遠退とほの)” の例文
段々だん/\むら遠退とほのいて、お天守てんしゆさびしくると、可怪あやし可恐おそろしこと間々まゝるで、あのふねものがいでくと、いま前様めえさまうたがはつせえたとほり……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
宗助そうすけしろすぢふちつたむらさきかさいろと、まだらないやなぎいろを、一歩いつぽ遠退とほのいてながはしたこと記憶きおくしてゐた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「広岡さん、貴方が何ぞといつてはお叱りになるもんですから、つい皆さんの足が遠退とほのくんでせうよ。」
私は遠退とほのいてゆく燭光あかりをじつと見まもつてゐた。彼は極めて靜かに廊下をよぎり、出來るだけ音をたてないやうに階段室のドアを開けて後をとざした。それで燈火あかりの最後の光も消えてしまつた。
ちやうどいいくらゐに程遠くで、さうして現実よりは夢幻的で、夢幻よりは現実的で、その上雨の濃淡によつて、或る時にはそれが彼の方へやや近づいて、或る時にはずつと遠退とほのいて感じられた。
海はまた遠退とほのいてく。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
けれども、そのまないた下駄は、足音あしおと遠退とほのくに従つて、すうとあたまからして消えて仕舞つた。さうしてが覚めた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
此困難は約一年許りで何時いつにか漸く遠退とほのいた。代助は昨夕ゆふべゆめと此困難とを比較して見て、妙に感じた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
蘇生よみがへつたやうにはつきりしたさい姿すがたて、おそろしい悲劇ひげきが一遠退とほのいたときごとくに、むねおろした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
其内そのうち何時いつとなく、二人ふたりあひだはさまつてゐたかげやうなものが、次第しだい遠退とほのいてほどなくえて仕舞しまつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)