りょうちゅうせつ宋和そうか郭節かくせつ刑部司務けいぶしむ馮㴶ひょうかく鎮撫ちんぶ牛景先ぎゅうけいせん王資おうし劉仲りゅうちゅう
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それを自身に関係ある事だとして直ちに江州路ごうしゅうじへ出張し鎮撫ちんぶに向かいたいよしを朝廷に奏請したのも、京都警衛総督の一橋慶喜であったという。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
急はすぐ八方に知れて、このことを松平方へ早打ちする役人もあり、また、たつくちへ報ずる者もあって、丹後守とは縁戚の老中秋元但馬守は、真っ先に駈けつけて来て一同を鎮撫ちんぶした。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
機運が動いたからこそ、薩州公などは鎮撫ちんぶに向かって来たし、長州公はまた長州公で、藩論を一変して乗り込んで来た。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それも、泣く子にあめねぶらすように、われわれを鎮撫ちんぶに来るというのだ。俺たちが、君家の名を重んじ、武士の第一義にじゅんじようとするのが、大石殿には、唯、無謀な血迷い事と見えるらしい。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今度の東山道先鋒せんぽうは関東をめがけて進発するばかりでなく、同時に沿道諸国鎮撫ちんぶの重大な使命を兼ねている。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「もう鎮撫ちんぶの道がなく——」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
水戸にある三左衛門はこの鎮撫ちんぶの使者に随行して来たものの多くが自己の反対党であるのを見、その中には京都より来た公子余四麿よしまろの従者や尊攘派の志士なぞのあるのを見、大炊頭が真意を疑って
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)