ふさ)” の例文
汝等にこそわが魂は、これを己がもとに引くその難所をばゆるにふさはしき力をえんとて、今うや/\くしく嘆願なげくなれ 一二一—一二三
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
そうした中では『源氏物語』が今日の文学というにふさわしい所まで変質しきった形を見せている最初のものといってよいかも知れない。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
ですが、わしにはそう申すよりも、むしろそういう高貴な壁でめぐらされた、牢獄と云った方がふさわしいような感じがしますのじゃ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
しかも刮目かつもくに値するのは、必らずこういう話を一種厳粛な調子で包み、その場にふさわしい態度を保つ心得のあったことである。
岸本は節子に珠数ずずを贈った。幾つかの透明な硝子のたまをつなぎ合せて、青い清楚せいそ細紐ほそひも貫通とおしたもので、女の持つ物にふさわしく出来ていた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私達は大安寺で人夫達に作らせて来た昼食の弁当を此処で開いたが、腥いハムの缶詰などを切る事は所柄にふさはず、道士達に対して気が咎めた。
が、元来そういう顔の方が千恵造にはむしろふさわしいのだ。殊にこの場合、彼がいそ/\としていたら、所詮人々の蔭口をまぬがれぬところだ。
俗臭 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
行きうている会社員たちの洋服はたいてい白っぽい合着に替えられて、夏にはふさわしい派手な色のネクタイが、その胸に手際よく結ばれていた。
青木の出京 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そこには琴、鏡臺、二三の女にふさはしい書籍の類があつて、おつなの稀にする美的生活の一面を暗示するのである。富之助は默つて姉の女らしい所を觀察した。
少年の死 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
「その人はこの国じゅうで王の後見している女の夫として誰よりもふさわしい人です。その人は尊い血筋で、その人自身が王の子です。しかし、アルトニヤ人です」
(新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
見たところ派手でハイカラでもうけの荒いらしいその商売が、一番自分の気分にふさっているように思えた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
この要求をみたすに最もふさわしい形式が、ツルゲーネフこのかた半世紀を洋々として流れて来ているロシヤ的インテリ小説の伝統の中に見出されることは、あらためて言うまでもなかろう。
チェーホフの短篇に就いて (新字新仮名) / 神西清(著)
この一自覚の中に、救ひも、解脱げだつも、光明も、平安も、活動も、乃至ないし一切人生的意義の総合あるにあらずや。嗚呼吾れは神の子也、神の子らしく、神の子としてふさはしくきざるべからず。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
併し、この願ひのなかには、わざとらしい、遊戯的な所謂いはゆる詩的といふやうな、又そんな事をするのが今の彼自身にふさはしいといふ風な「態度」に充ちた心が、その大部分を占めて居たのである。
それは神秘の国への通路として、まことにふさわしいものであった。
あゝこれらのいとも富めるはこに——こは下界にて種をくにふさはしき地なりき——收めし物の豐かなることいかばかりぞや 一三〇—一三二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「ねえ支倉君、せめて、最後の送りだけでも、この神聖家族の最後の一人にふさわしいよう、伸子を飾ってやろうじゃないか」
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その質素な色彩いろどりといかにも余念なく餌をくれている人物の容子ようすとは、田舎にあった小泉の家にふさわしいものである。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼は彼自身にふさわしい恥多き苦しみ多き刑死を遂ぐる代りに、よろこびに溢れ光栄に輝き凱旋的にこの世を去ったことを知って、私は憤忿の念に堪えないのであります。
ある抗議書 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
デュアック 王さま、強者がその身にふさわず行うた罪悪をば、神々は殊さらにお嫌いなされます。
ウスナの家 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
土がふさわぬところから、お島が如何いかに丹精しても、買手のつかぬうちに、立枯になるようなものが多かったが、草花の方も美事に見込がはずれて、種子たねが思ったほどにさばけぬばかりでなく
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
汝の了解さとりふさはしきまで明らかなるゆきわたりたる言葉にてその説示されんことを願ふ、げにこゝにこそつぶさくべき事はあるなれ —二七
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
そこを上りきったところまで行くと軒毎に青簾あおすだれを掛けた本町の角へ出る。この簾は七月の祭に殊にふさわしい。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
また、その光は、法水の鼻孔や口腔を異様に拡大して見せて、いかにも、中世異教精神を語るにふさわしい顔貌を作るのだった。しかし、熊城は不審を唱えた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
デュアック あなたが王であらせられて、王にふさわぬ道をお選びなされた為でございます。
ウスナの家 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
坂下鶴吉が、国家の刑罰を受けて悪人にふさわしい最期を遂げただろうと、想像することに依って、僅かな慰めを受けて居た私は、此の告白を読んで、自分の感情を散々に傷つけられてしまいました。
ある抗議書 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
かくて我等はかの時かたるにふさはしくいまはもだすにふさはしき多くの事をかたりつゝ光ある處にいたれり 一〇三—一〇五
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
丁度あの囚人しゅうじんの姿こそ自分で自分のむちを受けようとする岸本の心にはふさわしいものであった。眼に見えない編笠。眼に見えない手錠。そして眼に見えない腰繩。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それは朔郎の室にふさわしくない豪華な大時計で、昨年故国に去った美校教授ジューベ氏の遺品だった。
後光殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
汝の善き行ひの爲に却つて汝の仇とならむ、是亦宜なり、そは酸きソルボにまじりて甘き無花果の實を結ぶはふさはしき事に非ざればなり 六四—六六
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
新しい艶のある洋服を着て、襟飾えりかざりの好みもうるさくなく、すべてふさはしい風俗のうちに、人を吸引ひきつける敏捷すばしこいところがあつた。美しく撫付なでつけた髪の色の黒さ。頬の若々しさ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あの鬼草は、たくましい意欲に充ち満ちていて、それはさすがに、草原の王者と云うにふさわしいばかりでなく、その力もまた衰えを知らず、いっかなくことのない、兇暴一途いちずなものであった。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
わが兄弟達よ、神平安を汝等に與へたまへといふ、我等直ちに身をめぐらしぬ、而してヴィルジリオはふさはしき表示しるしをもてこれに答へて 一三—一五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
あの灰色に深い静寂なシャヴァンヌの『冬』の色調こそ彼地かのちの自然にはふさわしいものであった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
人の爲に造られし食物くひものよりは橡實つるばみを喰ふにふさはしききたなき豚の間に、この川まづその貧しき路を求め 四三—四五
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
願はくは萬物よろづのものうるはしき聖息みいきに感謝するのふさはしきをおもひ、聖名みな聖能みちからめたたへんことを 四—六
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)