遙々はるばる)” の例文
お前はこの国を見ようとしてあの星の光る東の方から遙々はるばるとやって来たのか。この国にあるものもお前の心を満すには足りないのか。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私は中に立つて、其の夫人と、先生とに接吻キッスをさせるために生れました。して、遙々はるばる東印度ひがしインドから渡つて来たのに……口惜くやしいわね。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
今年は豆類其他で千円も収入みいりがあろうと云うことであった。細君の阿爺ちゃん遙々はるばる讃岐さぬきから遊びに来て居る。宮崎君の案内で畑を見る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
“俺が万一の時には命を賭けても守ろうという決心で、国境から遙々はるばる雲南府まで持って行ったあの機密書類が、買官の依頼状だったのだろうか。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
羚羊かもしか、猿、山猫、山犬などの毛皮を携えて遙々はるばる前橋まで集まってきたが、明治になってからはこれを神戸の商館へ持ち込んで外国へ輸出している。
たぬき汁 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
箱根を越せば蛇神の祟りはないというのもあてにはならなかった。お綱はわが子のゆくえを尋ねて、九州から江戸まで遙々はるばると追って来たのであろう。
半七捕物帳:30 あま酒売 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
江戸から遙々はるばる追って来て、邂逅めぐりあってみれば死骸である。病気ではない切り死にだ。こういう憂き目に会うほどなら、江戸にいた方がよかったろう。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「西洋の学者の掘り散らした跡へ遙々はるばる遅ればせに鉱石のかけらを捜しに行くのもいいが、我々の脚元に埋もれてゐる宝を忘れてはならないと思ふ。」
寺田寅彦 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
委細いさいは後で話す。逃げ隠れする程なら、大牟田公平は、遙々はるばる国表くにおもてから出て来て、しかもここまで参りはいたさん。
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで序をかくときに不図ふと思い出した事がある。余が倫敦ロンドンに居るとき、忘友子規の病を慰める為め、当時彼地かのちの模様をかいて遙々はるばると二三回長い消息をした。
どういう訳で「マノリ」が「馬鹿なこと」になるかと聞いてみたが要領を得なかった。その後この疑問を遙々はるばる日本へ持って帰って仕舞い込んで忘れていた。
喫煙四十年 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
土地をひらき、人民を安堵あんどさせ、北門の鎖鑰さやくを樹立する任務をになって遙々はるばるやって来た初代の開拓判官は島義勇。雪のなかに建府の繩ばりをしたものである。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
これも遙々はるばる退屈凌ぎの相手を探しに来たのだから、仇にめぐり合ったも同様の嬉しさを感じたのである。
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そこで、両親は、八九郎をつれ、遙々はるばるT市をたずねて、鬼頭博士の診療を請うことにしたのである。
二重人格者 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
それにつけても心に懸るは、今日、父侯爵の古美術蒐集品を観賞する為に、東京から遙々はるばる自動車を飛ばして、御で遊ばすという、F国大使ルージェール伯爵様のこと。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
法然が、配流のこと遠近に聞えたうちに、武蔵国の住人津戸三郎為守は深くこれを歎いて、武蔵の国から遙々はるばる讃岐の国まで手紙を差出したが、法然はそれに返事を書いて
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
静かに一夜の祭を営むに適していたとも見られるが、なおそれ以上に一年に一度、この日を定めの日として遙々はるばると訪れたまう神があると、今も信じている処もあるのである。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
これまで陸路を遙々はるばると、いろいろの処を通って来たが、これからいよいよ船に乗って、更に多くの島のあいだを通りつつ、とおく別れて筑紫へ行くことであろうというので
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
大名のある者は大なる富、陸地を遙々はるばると江戸へ来る行列の壮麗、この儀式的隊伍が示した堂々たる威風……これ等は封建時代に於る最も印象的な事柄の中に数えることが出来る。
「は、御意の如く、真に、勿論……新九郎といたしましても、遙々はるばる国許より、その」
蕗問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
お家来の衆を遙々はるばる紀州へおつかわしになりました時など、事の真相をただすというよりも、あれは嘘だと申す証拠を掴みたがって居られるようにさえ感ぜられましたのでございました。
殺された天一坊 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
清水谷観音きよみずだにかんのんの(汝の夫たるべき男はみちのくにいる)というお告げで、遙々はるばると東北まで来て見ましたが、そんな男はどこにも見当たりませんし、そのうちみちを迷って山へ這入はいりますと
お人好しに遙々はるばるよこされて来るのを見れば、厭だと云えやしないじゃないか
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
愛する娘のお雪が、どういう壮年わかものと一緒に、どういう家を持ったか、それを見ようとして、遙々はるばる遠いところを出掛けて来たのであった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
随分ずいぶん遙々はるばるの旅だつたけれども、時計と云ふものを持たないので、何時頃か、それは分らぬ。もっと村里むらざとを遠く離れたとうげの宿で、鐘の声など聞えやうが無い。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
こんな訳なら遙々はるばるこんなところまでくるんじゃなかった。と言うと、友人は、いやこれは腐った鯨肉の臭いだ。
海豚と河豚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
親切そうな風貌と手頼たよりあり気だった言葉つきとを唯一の頼みにして、訪ねて行きどうして遙々はるばる江戸くんだりからこの長崎までやって来たかを隠すところなく語ったのであった。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
驢馬ろばに乗つて行く、その方が登山鉄道で行くよりも賃銭も安く、遙々はるばる観光に来た旅人にとり興味あることであり、一つ一つの経験を印象するにはこれに越したことはないといふのである。
ヴエスヴイオ山 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
拙者は、長州の藩士はんし金子重輔かねこじゅうすけという者。この松代藩で有名な佐久間象山さくまぞうざん先生の名をおしたいして、遙々はるばる、江戸から廻り道して立ち寄ったが、生憎あいにく、象山先生は御不在、むなしく帰って来たところだ
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二人はきわめてたまにしか逢う機会がなかったにかかわらず、ゆく末はかならず夫婦になろうと約束していた、そこで今度女の年期が明けたので、約束に違わず遙々はるばるとやって来たものであるという。
留さんとその女 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
遙々はるばる来たのに水臭いことを云う奴だな」
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
このすっぽんは、二、三日前、父君重松代議士が郷里豊前国柳ヶ浦から遙々はるばる携えてきたのであるという。
すっぽん (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
理窟りくつを聞くんぢやありません、私はね、実はお前さんのやうな人につて、何か変つた話をしてもらはう、見られるものなら見ようと思つて、遙々はるばる出向いて来たんだもの。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
日用生活の品物であつたが、これもの小山ほど積まつた荷の名状すべからざる中をくぐり通過して、遙々はるばる届けられたのだとおもふと、自分は日本の運輸機関を祝福し感謝したのであつた。
三年 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
不穏なたくらみがあると聞けば、すぐこの身を思うて、白金しろがねの下屋敷へおかくまい申そうとか、米沢の本城へお越しあれとか、遙々はるばる、遠い国許から心を寄せて案じてくれるのに引換えて、その主君のことばを
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遙々はるばると辺土の防備に行く自分は、その似顔絵を見ながら思出したいのだ、というので、歌は平凡だが、「我が妻も画にかきとらむ」という意嚮いこうが珍らしくもあり、人間自然の意嚮でもあろうから
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「宗矩にも遙々はるばる見えられたか……」
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)