まかない)” の例文
例えば、今から二十年ほどまえまでは池上の店で店長の食事のまかないには、店の守神にみあるを嫌って、獣肉を一切使わせなかった。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ここにゃちっちゃなお客がいますんで、——ひっ! ひっ! 新規のまかない附の下宿人って訳でさ。達者でぴんぴんしてますよ。
右のほかに三使節の家来両三人ずつと、まかない小使こづかい六、七人、この小使の中には内証で諸藩から頼んで乗込んだ立派な士人もある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それはまかないを呼起して残飯を大鍋へ叩き込んで、それへ葱大根などを切交えて、それを啜り合うのである。酒は欲しいけれども多く得られなかった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
まかないも変ってから、白い頭巾ずきんを冠った亭主が白い前垂を掛けたおかみさんと一緒に出て、食卓テーブルの指図をするように成った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その後四五日は重湯おもゆばかりすすっていたので、腹は空いたらしかった。そのつどまかないから届けてくる食事を見るたびに、順吉は不服そうな顔つきをした。
夕張の宿 (新字新仮名) / 小山清(著)
「飯だ!」まかないがドアーから身体の上半分をつき出して、口で両手を囲んで叫んだ。「時化てるから汁なし」
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
私の一生のうちで一番はなやかな時だすな。尤も、まかないは向う持ちで、仕事の為なんだすからあきまへんけンど。
高校のまかないのことその他は訊き合せて見ましょう。この二三日持って歩いて大仏次郎の「由井正雪」をよみました。前、中、と。これはこの作者の傑作の一つです。
大きな炉のある広い台所は「料理部屋」と呼ばれているが、それに続いてまかない部屋があり、そこでは館に仕える家従たちが、膳を並べて食事をしているところであった。
私は大喜びで、お河童かっぱの頭を振り振り附いて行きます。まかないの菜の外に、何か兄の口に合う物をというのですが、つい海苔のり佃煮つくだに、玉子などということになるのでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
余はこれらの人と、一つ屋根の下に寝て、一つまかないの給仕を受けて、同じく一つ春を迎えたのである。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おなじ県でも金沢だけにありました専門学校へ通うのに、私のうちを宿にした。——まかないつき間貸ととなえる、余り嬉しくもない、すなわちあれです。私との縁はそれなんです。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「人にされても僕は迷惑しない、だからする。」恒藤は又まかない征伐をせず。皿を破り飯櫃を投ぐるは僕も亦能くせざる所なり。僕問う。「君はなぜ賄征伐をしない?」恒藤答う。
恒藤恭氏 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
博士の家のまかないをしていて、儲けたいと思っていましたが、博士は倹約けんやくですから、無駄なことをしません。私のところへ来て、博士も奥さんもケチで困ると言ったことがありました。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
目敏めざとい新聞記者連に取り巻かれそうになりましたので、慌てて馬車を引返して、ちょうどお宅に面しております未決監の、まかない部屋の勝手口から命からがら逃げ込む始末で御座いました。
霊感! (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「しからば、貴下の手勢のみ率いて、兵糧そのほかのまかない、心のままにし給え」
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
えんの方へ廻れと云うたら、障子をあけてずンずン入って来たから、縁から突落して馬鹿と叱った。もと谷中村やなかむらの者で、父は今深川ふかがわ石工いしく、自身はボール箱造って、向うまかないつき六円とるそうだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
英夫はまかない部屋の方に、ことり……と、鼠のようなかすかな物音を聞いた。
秘境の日輪旗 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
まかないもやる、草取りもやる、運動場の設備もやる、その町々の衛生的経営実施もやる、村の道普請もやる、殖林もやる、校舎の増築もやる、電車の軌道も築き上げる、耕作もやる、下水の疎通もやる
僧堂教育論 (新字新仮名) / 鈴木大拙(著)
七時にまかないの拍子木が鳴る。古賀を起す。古賀は眠むそうに目をく。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
この梅干船(この船はまかないが悪いのでこの仇名あだなを得て居た)
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
夫妻同居、夫が妻を扶養するは当然の義務なるに、其妻たる者が僅に美衣美食のまかないを給せられて、自身に大切なる本来の権利を放棄せんとす、愚に非ずして何ぞや。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
まかないの食わせる晩食ばんめしあじわおうとして、二人は連立って食堂の方へ行った。黙し勝な捨吉は多勢の青年の間に腰掛けて、あの繁子に図らず遭遇でっくわしたことを思出しつつ食った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
まかないはるか半町も離れた二階下の台所に行かなければ一人もいない。病室では炊事割烹すいじかっぽうは無論菓子さえ禁じられている。まして時ならぬ今時分いまじぶん何しに大根だいこおろしをこしらえよう。
変な音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「叔父さん、婆やに泊って貰って、まかないをやらせちゃ何うですか?」
変人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
まかないはしてくれるんでしょうか」
明るい海浜 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
大阪まで船賃が一分二朱いちぶにしゅまかないの代は一日若干いくら、ソコデ船賃を払うたほかに二百文か三百文しか残らぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その佐藤は成立学舎の寄宿へ這入った。そこでまかない征伐をやった時、どうした機勢はずみか額にきずをして、しばらくの間白布しろぬので頭を巻いていたが、それが、後鉢巻うしろはちまきのようにいかにも勇ましく見えた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
翌朝よくあさに成って、附添の女は私達の為にまかないの膳を運んで来た。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
初めてまかないの飯を喰べて、近辺へ散歩に出掛けた時
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ここに着物が二枚ある、是れでまかないの代ぐらいはあるだろう、ほか書籍ほんもあるが、是れは何にもならぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ちょっとはいってみたが、西日をまともに受けて、苦しくって居たたまれない。田舎いなかだけあって秋がきても、気長に暑いもんだ。生徒のまかないを取りよせて晩飯を済ましたが、まずいにはおそった。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と私は会社のまかない弁当を見詰めた。
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
まかないも持ってやりましょうよ」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)