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谿川
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たにがは
まだ
暮果てず
明いのに、
濡れつゝ、ちらちらと
灯れた
電燈は、
燕を
魚のやうに
流して、
靜な
谿川に
添つた。
流は
細い。
おしやれな
娘兎のこととて、でかけるまでには
谿川へ
下りて
顏をながめたり、からだ
中の
毛を一
本一
本、
綺麗に
草で
撫でつけたり、
稍、
半日もかかりました。
獨りで
苦笑ひして、
迫上つた
橋掛りを
練るやうに、
谿川に
臨むが
如く、
池の
周圍を
欄干づたひ。
當時寫眞を
見た——
湯の
都は、たゞ
泥と
瓦の
丘となつて、なきがらの
如き
山あるのみ。
谿川の
流は、
大むかでの
爛れたやうに……
其の
寫眞も
赤く
濁る……
砂煙の
曠野を
這つて
居た。
地方は
風物に
變化が
少い。わけて
唯一年、もの
凄いやうに
思ふのは、
月は
同じ
月、
日はたゞ
前後して、——
谿川に
倒れかゝつたのも
殆ど
同じ
時刻である。
娘も
其處に
按摩も
彼處に——
家のかゝり
料理の
鹽梅、
酒の
味、すべて、
田紳的にて
北八大不平。
然れども
温泉はいふに
及ばず、
谿川より
吹上げの
手水鉢に
南天の
實と
一把の
水仙を
交へさしたるなど、
風情いふべからず。